第2話 ヤンキーだって弱い物がある


「はぁ~。クソッ!」


 いわれれの無い疑いを掛けられたかけるは警察が遠ざかると、憂さ晴らしに足下のボールを蹴飛ばした。


「あはは。災難だったね」


 後ろから声がしたので振り返ると、そこには美人JKが立っていたので、翔は自分に掛けられた言葉なのか確認しようとキョロキョロしている。


「君だよ君。君に言ったんだ」


 それを見兼ねたJKは長い黒髪を揺らしながら寄って来たので、翔はさっと目を逸らした。これは、あまりにも美人だから照れているのと、自分に話し掛けて来る女性が母親以外いなかったから戸惑っているのだ。


「俺になんの用だよ」

「ちょっと気になることがあってね。お話しない?」

「俺と? 俺と一緒にいたら、何かと面倒に巻き込まれるかもしれねぇぞ」

「あはは。怖い人かと思ってたけど、意外と優しいんだ」


 JKに褒められて翔は満更でもない顔をしたが、いまだにJKの顔を見れないでいる。


「私は玉城紬たましろつむぎ。三高の二年よ。その制服だと一年生よね?」

「ああ。俺は長瀬翔。一年っす」


 自己紹介しても視線を合わせてくれない翔の顔を紬は覗き込むが、翔はその都度顔を背ける。


「てか、話ってなんすか?」

「おっ。上の人を敬えるんだ。エライエライ」

「茶化してないでさっさと用件言ってくんないっすか? ……へ?」


 頭を撫でられて少し嬉しい翔であったが、ヤンキー設定も崩せないのでイラついた振りをして紬の顔を見たら固まった。


「やっとこっち見てくれた」


 ニッコリ微笑む紬を直視したからには、ボッチヤンキーには笑顔が眩しすぎたのであろう。


「な、なんすかそれ?」

「君、やっぱり見えてるのね」


 いや、紬の背後には3メートル近くあるドス黒い球体。翔はその謎のボールが気になって固まったのだ。


「たまたまこれの仲間を蹴ってる君を見たから気になって追いかけたら、なんか変な体勢で蹴りまくっていたから声を掛けづらくて……そしたら警察にも捕まりそうになってたじゃない?」

「まぁ……そっすね」


 翔も、似たような事をしている人がいたら絶対に避けると思うので頷くしかない。


「それってなんなんすか? 俺も毎日のように寄って来られて困ってるんすよ」

「何って……見ての通りよ」

「いや、見てもわからないから聞いてるんすよ」

「え? 見えてるならなんとなくでもわかるでしょ?」

「まったく……ただのボールにしか」

「これがボール??」


 紬は後ろと翔の顔を二、三度見比べてから答えを出す。


「そっかそっか。翔君は中途半端に見えてるんだ」

「中途半端っすか?」

「そう。霊能者でも完全に見える人が少ないもの。私にはハッキリ見えるんだけどな~」

「霊能者って、幽霊が見えるとか言って金を巻き上げる奴っすか?」

「そうそう。それ。私も何度も騙されたな~」

「つまりは……」


 紬の説明で、翔はこのボール達の正体に気付いた。そこに紬は、ノートを広げて追い討ちする。


「うん。君が蹴っていたのは幽霊、もしくは悪霊と呼ばれているヤツだね。ちなみに私に取り憑いてるのはこんなヤツ。写真に映らないから描いたの」


 そのノートには、この世の物とは思えないほど歪んだ顔をしたモノ。人の形に近い体は全身真っ黒で、手は六本も生えていた。


「こ、こんなのが、まさか~……」


 顔を上げた瞬間、翔の視界がクリアに。ノートに描かれたモノ瓜二つの物体が紬を後ろから包み込み、ヨダレを垂らしている姿がハッキリと翔の目に映し出されたのだ。


「それでね。君に頼みがあるんだけど……」


 翔の表情の変化に気付かず紬は喋り出したが……


「おおおお、おばけ! おばけ~! うっきゃああぁぁ!」


 翔はとんでもなく取り乱して逃げて行くのであったとさ。

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