40「人生最期の1分間」

「1分経ったわ。どう、いいねは減ってない!?」


 果たして――――……














































『減ってません!!』





 蹴鞠くんの、歓喜の声!


『やった、やった! 減ってませんよ!』


「はぁぁぁぁ……」


 私は思わず、その場に座り込んでしまった。いったん電話を切り、震える指でTwittooを操作する。例のアカウント、『favo_min』が、


「消えてる」


 除霊は、完遂されたのだ。

 今度は蹴鞠くんからの着信。


「もしもし」


『今、画面右上にずっと表示されていた残いいねも消えました!』


「例のアカウントも消えてたわよ」


『じゃあ、本当に!?』


「ええ。おめでとう! 申し訳ないのだけれど、クラスのみんなに情報連携と、いいね稼ぎの為に馬鹿な行動に出ないようにと言い含めておいてもらえる?」


『分かりました!』


 やはり、蹴鞠くんは頼りになるな。


『あのぅ……』切ろうとしたところで、蹴鞠くんが不安げな声で尋ねてきた。『僕達、本当に助かったんですよね……?』


「そうよ、大丈夫」本当だろうか。今また再び、『favo_min』が復活するのではないか? だが、それを彼に言って何になる。「大丈夫、大丈夫」


『はい!』


 今度こそ、通話を終了した。


 ――怪異は、解決した。

 正直、実感はない。が、どんな怪異現象も、終わりはいつもこのようなものなのだ。強大な悪霊との除霊バトルを演じたりとか、実はとんでもない陰謀が裏にあったりだとか……そんな、大衆向けホラー小説めいた展開は、現実にはあり得ない。





 ムーッ

      ムーッ

  ムーッ

       ムーッ





 その時、私のスマホに着信が来た。発信者は――


「かるたくん」


 ……そうだ。こちらの方にも、決着を付けなければ。


『もしもし』


 音が澄んでいる。その事で、私は『呪い』が確かに解決した事を確信する。


『ひどいですよ。さっきから何度も話し掛けているのに無視して』


「ごめんなさい。ごめんね、かるたくん」


『頼々子さん?』


「あのね、かるたくん。かるたくんのお陰で、『呪い』は解決出来たの。だからかるたくん、貴方はもう、眠ってもいいのよ。……どうか、安らかに。貴方は私にとって、大切な大切な弟だった」


『何を言っているんです? 今の頼々子さん、何だか変ですよ』


「ああ、あぁぁ……そう、か。キミはまだ、気付いていないのね」


 私はスマホを肩と耳で挟み、玄関ドアに歩み寄る。

 ドアにもたれかかっている人物を覆い隠していたジャケットを、外した。


『え? それ――


「そうよ」


 出てきたのは、かるたくん。

 眠る様に目を閉じたかるたくんの、遺体だ。


「貴方はもう、死んでいるのよ。昨日の深夜に、いいねが尽きて」




   💭   🔁   ❤×????




「…………え?」


 頼々子さんが、何やら変な事を言っている。僕がもう、死んでいる? 何をバカな事を――。


『どうしても信じられないのなら』電話越しに僕に話し掛けながら、頼々子さんが泣いている。はらはら、はらはらと泣いている。『あなたをこれ以上苦しめたくはないけれど……貴方のアカウントに、例の1分間動画が上がっているわ。でも、見ない方がいい。見ない方が……ねぇかるたくん、よく聞いて。貴方はこのまま通話を切って、目を閉じなさい。そうしたらきっと、次に目を開いた時には、天国にいるから』


 僕は、通話を切った。Twittooを開く。自分のページを開き、下へスワイプしていけば、


「あぁぁ……あぁぁああああぁあああああッ!!」


 ――あった。

 1分間動画。

 僕の、人生最期の1分間を綴った動画が!


 ……見ない方がいい。そう思った。見たら、絶対後悔する。

 ふと、顔を上げれば、頼々子さんが泣いている。泣きながら、きょろきょろと辺りを伺っている――僕を、探しているのだ。僕の姿が、見えていないのだ。

 震えが止まらない。怖い怖い怖い。でも、それでも僕は動画の再生ボタンを押した。『見たい』という欲求に抗えなかった。





『も・の・の・べ・くん』





 動画の中から、鈴の鳴るような可愛らしい声が聴こえてきた。

 星狩さんだ。動画の中の星狩さんが、ドアの前で座り込む僕に、キスをしている。

 あぁ、これが、星狩さんの声だったんだ。好きになった女の子の声を初めて聴くのが、こんな形になるなんて。

 キスをしながら、星狩さんの手が僕の首を絞め始める。動画の中で、僕の体が激しく抵抗している。


 その時、床に落ちたスマホから、青白い炎に包まれた腕が、飛び出してきた。


 全身が炭化してしまった州都すとさんの腕が、上半身がスマホから這い出してきて、僕の体にしがみつく。ジュッ、と音がして、動画の中の僕から湯気が立つ。


「――熱ッ!?」


 気が付けば、僕自身の足にも州都すとさんがしがみついている!


「く、クソッ! 離れろ、離れろや!!」


 スマホの角で州都すとさんの頭を殴ると、頭蓋がボロボロと崩れ落ち、中から出てきた脳ミソが真っ赤に燃え上がる。


「ミーコが」


 不意に、背後から声がした。


「ミーコがいないのぉぉおおおッ!!」


 猫目さんが、喉から鮮血を吹き出させながら、僕の顔を掻きむしってくる。


「ポチ……ポチは何処だ!?」


 今度は、目の前に犬飼くん。彼が僕の鼻に噛みつき、喰い破る。


「いぇ~い!」


 鼻から脳ミソを垂らした馬子が、僕の肩に腕を回してきた。馬子が僕に顔を寄せてツーショットを撮る。


「Foo⤴⤴ 死亡なう」


 僕は顔中血まみれで、しかも鼻が無くなってしまっている。





 気が付けば、僕は学校の屋上に立っている。





 すでにフェンスは越えていて、あと一歩踏み出せば真っ逆さまだ。


「ほら」


 右隣に出目さんが居た。


「両手に花だよ」


 左隣にはVの体をまとった馬肉さん。


 二人に背中を押され、僕は真っ逆さまに落ちていく。

 上下逆さになった世界の中で、

 的場まとばくんが、

  相曽あいそさんが、

   馬子まごが、

    長々おさながくんが、

     種田たねだが、

    江口えぐちさんが、

   州都すとさんが、

  寄道よりみちくんが、

 蝿塚はえづかさんが、

  猫目ねこめさんが、

   犬飼いぬかいくんが、

    写楽しゃらくさんが、

     魚ノ目うおのめくんが、

      山野やまのくんが、

       武威ぶいくんが、

 死んでいったみんなが窓の中から僕を見ている。


「物部かるたくん――いえ、カタルくん」


 目の前に、星狩さんが居る。彼女は僕と一緒に落下しながら、その可愛らしい声でもって、僕に宣告する。


「キミはいいねを失いました」


 星狩さんの手が僕の両頬を包み込む。


「キミにはたくさんたくさんお世話になったから、助けて上げたかったんだけど……ごめんね」


 星狩さんが、僕にキスをする。

 それから、凄惨に微笑んだ。


「ルールは、ルール」





 どちゃっ、という音とともに、僕の意識は途切れた。










































   💭   🔁   ❤×0000










































(出席番号1番)犬飼いぬかいつよし 原因不明の顔面裂創による出血性ショック死

(2) 魚ノ目うおのめ漁太りょうた 神戸沿岸での溺死

(3) 長々おさなが責夢せきむ 原因不明の頸部圧迫による窒息死

(4) 蹴鞠けまり太陽たいよう 存命

(5) 米里こめざと王斗おうと 存命

(6) 種田たねだ下太郎しもたろう 喉に異物を挿入されたことによる窒息死

(7) 八角はっかく浩太こうた 存命

(8) 花園はなぞの甲太郎こうたろう 存命

(9) 武威ぶい好太郎こうたろう 顔面陥没によるショック死(発見時、スマートフォンの画面が顔面奥深くまで潜り込んでいた)

(10) 馬子まごカズヤ 脳の損傷によるショック死

(11) 正岡まさおか棋士きし 存命

(12) 的場まとば射太郎しゃたろう 自傷行為による頭部陥没に伴うショック死

(13) 物部もののべかるた 原因不明の頸部圧迫による窒息死

(14) 山野やまののぼる 六甲山での滑落死

(15) 寄道よりみち鉄夫てつお JR三宮駅での轢死

(16) 相曽あいそ恵美えみ 急性心不全による死亡

(17) 天晴あまはる陽子ようこ 縊死(自死)

(18) 江口えぐち艶子つやこ 原因不明の窒息死

(19) 上江かみえつかさ 存命

(20) 越古こしふる玲亜れいあ 存命

(21) 写楽しゃらくまこと 六甲山での滑落死

(22) 州都すとさやか ※※鉄鋼株式会社神戸工場での焼死

(23) 出目でめあゆ 墜落死(自死)

(24) 猫目ねこめ直子なおこ 原因不明の頸動脈裂創による出血性ショック死

(25) 蝿塚はえづか映子えいこ 神戸市国道※号線上での轢死

(26) 馬肉ばにく美穂みほ 墜落死(自死)

(28) 舞姫まいひめ麻衣まい 存命

(29) 八坂やさかあおい 存命

(30) 四谷よつや眞子まこ 存命

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(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分しか生きられない呪い 明治サブ🍆第27回スニーカー大賞金賞🍆🍆 @sub_sub

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