第8話 反撃


「プッチーン」


 道路の壁に打ち付けられたかけるはキレてなんか言った。


「オラ~! クソ悪霊が~! 相手になってやんよ! 表出ろやオラ~~!!」


 そしてマジギレ。これは、今までキレた事のない翔の初体験。さすがにここまでキレていたら、悪霊も怖くないみたいだ。


『イキテル。コロス』


 その声に反応して、悪霊もつむぎを抱えたままベランダから飛び下りた。


「おうおうおう。やってくれたな」


 そこに、ヤンキーっぽく肩で風を切って前進した翔。メンチも切って悪霊を睨んでいる。


『コロス』

「それはこっちのセリフだオラッ!」


 悪霊が六本ある腕の一本を伸ばすと、翔は左足で蹴りあげる。


『??』


 その蹴りで、悪霊の腕は空に舞い上がって消えて行った……


「覚悟しろよオラッ!」


 そこからは、翔劇場の始まり。回し蹴りに横蹴り。飛び蹴りに後ろ回し蹴り。悪霊の腕や体を左足で蹴りまくる。

 しかし悪霊は、新しく腕を生やすだけでなく何十本も増やして翔を掴もうとした。


「オラ~~!」


 数が増えても翔は慣れたモノ。逆立ちしての回転蹴り。次々と悪霊の腕は空へと消えて行く。


「きゃっ」


 そうこうしていたら悪霊の体も小さくなり、紬は倒れるように地面に落ちた。


『オンナ、オレノ』

「パイセンは誰の物でもねぇ~~!」


 ラストは、ヤンキーらしくケンカキック。空手で言うところの、前蹴りだ。


「どんなもんだ~~!」


 そして、両手を腰に引いての勝ち名乗り。その翔の雄叫びは、近所に響き渡るのであった……



「紬~~!」


 悪霊が成仏すると同時に、花が家から飛び出して紬を抱き締めた。お互い涙ながらに心配し合い、しばらくして泣き止んだら、花の肩を借りた紬は翔の前にやって来た。


「翔君……ありがとう。あのままじゃ、私、死んでたよ。本当にありがとう」

「べ、別に……俺はムカついたから蹴っただけっす」


 初めて両親以外から感謝の言葉を掛けられた翔はツンデレ。紬の顔も見てられないみたいだ。


「それでもだよ。やっぱり翔君は私の王子様だったんだね。ありがとう」

「おっふ……」

「ああぁぁ~!」


 紬の突然の行動に花が叫ぶ。そりゃ、翔に抱きついて頬にキスしたならば、紬のストーカーとしては許せないのであろう。



 花がギャーギャーとののしっていても翔の頭に言葉が入って来ない中、後ろからポンポンと翔の肩を叩く人物が現れる。


「ちょっといいかな? ここでヤンキーが暴れていると通報があってね。話を聞きたいから交番行こっか?」


 警察だ。近所の奥様が通報していたのだ。


「そうです。こいつです! 逮捕してください!」

「花、何言ってるの! その前に病院~~!」


 それに乗っかる花。しかし翔の頭から血が流れているので、紬が必死に止めるのであったとさ。





「はぁ~」


 その数日後、翔はいつものように河川敷きで幽霊を蹴飛ばし終えてから、土手に座って黄昏たそがれていた。


「またいっぱい集まってたね」


 そこに紬が現れた。


「パイセン……」


 紬が隣に座ると、翔は相談を持ち掛ける。


「あの日以来、俺にもジジイやババアがハッキリ見えるようになったんすけど」

「それじゃあ、ご老人を容赦なく蹴ってたってこと?」

「絵面、マジパネ~」

「あはは。マジパネ~。あはははは」


 翔がマジで相談しているのに、紬の笑い声が響くのであった……



               おしまい

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ヤンキー君には知りたくないことがある @ma-no

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