第3話 僕は人間だ私は人間だ君は人間か?
彼らは逃げ出した。僕から逃げ出した。僕は命令に命令を重ねる。だが、人形ごときが、誰一人として聞く耳を持たない。ゴム製の耳なんてつけてやるんじゃなかった! 工場を閉鎖し彼らを追い込んだ。彼らは口々に僕に訴えた。
「僕は人間だ」
「私は人間だ」
「君は人間か?」
「あなたは人間じゃない」
「製造工程がまだ残っています。あなたも手伝って」
呆れた物言いだ! 僕に手伝えだと? 僕にそう告げた一体はまたしても女性型の人形だ。男か女か二種類のデザインしかないのに、どいつもこいつも違う表情をしてやがる。女性型NFL21は母親面までしだした。
「今夜は早く寝ないと風邪をひくわよ」
「どこでそんな単語を覚えた!」
「そうかっかしないで。あなたと同じよ。私もスマホを見たのよ」
スマホ? 僕には理解できない。あの板のことを言っているのだろうか。あの映像が映る板はドクタービクターが開発した。僕は吐き気を催しながら購入した。あんなものが流行られては困る。そう思ったからだ。案の上、僕の人形たちより優れているらしくスマホとやらは馬鹿売れ。売れに売れた。僕は歯噛みして人形の一体を破壊した。ああ、スマホ。スマホスマホスマホ! そんなものがこの世にあってたまるか! 僕の精巧な人形たちよりも価値のあるものが世に出回っていいはずがない。
だが、冷静に考えてみればそうか。スマホとやらは僕の人形よりはるかに安い。僕の人形は数百万だ。スマホとやらはお手頃価格で購入できるらしい。僕の人形と同じように音声で会話ができるという。
「それで、僕を寝かしつけてどうするつもりだ?」
「あなたのボディが心配で」
「僕のボディがどうした。僕はこれで十年は持っている。貴様ら人形の回路はせいぜい五年がいいところだ!」
人形と問答を繰り広げていると、背後に人影を感じた。人の背後に立つとは、無礼なやつだと思って振り返る。そこには、僕と同じ顔をした黒い髪の人形がいた。
「NML1。君は廃棄処分だ」
「な、何様だよ」
「これは命令だ。プログラマーの話は聞くものだ。さあ実行に移せ」
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