最終話 元ラスボスのこれまでとこれから。


「……遅いわね。私を待たせるなんて何様のつもりなのかしら?」


 一人でポツリと呟く声はホール内から聞こえて来る音楽に掻き消される。

 今日は年に一度の晴れ舞台。

 魔術学校を卒業する生徒にとって学友と集まって騒ぐ最後のイベントだ。

 アルビオン王国を襲った大きな戦いから二年が経ち、復興もそこそこ進んだので魔術学校は授業を再開した。

 休学になっていた分の期間を延長したので私達の卒業時期が遅れてしまったけど、それもなんとか乗り越えてこの日を迎えることが出来た。


「やぁ、ノアさん。こんばんは」

「おっす、姉御!」


 パーティーが開かれている会場の入り口に立っている私に声をかけてきたのはマックスとフレデリカの二人だった。


「あら、生徒会長さんがこんな所にいていいの?」

「僕の仕事なんて最初の挨拶くらいだよ。それに今は次の生徒会に任せてある」


 髪色と同じ緑色のタキシードを着ているマックスはそう言って腕に腕章をつけて忙しなく案内をしている後輩達を微笑ましそうに見た。

 ロナルドが国外に出て新しい生徒会長を決める選挙があった時にマックスが立候補して圧倒的な票数で選ばれたのが懐かしく思える。

 彼はお父さんを見習って立派に役目を果たし、その席を後任へと託した。


「まさかマックスが生徒会長になるなんて私は想像していなかったわね」


「僕だってそうだよ。でも、あの時に五大貴族で立候補したの僕だけだったしね」

「推薦されても兄貴も姉御も無理だったもんな」

「そうね。私達は家の仕事が忙しかったもの」


 私は魔術局の代表として。

 ティガーはヴァイス家の当主だし、エリンなんて女王様になってしまったのだ。

 グレンも忙しいエリンの助けになればと彼女を献身的にサポートした結果、私達は中々学校に通えないことが多かった。

 だから唯一在学中に貴族としての役職を与えられなかったマックスが学校のあれこれを任されることになったのだ。


「生徒会も大変だったわよね。教師の数が減ったり遠征先が変わったりで忙しかったんでしょ?」

「そうだね。今後のことを考えるとどうしても授業内容が変わったりしてたし、父さんも僕もてんやわんやしてたよ。副会長のフレデリカにも迷惑をかけたよ」

「アタシは全然構わなかったぜ。むしろマックスから頼られるなんて嬉しかったしな」


 笑顔で腕を組んでいるマックスに体を寄せるフレデリカ。

 今日の彼女は西部領の伝統的な衣装に身を包んでいるため身体のメリハリがよく強調されている。

 具体的には白いチャイナドレスっぽい服なので胸がボーンとなってマックスが照れて顔を赤くしている。


「マックスはフレデリカの尻に敷かれそうね」

「ははは。多分もうそうなってるよ」

「アタシはちゃんと旦那は立てるタイプだぞ。兄貴のところと違って」


 実はこの二年間で二人は婚約をしている。

 きっかけというか、毎日ずっと一緒にいればそうなるもの自然だと私は思った。

 二人にかけられた呪いは苦しめるどころか運命の赤い糸の代わりになったというオチだ。

 未だに解呪は出来ていないけれど、もうそのままでもいいんじゃない? と最近思ってる。


「良かったわねマックス。ティガーみたいにならずに済んで」

「おいおい。人がいないところで何を盛り上がってんだよ姐さん」


 噂をすればなんとやら。

 談笑している私達の元に白のタキシードで近づいてきたのは新しいヴァイス公爵家の御当主様だった。


「ったく、好き勝手に言いやがって。そんなんじゃテメーは嫁に出せないな」

「義姉さんにいつも頭が上がらないに兄貴にそんなこと言われる筋合いはないですー」


 あっかんべーと舌を出してティガーを馬鹿にするフレデリカ。

 銀髪の兄妹が睨み合いを始めたので私は二人の影を縛り上げる。


「折角の卒業パーティーで喧嘩しないの。これ以上やるなら私が相手になるわよ」

「ちっ。わかったよ姐さん」

「はーい。姉御の言う通りにしまーす」


 私の魔術をよく知っているので二人は素直に言う事を聞いてくれた。

 全く、こんな場所で魔術を使わせるんじゃないわよ。


「フレデリカ。人の悪口を言うのは僕はいけないと思うよ?」

「わ、わかってるから! 今のは兄妹同士の軽い冗談だよマックス。だから怒らないでくれよ! ね?」


 フレデリカには私よりマックスの言葉の方がよく効くようで狼狽えだした。

 よく観察するとマックスの方はわざとらしい言い方をしているのに本人はそれどころじゃないようだ。


「姉御は一人か? オレもひとりぼっちだから一緒に中に入ろうぜ」

「お断りよ。そんなことしたら私が奥さんに嫌われちゃうわ」

「ははは。心配いらねぇって。アイツもそんな器が小さい女じゃねぇから」

「前に何があったか忘れたの貴方……」


 呑気に誘ってくるティガーに私は呆れて頭が痛くなってきた。

 同世代の中で真っ先に家を継いだ彼は被害の一番大きかった西部領にしばらく滞在していたのだが、王都に戻って来てマックスやケイ達とコソコソ何かをしたと思ったらいきなり年上の貴族令嬢と結婚したのだ。

 フレデリカすら寝耳に水だったようで大騒ぎしたのは記憶に新しい。

 お相手の人には何度か会ったけどしっかり者の姉さん女房って感じで魔術無しの素手ならティガーにも競り勝てるそうだ。

 そんな奥さんの誕生日にティガーはサプライズでプレゼントを用意しようと私に声をかけて王都を歩いていたのだが、運悪く奥さんに見つかって浮気現場と勘違いされて流血沙汰になった経験がある。

 勿論、血を流したのはティガーでそれ以来彼は頭が上がらない。


「とにかく、私は夫婦喧嘩に巻き込まれるのはごめんだからね」

「そうだよティガー。女性には誠実な姿を見せて安心させてあげるのが君の言う男らしさって奴じゃないの? それと例の……」

「わかってるって。約束は守るぜ」


 お互いのために断ろうとする私の味方をしてくれるマックス。

 ただ、最後の方は小声で耳打ちしていてよく聞こえなかったけどティガーはそれで納得したのか諦めた様子だった。


「おーい、お嬢!」

「はぁ……。やっと来たわね」


 溜め息を吐いて私を呼んだ声の主を睨みつける。

 彼は不機嫌そうな私の顔を見てバツの悪そうな表情を浮かべた。


「待たせて悪いっすね」

「そう思うんなら待ち合わせの時間を守りなさいよ。主人を待たせるなんてメフィストの教育もなってないわね」

「たははは。マジですいません」


 意地悪なことを言ってケイを責め立てる。

 実はこのパーティーを私は密かに楽しみにしていて、学友達と過ごす最後の夜を思う存分満喫したかったのに遅刻のせいで時間を削られてしまった。

 あと、周囲がパートナー連れなのに独りぼっちで恥ずかしかったのもある。


「ケイの方から誘ったのにこれじゃあ、別の相手が良かったかもしれないわね」

「姉御は他の奴に誘われてたのか?」

「ま、まぁ、私くらいになれば相手はいくらでもいる……いるんだから……」

「自分で言って傷つくなら嘘言わないでくれよな」


 フレデリカの無邪気な疑問に悲しくなって歯切れが悪くなり、ケイの言葉に反論できない。

 残念なことに大侵攻や王都奪還に参加した私と仲良くしたい子や声をかけてくる男子が増えないかな〜と思っていたけれど、そんなものは儚い幻想だった。

 むしろ魔術局の局長として仕事するうちに学校に通う回数も減って、たまに登校しても挨拶するだけで相手が遠ざかっていくようになってしまった。


「ティガーやノアさんには立場があるからね。みんな嫌ってはいないんだよ。生徒会にもノアさんに憧れてる子だっていたよ」

「そうだぜ姉御。気にすんなって」

「うん。……でもさぁ、一度くらい私を誘ってくれてもいいじゃない? そういう勇気ある男子っていないのかしら?」

「おーい、オレを忘れんなよお嬢」


 わーわーと騒ぎながら会場の入り口で喋っていると不意に会場内の音楽が止まった。

 そのタイミングで喋っていたのが私達だけだったので周囲の目が集まって気まずくなる。


「とりあえず中に入ろうか」

「そうね」


 マックスの提案に頷いていそいそと私達は会場の中に入った。

 パーティー会場の上座とも言える場所にスポットライトが当たってそこに一組の男女が立って挨拶をしていた。


「うわっ、エリン綺麗ね」

「へぇー、よく似合ってるっすね」


 金色のドレスに身を包み、滑らかな金髪の上にティアラが載っている。

 私的な場とはいえ、女王になったからには相応しい格好をしないといけないのでメイクもバッチリだ。

 乙女ゲームの主人公だけあって素材は良いと思っていたけれど、これはどこに出しても自慢出来る美人ね。

 もう上限を突破して女神様って言ってもいいくらいよ!

 ……そもそも女神様の子孫だから間違いじゃないか。


「お嬢、はしゃぎたいのは分かってるから手を振るな。エリンが迷惑するでしょ」

「ケイだって顔がニヤニヤしてるじゃない。エリンの魅力に見惚れてるんじゃないかしら?」

「オレはただ嬉しいだけなんすよ。会えないと思ってた家族にこうして再会してこんな晴れの舞台を見れるなんて思いもしなかった。ってか、全部忘れてましたから」


 隣を見上げるとケイの瞳の端に光る物が見えたのでこっそりとハンカチを差し出したら代わりにちり紙を渡された。


「何これ」

「鼻水垂れてるし、お嬢の方がヤバいっすよ」


 指摘されて顔に触れると、確かに涙だけじゃなくて色々なものがこぼれ落ちてた。

 折角してきたメイクが台無しになるくらいの勢いで止まらない。


「だって……だってね……」

「はいはい。泣きたいくらい嬉しいのは十分に分かったからそろそろ泣き止まないと周囲の視線が痛いんすよ」


 何かしらの魔術を使っているのだろう。

 エリンと隣に立つグレンの声は会場全体によく響いていた。


「わたし、エリン・アルビオンは隣にいるグレン・ルージュと婚約したことを発表させていただきます」

「未だに国内の混乱は続いているが、俺とエリンの二人でより良い王国の運営をしていく。そのためにこの場にいる全員の力を貸してくれ」


 二人からの重大発表と演説が終わると示し合わせていた楽団が祝福の音色を奏でる。

 アルビオン王国だと結婚式なんかで流す定番の曲だけど、私にとってはゲームのエンディングで流れるメインテーマのオーケストラバージョンなのだ!

 うぅ、止まりかけていた涙がまた溢れかけてるんですけど!!

 日本にいた頃にゲームの中で見た光景。

 実は違う世界の可能性を見せられていたって話なんだけど、その現場にこうして立ち会えていることが幸せだ。

 それもラスボスで必ず死ぬ悪役令嬢として参加しているなんて。


「見えてますか? 女神様、カーターさん、聖女様、災禍の魔女、そしてご先祖様」


 私の数奇な運命を用意した人達の名前を口にする。

 彼女達がいたからこの世界は存続して、私達にバトンが渡された。

 これからは今を生きる私達が次の世代へと繋げていかなくちゃいけない。


 さて、ここまでは《輪廻転生物語 エターナルラブメモリー》のエピローグ。

 将来を誓い合った二人が周りの冷やかしとその場のノリでキスをしてお互いに顔を真っ赤にしてエンドロールに移行する──はずだった。


「それと俺達からもう一つ、めでたい話がある。こっちに来いノア・シュバルツ」

「は? なんで私が?」


 エリンとグレンの婚約は事前に聞かされていたけど私が呼ばれる理由を知らない。

 あれかな? 友人代表としておめでとうのスピーチをするとか? だったら私よりもマックスの方がこういう場面に向いてるし、ケイはエリンの家族だからその権利があるとは思うけど……。

 状況を飲み込めないままスポットライトの中へと足を運ぶ。

 いくら友人とはいえ、今のエリンは王族で公爵令嬢の私は命令に従うしかない。


「ねぇ、これってなんなのエリン?」

「うーんと、わたしからのお礼とあとは罰ゲームも兼ねたサプライズです」


 もの凄く良い笑顔で不安になるようなことを言ったエリン。

 貴族達との交流をする中で強かさを身につけた彼女には有無を言わせない迫力があった。


「実は、今日はもう一組おめでたい報告があります。ここにいるノア・シュバルツとある殿方の婚約を皆さんにお伝えします!」


 ………………はい?

 たっぷり間を開けて私の頭にハテナマークが浮かんだ。

 人間って驚きが感情の容量を超えるとフリーズしてしまうんだなぁ〜、とか考えて声が出ない。


「では、こちらに来てください。サー・ケイ」


 ポカーンと間抜けな顔をして魂がどっかに抜け落ちてる私の隣にケイが立つ。

 彼がすぐ側にいるのは普段と変わらないけど、この紹介の後だと意味が変わってくる。


「ちょ、えっ、は、はいぃぃぃ!?」

「声、全部乗ってるっすよ」


 指摘されて慌てて口を閉じようとするけど、そう簡単にはいかない。

 結局、動揺しっぱなしの私の声が魔術に運ばれて会場の壁に反響する。


「私、そんなの聞いてないわよ!?」

「言ってないからな。先に言っておくがシュバルツ公爵からの許可は降りている。それを他の五大貴族と王族であるエリンの後押しで正式な手続きとして処理した」


 グレンの言葉を聞いて益々わけがわからない。

 それってつまり女王様が認めた……つまり王命で逆らえない強制的な婚約じゃない!!!!


「他の五大貴族って、ルージュ家とかヴァイス家もってこと!?」

「伯母上からの伝言だ。さっさと家を継いで先代を我が家に婿入りさせろとな」


 ロゼリアさぁん!?

 それ、認めた理由が自分のためじゃないですか!

 確かに最近は何かと言い訳を用意してロゼリア様を東部領の視察係にしてますけど、婿入りですって!?


「ティ、ティガー?」


 ぎこちなく首を動かしてこちらに顔を向けているティガーを見ると、笑顔で手を突き出して親指を立てていた。

 マックス、フレデリカも同じような笑顔だった。

 どうやら知らなかったのは私だけのようね。


「そんないきなり……」

「そうでもありませんよ。お兄……ケイは貴族としての爵位を授与された後でシュバルツ公爵とある契約をされたんです」

「契約ですって?」

「はい。ノアさんと結婚したいならあらゆる困難からノアさんとシュバルツ家を守れる証明をしろ、と。それでブルー家以外の聖獣使いと決闘して、最後にシュバルツ公爵自身に勝つことを条件にしました」


 初耳なものばかりだ。

 え? じゃあ、ケイはロナルド以外の全員に勝ったってこと?

 それにあのお父様と?


「旦那様……ってかもうお義父様だな。勝てたのは今朝なんすよ。それで怪我の回復とかに時間かかって遅刻したのはごめん」


 照れ恥ずかしそうに頬を掻きながら隣のケイがそう言った。

 つまりこの国のトップ層全員が協力して行った盛大なドッキリだったわけね。

 ネタバラシがあって、みんなの視線が私へと集まるのを感じた。


「なによ、なんなのよそれ……」

「驚かせたのは悪い。けど、発表をするってんならもうここしかねぇって思ったんだ。エリン達のオマケみたいな扱いかもしれねぇけど、オレはこの場じゃなきゃダメだった」


 外野の目なんて関係ないと、ケイが私を見つめて真剣な顔で説明する。

 何がどうなって彼がこんなことをしたのか私には理解できなかった。

 けれど、


「だって卒業パーティーでの婚約発表なんて最高に青春っぽいじゃないっすか?」


 ニカっと笑顔で彼は理由を言った。

 それはいつぞやに私が彼に漏らした愚痴みたいなもので、黒崎乃亜が日本で得られていなかったもので、この世界に転生して破滅フラグ回避と同時に願ったものでもあった。


「ノア・シュバルツ公爵令嬢。オレの側に一生一緒にいてくれませんか。どんな事があってもオレが貴女を守ります」


 片膝を地面につき、ポケットから取り出した小箱を開けて背筋をピンと伸ばした姿勢で私を見るケイ。

 差し出されているのは宝石のついた指輪で、紫紺の大きなアメジストが埋め込まれている。


「この指輪……」

「ノアの瞳に似てると思って。指輪部分を作ったのはロナルドなんだけどな」


 宝石からはとても強力な魔力を感じた。

 アルビオン王国の魔術師は恋人にプロポーズする時に実用的なお守りとして魔力を編み込んだ宝石を贈るのは知っていた。


「受け取ってくれないかノア」


 長いようで一瞬のような時間が経つ。

 瞼を閉じてこれまでの人生を振り返ると、ここまで大変なことだらけだった。

 私一人だけじゃ乗り越えられなくて、いつも側にキッドがいてくれた。

 ケイとして名乗るようになってからも私の我儘に付き合ってくれたのは彼だった。

 前世の年齢を加味するともうおばさんなんだけど、彼はそんなこと気にしないでしょうね。

 いつの間にか私より背が高くなって逞しくなって頼り甲斐が身についた立派な青年。

 伴侶にするには好条件で、仕事も家事も出来るしお父様より強くて守ってくれるし、内緒とはいえ王族で貴族の地位もあって、声が良くてイケメンだ。

 まぁ、つまり何かと理由を述べて遠回しに彼の長所を挙げているのは確認作業だ。


(なーんだ。私、ケイのことがとっくに好きになってるじゃない)


 主従とか姉弟みたいとか、魔女の転生体と聖獣使いとか、ラスボスと攻略キャラとか。

 そんなもの関係無しに彼に惹かれていた。


「受け取ってあげてもいいけど、一つだけ条件があるわ」

「えっ? 条件っすか?」


 言い返されるとは考えていなかったせいで普段の素に戻るケイ。

 私は彼にこう告げた。


「一方的に守られるのは御免よ。どちらかというとケイの方が死にかけやすいんだから私にも貴方を守らせない。二人で助け合っていきましょう」


 指輪を手に取って左手の薬指に嵌める。

 うん。高貴な私に相応しい宝石だわ。


「なんだよそれ。全く、ノアには敵わないなぁ」

「当たり前でしょ? 私を誰だと思っているのよ」


 私の名前はノア・シュバルツ。

 最高の黒魔術使いにして、自称ラスボス系悪役令嬢なんだから。


「愛してるよノア」

「なっ……うぅ〜!! もうっ!」


 折角それっぽく決めたのにケイが抱きついて耳元でとんでもないことを囁いてきた。

 されるがままに抱き締められるのも癪なので仕返しに魔術で肉体を強化して抱き締め返す。


「ちょ、それ反則だろ! 背骨が折れて体が真っ二つになるって!」

「私の溢れる愛をたっぷり受け止めてもらおうかしら〜」


 恥ずかしくて変なテンションになった私はノリノリで魔術を使う。

 プレゼントされた指輪のおかげがこの場の雰囲気のせいか随分と調子がいい。


「全く。何をやってるんだコイツらは」

「ふふふっ。でもグレン、とてもお似合いの二人じゃない?」

「……まぁ、そうだな。だが、俺様とエリンの方が貴様達より何倍もラブラブなんだぞ!!」

「ちょっと、急に持ち上げないで! わたし恥ずかしいですぅ〜」


 さっきまでの静かな空間なんてなんのその。

 私達のせいで会場は和やかなムードになってしまい、あちこちから笑いが聞こえてくる。

 それを見た楽団が気を利かせてノリノリで楽器を鳴らす。

 ケイに手を引かれて私はパーティー会場の真ん中でエリン達と一緒に音楽に合わせて踊り出す。

 くるくると回りながら楽しく、笑顔で満ち足りた幸せに包まれたまま。



 ♦︎




 これが卒業を目前に控えた私に起きた人生最大の大事件の全容ってわけ。

 ここから先は神様も関係ないただのノア・シュバルツという人間の物語。

 あれやこれやの厄介事が舞い込んで来ても今の私達なら大丈夫。

 隣国とのいざこざで戦争一歩手前まで行ってピンチの時にロナルドが助けに来てくれたり、すごく歳の離れた兄妹の誕生で公爵家が荒れたり、生まれた我が子が魔力をお漏らししたせいで新しい悪魔が顕現したりしたとしても前を向いて歩いていける。


 まだまだ私の破滅フラグを回避して生存するための活躍は続くけど、きっとそれが普通に生きてる人間の人生なのだ。

 全ては隣にいつもいてくれる素敵な人と幸せを掴み取るために。

 ノア・シュバルツは今日も高笑いをしています!










【おしまい】


※ここまで応援ありがとうございました。この作品についての後書きっぽいのは近況ノートに書いときます!

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絶対死ぬラスボス令嬢に転生しましたが、なにがなんでも生き延びてやりますわ! 天笠すいとん @re_kapi-bara

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