「赤いきつね」と「緑のたぬき」を初めてみる異世界人  パワードスーツ ガイファント番外編

逢明日いずな

闘商ジュエルイアンの新商品の試食


 店の扉が勢いよく開くと、血相を変えたジュエルイアンが、秘書のヒュェルリーンを連れて、2人は、木の箱とも違う茶色の箱を、軽そうに抱えて持ってきた。


「おい、カインクム! お湯を沸かせ! 今すぐだ!」


「なんだ、藪から棒に。 大商会の頭取とは思えない慌てようじゃないか」


 ジュエルイアンの慌てぶりとは対照的に、店番をしていたカインクムは、冷静に対応した。


「まあ、いい。 それよりお湯だ。 熱いお湯を用意してくれ」


 カインクムは、仕方なさそうに店の奥の方に声をかける。


「おーい。 フィルランカ。 お湯を用意してくれ!」


「はーい」


 奥に声をかけると、答えが返ってきた。


「少し待ってくれ。 今、フィルランカが持ってくる」


 カインクムが、答えると、ジュエルイアンは、商談用のテーブルに行く。


「おい、とりあえず、これを食べてみるんだ」


「なんだ、その箱は、食べ物だったのか?」


「箱が食べ物じゃない。 この中に入っているものが食べ物なんだ」


「ふーん」


 ジュエルイアンは、脇に抱えていた箱をテーブルの上に置くと、ヒュェルリーンに視線を送ると、持ってきた箱をテーブルの上に置く。


「なあ、ジュエルイアン。 その箱は何だ?」


 カインクムは、木箱しか知らないので、茶色の軽そうな箱を不思議そうにみる。


 縦287ミリ×横432ミリ×高さ160ミリの箱なら、一般的な木箱なら両手で抱える必要があるのに、ジュエルイアンも秘書のエルフの女性も、片手で抱えるようにして、軽々と持ってきたのだ。


 ジュエルイアンは、持ってきた箱を手で開けた。


「これは、段ボール箱と言うらしい。 紙という羊皮紙のようなものを重ねて作ってあるらしい」


 そう言って、中の器に蓋をしたものを取り出した。


 その器は、表面に赤い色を基調とした印刷が施されていた。


「その絵は、何なんだ? えらく綺麗に描かれているな。 まるで本物のようだな」


 カインクムの反応を他所に、ジュエルイアンは、表面に貼られている透明な薄い膜を、ジュエルイアンは、爪で軽く引っ掻くと剥がし、お椀の蓋を3分の1程剥がすと、中に入っている袋を取り出し、袋を破いて中の粉を中に振りかけた。


「おい、お湯はまだか?」


 ジュエルイアンは、カインクムを急かす。


「フィルランカに頼んであるから、直ぐに持ってくるだろう。 もう少し待ってくれ。 それより、これは何だ?」


 カインクムは、ジュエルイアンの一連の準備を眺めていたが、何をしているのか、全く理解できずにいた。


「まあ、ここにお湯を入れて少し待てばわかる」


 そう言っていると、ジュエルイアンの隣で、秘書のヒュェルリーンも、ジュエルイアンと同じように箱の中から取り出していた。


 その器は、ジュエルイアンの出していたものと、形は一緒で、色違いだった。


 それは、緑を基調としたものだった。


「なあ、ジュエルイアン。 ここに書いてあるのは何て書いてあるんだ?」


「ああ、赤い方が、“赤いきつね”で、緑の方が、“緑のたぬき”というらしい」


「異国の言葉か。 全く、見たことはないな。 それと、赤と緑は色だと分かるが、きつねとたぬきとは何のことだ?」


 カインクムは、率直に意見を述べた。


「何かの獣らしいが、よくわからない。 まあ、始まりの村の少年に、この言葉を読める者が居たんだ。 転移者だから、その断片的な記憶から読めたみたいだが、そこまでは分からなかった」


(ああ、異世界の食べ物なのか。 この商魂の塊が、とうとう、異世界との取引をできるようにしたのか)


 カインクムは、話を聞いて、納得したような表情をするのだが、どうやって異世界と取引をしたのかを聞こうとしなかった。


「ほー、そうなのか。 お前らしいな。 そんな取引ルートを見つけたのか」


 本来なら、どうやって取引をしたのか気にするのだろうが、カインクムは、あまり、取引ルートについては、気にしてないようだ。


「お前のことだから、また、新しい何かを見つけたんだな」


 カインクムは、それ以上、聞くこともせず、ジュエルイアンは、それ以上、話すことは無かった。




 カインクムとジュエルイアンが、違いにそれ以上話さなくなり、フュェルリーンが、その雰囲気に耐えきれずに、2人を交互に見ていると、フィルランカがトレーにポットとカップを乗せて、店に入ってきた。


「いらっしゃいませ。 ジュエルイアンさん。 フュェルリーンさんも、よく、おいでくださいました」


 そう言いつつ、手に持っていたトレーをテーブルの上に置く。


 フュェルリーンは、フィルランカが、店に入ってきてくれたことでホッとした様子をする。


 フィルランカは、テーブルの上に置いてある、赤と緑の容器を不思議そうに見ている。


「これは、なんでしょう。 不思議な容器に入ってますし、中身もカチカチですね。」


「フィルランカちゃん。 これは、食べ物なのよ。 ここにお湯を入れると食べられるようになるのよ」


 フュェルリーンが、フィルランカに答えた。


「へーっ、これ、食べられるんですか」


「そうなのよ、だから、お湯だけで、カップはいらなかったのよ」


 食べられると聞いて、フィルランカは、興味をそそられたようだ。


「じゃあ、早速、お湯を入れてみましょう」


 食べ歩いて、帝都の料理は全て食べているフィルランカとしたら、珍しい食べ物は、興味津々のようだ。


 持ってきたポットのお湯は、4個のカップに入れたら終わってしまった。


「おお、丁度よかったな。」


 ジュエルイアンは、この場に居る人数分を用意できたので、良かったと思ったようだ。


「すまないが、フォークを持ってきてもらえないだろうか」


 しかし、フィルランカに言うのだが、フィルランカは、4個のカップをジーッとみていた。


「あのー、フィルランカさん。 このままだと食べることができないので、フォークを持ってきてもらえないだろうか?」


「えっ! あっ! はい」


 フィルランカは、慌てて答えるのだが、4個のカップが気になっている。


「これは、お湯を入れてから、緑が3分、赤が5分待たないと食べられないんだ。 だから、フォークを取ってくる位の時間は有るよ」


「誰も、お前の分まで食べないから、直ぐに取ってきてくれないか。」


 ジュエルイアンの話にカインクムも同意するようにフィルランカに言うが、カインクムの言葉に少しフィルランカは、少し顔を赤くした。


 10代の女子としたら、食い意地を張っているように思われたのではないかと思ったようだ。


 慌てて、リビングに取りに戻っていった。




 お湯を入れたことで、中のスープの匂いが漂ってきた。


「なんだか、初めて嗅ぐ匂いだな。 とてもいい匂いだ」


「これが、食べてみると、また、うまいんだ」


「そうか。 出来上がりが、待ち遠しいな」


 そんな話をしていると、フィルランカがフォークを持って戻ってきた。


 フィルランカは、それぞれにフォークを渡すと、カインクムの横に座って、ニヤニヤしながら、赤と緑が2個ずつ置かれているカップを見ていた。


 その様子をジュエルイアンとフュェルリーンが、気がついて、どうしようかと思った様子で、チラ見していた。


「そろそろ、3分になるから、緑の方は、食べられるぞ」


 ジュエルイアンは、そう言いながら、「緑のたぬき」を、フィルランカとフュェルリーンの前に置いた。


「さあ、この緑の方は、食べられるから、先に食べてみてくれ」


 ジュエルイアンは、フィルランカに言うと、フュェルリーンに視線を送る。


 フュェルリーンは、「緑のたぬき」の蓋を全部剥ぐと、スープを一口飲んでから、フォークを麺の中にさして、蕎麦を口に持っていく。


 それを見たフィルランカは、フュェルリーンを真似してスープを一口飲む。


「なんですか? このスープは? 塩っぱいだけじゃないです。 何か、違う味があります。 この味は初めてです。 帝都でも食べたことはありません」


「流石に、花嫁修行のために帝都中を歩き回っているだけあるわね。 それは、海の魚のスープを使っているらしいのよ。 だから、内陸のこの辺りだと、この出汁を使うお店は無いかもしれないわね」


「そうだったのですか」


 フィルランカは、納得したような様子をしつつも、フォークを置くことはなく、ひたすら、食べていた。


「そろそろ、赤い方も食べられるから、俺たちも食べよう」


 ジュエルイアンは、カインクムに、「赤いきつね」を渡す。


「これ、薬味だ。 入れると辛味があってうまいぞ」


 2人は、赤い蓋を開くと、その中のに、唐辛子を入れる。


 ジュエルイアンは、フォークで食べ始めるので、カインクムも、それに倣って、フォークで食べ始めようとした。


 すると、カインクムは、横から、恨めしそうな視線を感じるので、そーっと横を見ると、そこには「緑のたぬき」を食べ終わって、カインクムの「赤いきつね」を食べるのを見ていた。


「どうした、フィルランカ?」


「いえ、なんでもありません」


 そう言って、顔を赤くしつつ、反対側を向いた。


「フィルランカ、こっちも食べてみるか?」


 カインクムは、自分が食べようとしていたのをフィルランカの前に置くと嬉しそうにする。


「ああ、まだ、数はあるから、お湯さえ用意してもらえれば、直ぐに作れる」


 ジュエルイアンは、そう言って、段ボール箱の中から、また、取り出した。




 すると、奥の扉が開いた。


「父! なんだ、この匂いは! とても美味そうな匂いが、漂ってきたぞ! ん? あーっ、なんで、お前たちだけ、美味そうなものを食べているんだーっ!」


 恨めしそうに言うのを、フィルランカは、麺を口に運びつつ、エルメアーナを見ていた。


「エルメアーナちゃんも、一緒に食べましょう」


 引きつった顔で、フュェルリーンが、誘うのだが、エルメアーナは、自分が忘れられていたと思い、恨めしそうな顔で4人を見るので、フュェルリーンは、慌てて、ポットに魔法で水を入れてお湯にした。


 そして、カップの中にお湯を注いでいたが、エルメアーナは、悔しそうにその様子を眺めつつテーブルにいくと、ムッとした様子で椅子に座った。

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