44,生きる

「生きろ」


 すると、サクラの背後で声がした。

 振り返ればそこに銀髪銀眼の天使、ネルが居る。

 首だけになった彼女は顎の筋肉だけで仲間の傍に這いよるとその死肉を食らい、それを新しい血肉に変え生きながらえたのだった。己が罪を贖うために。


「生きて一人でも人間を助けろ。それがにできる唯一の贖罪だ」


 ネルは私情を殺し切った眼で告げた。

 その冷めきった眼差しを背中に受けてサクラはその場に振り返る。

 二人はしばし見つめ合っていたが、やがて。


「……私……生きます……ッ……私のせいで苦しんだみなさんのために……ッ!」


 サクラが、顔面に張り付いた血の屑を巻き散らしながら誓った。







 ――エピローグ――


 砂埃の舞う禿山の頂から、谷間を見下ろす二人組が居る。

 一人は銀髪に銀眼。絶世と呼べる美貌の持ち主で、濡れ羽色のボディースーツを着ている。

 もう一人は同じく美女。薄いピンク髪を腰まで伸ばしたその女は、とっくに機能しなくなった高性能爆弾付きの首輪を今も付けている。

 二人が見下ろす遥か谷の下には、多数の人々が入り乱れていた。中央には物資を積んでいたと見られるトラックが十台。その前後を守るように装甲車が六台止まっている。装甲車の中には完全武装で辺りを警戒している兵士がいたが、彼らの多くは既に殺傷されている。

 ジオルムに襲われているのだ。

 形勢は悪い。

 あと十分も戦闘が続けば人間側は皆殺しだろう。


「ネルお姉さま、あれって!」


 ピンク髪の少女、サクラが言った。


「キャラバンだ。どこかの都市の連中だろう。まだ我々が知らない都市の住人かもしれない」

「助けましょう!」

「ああ。相手はファメラタイプが三頭。サクラ、やれるか?」

「もちろんですネルお姉さま!! 五分もあれば全員助けてみせますッ!!」

「いい返事だが無理はし過ぎるなよ。我々が敗れれば人類に未来はない」


 言いながら、ネルがセレマを起動した。虚空から110mm対戦車榴弾砲を二つ取り出し、一つ13キロあるそれを両手持ちで構える。重量でネルのブーツが足首まで砂に沈んだ。


「いつもの作戦でいく」

「はいッ! 高台からの援護宜しくお願いしますッ!」


 サクラは掌から高周波マチューテを生やし、それを構えて砂の丘を駆け下りていく。

 親友に似た姿をしたジオルムを相手に奮戦しながら、彼女は考える。

 今はとにかく人を助ける。

 そしていつか複製体も倒す。人工神もなんとかする。

 そしたら私も許されるかもしれない。例え許されないにしても、私にはもうそれしかできない。それが自分の罪から逃げ続けてきた私にできる唯一の償いだから。


「だからファメラ! 私は生きる! この過酷な世界でッ!!」


 かつての親友の姿をしたジオルムをひき肉に変えながら、サクラは今漸く自分の罪に向き合い始めた。











 あとがき


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

お楽しみいただければ幸いです。

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それではまた!



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私は私を殺したい~終末世界の殺戮天使<エクスシア>~ 杜甫口(トホコウ) @aya47

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