⒑
「それじゃあ、今日はありがとうございました。」
「こちらこそ。あ、よければ受験終わったら連絡してよ。」
偶然が重なってもたらされたノノとの懺悔会は、お互いが次の行動を決めたところでお開きにすることにした。幸也は明日も仕事、ノノは受験生だ。あまり長居も出来ない。
「はい。連絡先って……」
「今まで通りダイレクトメールでいいけど……あ、待って。」
財布から名刺を出して、ノノに渡す。
「これ。電話ならこっちに。」
「ありがとうございます。」
ノノが名刺に目線を落として、なるほど、と呟く。
「幸也、って漢字こう書くんですね。だからサチさんだったんだ。」
「『さちなり』。幸せですって意味……って親が言ってた。名前負けだよねぇ。」
眉を下げた幸也に、ノノが小さく首を振った。
「これから、ですよ。」
店を出て進む方向を尋ねれば、ノノの家は駅と反対方向だった。それじゃここでさようならだ、とお互い会釈する。
「それじゃあ。」
「うん、頑張ってねノノちゃん。」
「……彩花、にしてもらってもいいですか。」
「ん?呼び方?」
首を傾げれば、彼女が小さく頷く。
「のの、って前から呼ばれてたんですけど。ネットで使おうと思った時に、カタカナにしようって思って。流されてるみたいでしょう、カタカナで『ノノ』って書くと。私、らしいなって。」
一度息をついてから、ノノは幸也に笑いかけた。
「もう、流されたくないから。」
「うん、分かった。」
「あの……配信、待ってますから。」
そう言って、彼女はくるりと背を向けた。しばらく立ち止まったまま、幸也は彼女の背中を眺めた。逡巡の後、大きく息を吸う。
「彩花ちゃん!」
彩花が振り返って、首を傾げた。一瞬だけ通行人が二人を見て、また興味なさげに目を逸らす。
「『また』ね!」
彩花の目が見開かれるのが少し離れていたけれど良く分かった。すぐに、その顔に満面の笑みが広がる。
「はい。必ず!」
トラウマ持ちの探偵といじめっこの高校生が半生を語り合う話 黒い白クマ @Ot115Bpb
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます