12時発、1時着。

卯月

博士と助手

 博士が助手に言った。

「君、この紙に名前を書いてくれたまえ」

「新装置の実験ですか?」

 助手が名前を書いた紙を渡すと、博士は、電子レンジのような装置の中に紙を入れて、扉を閉めた。

「時刻は、今から五分後を指定する。スタート!」

 スタートボタンを押してから扉を開けると、確かに置いたはずの紙が、なくなっている。

「消えた!?」

 助手が装置の中に手を入れて探しても、紙はどこにもない。

「扉を閉めて、五分間待つ」

 五分後、装置がチンと鳴った。

 扉を開けると、そこには一枚の紙。取り出してよく調べても、助手の筆跡で名前が書かれた、先ほど消えた紙そのものだ。

「どうだ、凄いだろう! このタイムマシンは、五分後の未来へ、紙を飛ばしたのだ!」

 自慢する博士に、助手は尋ねる。

「……『未来へ飛ばした』と、どうしてわかるんです?」

「マシンが空になったのを、君も確認しただろう」

「『マシンの中から消えた』だけですよね。どこか別の場所に移動して、五分後に、マシンの中に戻ってきたのかもしれません」

「うむむ」

 うめく博士。そのとき、博士の腹がグーと鳴った。

「もうすぐ12時か、昼食にしよう。冷凍庫にピザがあったな。君、焼いて持ってきてくれたまえ」

「はい」


 助手が熱々のピザを持って戻ってくると、博士は一切れ皿に取った。何を考えたか、その皿を装置に入れ、パネルを操作する。

「12時発、1時着。よし!」

 スタートボタンを押し、装置内のピザが皿ごとなくなったのを確認してから、残りのピザを二人で分けて食べる。

 一時間後。装置内には、湯気を立てるピザが。

「見ろ! このピザはまだ熱々で、チーズもとろけておる。一時間も経てば、すっかり冷めて固まっているはずだ。『別の場所に移動して一時間後に戻ってきた』のではない、という証明だ!」

「戻ってくる直前に再加熱されたのかもしれません」

「うむむむむ」


 博士は毎回、発明そのものよりも、助手を納得させることのほうが難しい。



〈了〉

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12時発、1時着。 卯月 @auduki

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