人形生産者は扉の向こうからやってくる
影津
第1話 自律性機械化人形
ビギイイイィ。
悲し気な金属音が朽ち果てる。ギアが外れた。素足で歩いてくる人形。いや、人か? 乱れた黒い髪。船内のような金属の扉を押し開けて、今しがた僕の作業場へ倒れ込んで来た。手足の皮膚は陶器のごとく砕けて、剥き出しの黒い配線が痛々しい。僕は彼が自律性機械化人形の一体であると悟る。着るものもまとわず投げ出した身体。はっきり言うと美しい。男である僕が見てもそれは完璧なボディだった。関節部分にところどころ接続部が見えるが肌の質感、筋肉の隆起、どれも黄金比に思えた。(全くもって僕はお黄金比のなんたるかを知らないが、そう揶揄したい!)人形は、僕を虚ろな目で見上げた。
「ここにいてはいけない」
「ああ、分かっている」
僕は即答する。やれやれ、ここに逃げ込んできてそれを言うのか。機械の考えることはよく分からない。彼らにゴーサインを出すのが僕の仕事だ。彼に命令される覚えはない。
手を伸ばしてくる人形。黒髪、黒い目。顔半分の左側が剥がれ落ちてグロテスクな機械面を晒している。
ああ、美しい。この人形に意志は残っているのだろうか? 僕は次々実験した。そして、生産し続ける。金属を加工し、配線を繋ぎ、顔や皮膚を陶器で覆う。
接客ロボットはサービス産業へ。工事ロボット、加工ロボット、生産製造ロボットは工事現場や工場へ。娯楽、エンターテイメントロボットはテレビ局や、イベントスポンサーへと売りつけた。僕は彼らをひたすら生産する。壊れようが意志が芽生えようが知ったことじゃない。
僕はただ金が欲しい。科学者、開発者としての名誉が欲しい。肩書が欲しい。地位が欲しい。尊敬のまなざしで見られたい。僕は僕を売り込みたいし、僕を人気者に仕立てたい。
やれることは全部やる。僕は、可能な限り技術を詰め込む。人形のボディに。彼らが何かを感じたとしても、それは僕の残滓に過ぎない。
僕は稼いだ。稼いで稼いで稼いだ。でも、まだ足りない。僕は何がしたい。僕は、技術を認められたいのか、それとも名を売りたいのか。
ある日を境に、人形はよく質問をするようになった。
「僕はどこへ行くの?」
僕は答える。
「君は売られるんだ」
僕は出荷する。慈悲も無慈悲もない。ただ、売りに出す。僕は僕の商品を売りに出す。彼らに自我があろうと、なかろうと。
月日が巡る。僕のライバルが現れる。ドクタービクター。僕より才能がある。才能の塊のような人だ。新聞は彼の技術を賞賛し、テレビは彼の工場を取材し報道する。普及するドクタービクターの開発した人形。彼らに感情や自我はない。僕は糾弾する文面を送った。
『彼らに人格はない! 彼らに自我はない! 彼らに意志はない! そんなものは、まがい物だ! そんなものを生産して何になる!』
だが、ドクタービクターからの返事は来なかった。もちろん、マスコミにも訴えたさ。マスコミは食いつかなかったが、安いゴシップ紙なんかは僕のことを愚かだとこき下ろした。おかげで僕の製品は売れなくなった。僕の人形たちは生産中止に追い込まれ、在庫は僕の倉庫に眠っている。
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