認知症のグループホームで働く藤子は、トラブルにトラブルが重なって、昼に帰る予定が日付の変わった夜になってしまっていた。彼女が帰宅を急ぐのには、ある理由があって……。
介護職のリアルと、シングルマザーの心の内がまざまざと描かれた現代ドラマ。暗く長いトンネルのような前半からの後半は、胸に迫るものがあります。
現代社会において、「頑張ればいいことがあるよ」というのは、もしかしたら放言になってしまうのかもしれません。それでも、この主人公のように、人のため、家族のために汗水流す人には、それに相応しい幸福が訪れてほしい、そう願いたくなるような読後感でした。
介護の現場で責任者を務めながらも家では二児のシングルマザー。
肩書きをうかがっただけで頭が下がるような激務に身を投じる母のお話です。
いくら「母は強し」と言っても人がこなせる仕事には限界があるもので、そこには必ずほころびが出来てくるものです。
母として務めがあるのは判っているのだけど、昼間の仕事もまた人の命を預かる大切なものだから。だから、彼女は果たせもしない子ども達との安易な約束を諦めたのです。
でも……彼女が普段から立派な母親であることはしっかりと伝わってきます。
描かれていなくてもそれが伝わってくる。それがこの作品の素晴らしい点でしょう。
現実は過酷でも、共に立ち向かう家族がいるから頑張れる。
そんな美しい物語。家族の絆を噛みしめたい貴方へ、おススメです!