第2話 僕と言う職業。それはプログラマー。

 夏日。配管が熱くなる。蒸気で蒸せるほどの工場内。もう溶接は完全自動化して僕の人形たちが人形をはんだ付けするようになっていた。


 金が欲しい。金が欲しい。金が欲しい!


 アームが黙々と動くのを見ていると、そのリズムに合わせて無意識に心で唱えていた。突然電話が鳴る。


「どんな注文でもお申し付けください!」


 僕はスポンサーにへりくだる。下手をすれば地の底までへりくだる。僕に意志があるのかは不明だ。貪欲に食らいついただけだ。僕は再びこの工場から再生しなければならない。生産中止ならば投資してもらえばいい、電力が足りないなら発電すればいい。従業員がいないのならば作ればいい。僕はそうやって、ここを一人で切り盛りしている。


「あなたは見誤っている」女性の姿を模した人形に言われた。彼女は工場でのベルトコンベアでの流れ作業を担う。


「どういうことだ?」


 僕は苛立ちながら問う。


「あなたは、やりたくもない仕事を受注している」


 それがなんだって言うんだ。僕は金が欲しい。それに地位も欲しい。僕の評判はガタ落ちだ。僕は研究で成果を出せない。僕は人より優れていない。僕は失墜した。僕を評価する人間などいない。僕は能力のない人間であることを自覚している。僕には何もない。すがるものが何もない。僕は飢えているし、僕の成りたいものに僕はなれないのではないかという恐怖を常に抱えている。僕には技術力も独創性も、他者より優れたところもないのだから!


 人形は押し黙った。僕を憐れんだのか? そうなのか? もしそうならば、破壊してやる。お前など、出荷する価値などない! 僕はハンマーで彼女のボディを叩き壊した。本来なら数百万の価値のあるボディだ! 砕け散る音と、飛び散る火花が心地良い。


 ああ、人はみな地獄に生きている。僕は快楽を得る。一時的なものだが。彼女は胸の部分を陥没させて回路がオフになる。なんてもろい人形だ。当然か。彼女は戦闘用兵器ではない。その代わり何でもこなすことができる人型の機械だ。僕の商品の売りは何でもできること。そう何でも。


 だが、この産業は何でもできることをよしとしない。兵器が欲しければ爆弾を製造すればいいし、エネルギーが欲しければ発電機を製造すればいい。自分の意思で歩き、行動し任務を全うする。そんな人形など誰が欲するか。人形にも、目的が必要だったのだ。僕はその人形の目的を明確にしなかった。


 それが失敗だった。人形は何でもできた。ゆえに、何もなさなかったのだ。彼らは命令に忠実だが、命令がなければそもそも動かなかった。放っておけば地平線に向かっていつまでもいつまでも歩き続けるような代物だった。だから、僕が司令塔になる。僕は彼らに命令する。僕は発明したのだ。僕と言う職業を。僕はプログラマーだ。彼らを教育し彼らを導く指導者なのだ!

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