第4話 『あの頃のぼくらは若かった』

 私は夏生くんと一緒に部室へと向かう。

 部活を辞める、本当の理由を他のバンドメンバーに伝えるためだ。


「……という訳で、部活を辞めることになりました……」


 私はメンバー二人のことを見るのが怖くて、目を逸らしながらではあるものの、夏生くんと先ほど話し合ったことを二人に伝えた。

 二人は、初めは困惑していたけれど、その後すぐに祝福してくれた。

 なんて順応力の高い、優しい人たちなのだろう。

 私は、本当に良き友人に出逢えたことを、心から感謝した。


「部活だけじゃなくて、学校も中退しようかと……思ってる……」


「そっか。……佐名ちゃんがそう決めたなら、あたしたちが止める権利ないね」


「おう。織原、あんまおれたちのこと気にすんなよ!」


「勢いが強いよ、まもる……」


「う、うん、ありがとう二人とも」


 私と同じ女子メンバーである穂波が、私の手を包み込むように握る。


「色々、大変かと思うけどさ、落ち着いたらまたこのみんなでバンドやろうね」


「……うん……!」


「バンドでやる曲、作んないとな!」


「やるの何年後になるのかな?」


 私たちは気の済むまで談笑した。

 先ほどまでの緊張が嘘のように消えていった。

 これが、私たちが会った、最後の日になった。


 * * *


 あの頃の私たちは本当に若くて、

 たくさんのことを知らなくて、

 あれから色々大変だったけれど、

 こうして『今』があることが奇跡だと思う。


 高校を中退してから5年後、私は――一児の母になっていた。


 あの日から、色々考えた。

 今お腹の中にいる子に罪はない。それは分かっていた。

 けれど、やはり当時は学生。それも未成年。

 働くこともできなければ、親に頼ることも生活もままならない。

 最初は絶望したけれど、今となってしまえばこれも良い経験だと言える。


 正解なんてないのだ。


 正解がないから、面白いのだ。


 私は今日、高校時代に在籍していた軽音部OB・OGの演奏会に来ていた。

 穂波も、衛くんも、現在の旦那である夏生くんも来ていた。

 今日は彼らがバンドを再結成し、演奏をする。

 とても楽しみだ。


「楽しみだね、羽美うみ


 羽美は「きゃっきゃっ」と楽し気に私に笑顔を見せた。

 羽美は私たちの子供だ。

 中絶はせず、私は羽美を産むことを決めた。

 今は決めて良かったと本当に思う。


 それほど、幸せなのだ。


「――それでは聞いてください。


 『あの頃のぼくらは若かった』」


 ギターの音が会場内を湧かせる。

 私も、羽美も、彼らに釘付けになった。


 私の青春は、今も変わらず、若かったあの頃のまま、

 色褪せずに残っているのだ。

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あの頃のぼくらは若かった KaoLi @t58vxwqk

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