透明な気持ち

今回の使用単語

「そんけい。かわいげ。あらいば」

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 三時間目があと五分で終わる。時計の長針が"3"を指しているのを確認し、私はガラス瓶を持って廊下の手洗い場へ向かった。

 書道の時間、筆洗代わりにガラス瓶を各自で用意している。私はイチゴジャムが入ってた瓶。形がとってもオシャレで可愛かったからこれにした。海苔の佃煮が入ってた瓶とは全然違う。

 だけど、墨汁がついて汚れちゃうことを忘れてた。お気に入りだからよく洗いたくて、授業が終わる前に教室を出て瓶を洗った。まず、真っ黒になった水を捨てる。排水溝の方へ黒い水が流れていく。水が通っていった部分が汚れてる。ほんのちょっとの間でこんなに汚れてしまうから墨汁は恐ろしい。瓶の中も黒くくすんでいる。

 蛇口をひねって透明な水を瓶の中に入れた。それだけでは完全に汚れは取れないから、石鹸を使って瓶に手を入れてこすった。きれいになるまで、納得いくまで。


「あっ……」


 ぬるぬるしてたから、手を滑らせて瓶を落としてしまった。パリンと高い音が廊下に響く。瓶が割れてしまった。


「大丈夫?」

「あ、はい……」


 担任の先生が慌てた様子で駆け寄ってきた。私にケガがないことを確認すると、割れた瓶に視線を落とす。「触っちゃだめよ」と言っておきながら、先生は平気な顔で破片を拾い集めた。先生もこの瓶を見て「可愛いね」って真っ先に言ってくれたのに。


「……っ」

「あれ、やっぱり、どこかケガしちゃった?」

「……いや、大丈夫です」

「ふふ、可愛げないなぁ」


 笑いながら破片を集め、後片付けも全部やってくれた。優しくて強くて、尊敬してる大好きな先生。私もあんな風になれたらなぁ。




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新潟県佐渡市付近だそうです。

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ことば。みっつ。しょうせつ 彩塔双葉 @sugar-mint

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