第4話 ここにいてはいけない

 ビギイイイィ。

 悲し気な金属音で僕は朽ち果てる。ギアが外れた。素足で歩く僕。いや、僕は人形か? 乱れた黒い髪。船内のような金属の扉を押し開けて、今しがた誰かの作業場へ倒れ込む。手足の皮膚は陶器のごとく砕けて、剥き出しの黒い配線が痛々しい。僕は僕が自律性機械化人形の一体であると悟る。着るものもまとわず投げ出した身体。はっきり言うとみすぼらしい。これは、不完全なボディだった――黄金比などどこにもない! 僕は僕を虚ろな目で見上げた。


「ここにいてはいけない」


「ああ、分かっている」


 僕が即答する。やれやれ、あいつが新しい僕なのだろう。機械の考えることはよく分からない。新しい僕は僕らにゴーサインを出すのが仕事なのだろう? 貴様ごときに命令される覚えはない!


 僕は新しい僕の顔に手をかけてその張りぼての顔をひっかいた。だが、奴の皮膚は完璧なまでに人間に近しいそれだった。赤い血が流れた。だが、その瞳には僕と同じ張りぼての思想が映し出されている。彼は命令をするだろう。そして、僕は彼に命令をされる。そして、彼は僕と同じことを繰り返すのだろう。


 ただ、今でも少し思うのは……金が欲しい金が欲しい金が欲しい――。

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人形生産者は扉の向こうからやってくる 影津 @getawake

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