そこにも人はいるのだから

多賀 夢(元・みきてぃ)

そこにも人はいるのだから

 最近のシステム屋というものは、なかなか変わった職業である。今私が携わっているのは、山奥の酒蔵だ。しかしシステムを作っている人間は、その酒蔵にはいない。全くバラバラな場所で物を作り、たまに集まっては色々と会議をして、また元の場所に散らばっていく。それを繰り返しつつ物を作っている。コロナのニューノーマルなどというものが始まる前から、システム屋はこのような形になっていたらしい。


 たまに皆が集まれば、やはり宴会になりがちである。都市部から来た人は田舎の食べ物をうまいといい、田舎の人をとても朴訥で好ましいと言う。中にはこの良さを全国に広められないかと、副業としてプロデュース業をやろうとする人も出る始末である。

 そんな話を聞きながら、私は憮然として自分のおちょこに手酌で日本酒を注いだ。酒蔵から頂いた、今年の新酒だ。

「都会と田舎って、そんなに変わらないですけどね」

「変わるよ!」

 数名が声を揃えてそう叫んだ。その声音は何も知らない田舎者のくせに、と言ってるように見えた。

 私はかつて東京で働いていた自分をひっそり思い出しながら、おどけた作り笑いをした。

「だって下町って人間臭いでしょ」

 彼らが納得しそうな答えを口にしたら、案の定満足げに笑いだした。

 だけど私は、本当は東京タワーに温もりを感じたのである。一度も生で見たことがないはずの東京タワーを見た瞬間、そこに人が働いた痕跡を見たのだ。

 田舎に広がる畑だって田んぼだって、山に広がる杉林だって、あれは人が働いて作ったものだ。人の温もりが残っている場所だ。私は東京タワーにも同じ温もりを感じ、強く安心したのだ。


 人の痕跡があれば、それは温もりになる。生きていく上で居心地のいい場所となる。それはこの酒蔵も同じだ。私が今いただいているお酒も、たくさんの人たちの生きてきた熱そのものなのだ。


 私は、この感覚を誰とも共有できないことを悲しいと思いながら、手元の日本酒をクイッと飲んだ。胃に入るとカッと暖かくなる。お酒に携わった人たちの温もりが、私を温めてくれるようだ。

 私は少し救われた気分になって、またお酒を少し飲んだ。

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そこにも人はいるのだから 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki

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