災害めいた「繭」の前で


 災害めいた繭という存在に関わる人たちの物語。
 ある人は静かに呆然とし、ある人はその強大さに魅せられ、ある人はきょとんとし、ある人は憎み……。
 一言では言い表せない、複雑な感情が彼らの内で渦巻きます。
 ですが、今の人間にはどうしようもない繭を前にしてなお彼らは大切なひとに思いを伝えようとします。
 とても素敵な群像劇でした。

 私は篠田親子パートが特に好きです。
 朝子さんの語りがなんか凄く朝子さんの社会的立場とか経歴とマッチしている感じがしてとても「ええなぁ……」と思いました。
 それに孝太くんがまたええ子で……。
 災害を知っている世代と知らない世代の認識の違いがまた良かったです。

 朝子さんと肇くんで、繭の描写が「まぜこぜ」「花が咲いては閉じるよう」と異なるのが細かいなと思いました。
「眠ってる子供のお腹が上下するのに似ている」というのがまたしんどすぎてつらい……。

 肇くんのようなひとも現実にもいるかもしれないという感じがよりこの作品の重みを増しています。
 火山や津波、地震……大抵のひとはこれらを悲劇の象徴として見るかもしれませんが、そこに自然の美を感じて、それを研究する道に進む人がいたっておかしくない訳です。
 でも、そんなひとと災害で家族を喪ったひとが関わらなければならなくなったとき、どうすればいいんでしょう?
 そう考えさせられる深みと奇妙な現実味がある作品です。

 たおやかな文体も魅力的です。
 ぜひあなたもどうぞ。