第5章 続・真実と理由

「な…!、何だこれは…!?」

背中に衝撃が走った。これは、どっからどう見てもヤバいと思うのは間違いない。

『あぁ!いつ見てもかっこいい…!他の男子とは比べ物にならないくらいかっこよすぎる❤ ますます独占したい気持ちになったぁ!全てを支配したい❤ 裕ちゃんは私だけのものだからね 、ウフフ❤』

『どうして振り向いてくれないの?私のことが嫌いなの…?私、裕ちゃんが一緒にいてくれないと寂しいよ…。生きてけないよ…。こんなにも裕ちゃんを愛してるのに!! ねえ、どうして?なんで?なんで?』

『褒めてくれた!褒めてくれた…!テストで高得点取ったら、すごいねって裕ちゃんに褒められたぁ…!前は出来が悪かったから、しっかり勉強しておいて良かった…。

あぁ、全てが愛おしい!裕ちゃんは、テスト全然できなかったって言うけど、そんなことないんだよ?そんな裕ちゃんもすごく素敵だけどね❤』

【観察日記】のほんの一部を見て読んで、1mmも運動してないのにすごく疲れた。すべてではないが、ほとんどの日記には【愛している】が1回以上はある…。香織の狂愛が、たくさんあり過ぎて本当に心が持たない…。

人一倍優しくて、笑顔が似合ってる香織。だけど、その分心が病んでいた。

(こ、これが香織の”裏の顔”だっていうのか!?) そう思うしかなかったのだ…。

こんなにも恐怖と狂気を感じたのは人生で初めてだ。正気の沙汰じゃない!

俺は、しばらく無言を貫いた。香織の本当の正体なのか、自問自答していた


考え事を終えて、大きく深呼吸した。少しずつだけど、頭の整理が出来ていく。

恭平:「ごめん、だけどこれが現実なんだ…。信じたくないと思うけどな…」

裕也:「……うん」どう返せばいいのか、それしか言葉が思い浮かばない。

だけど恭平が無理強いをさせなかったのは、俺に狂気的な一面を親友として見せたくなかったからだと思うし、納得がいく。

綾乃:「ご、ごめんなさい…!私も出来れば、こんな強烈なもの見せたくなかったの…。香織に対する想いや感情が楽しみから恐怖に変わっていくんじゃないかって…。」

凛花:「わ、私もそう思う。」

裕也:「…いや、参考になる。もちろん、見方は変わった。だけど分かったこともある。『表の顔がすべてじゃない』ってこの日記が物語ってるように見えた。」

恭平:「お、おう…」

裕也:「綾乃さん、これは…どこから持ってきたの?」

綾乃:「香織の…部屋から」

凛花:「あの事件の…概要を聞かされた時です。」

裕也:「……」

思わず、黙り込んでしまった。あのキスで、クラスメートからバッシングされ、挙句いじめを受けた。本当に何でキスしちゃったのかな…。


話は、デートの計画について詳しく聞かされた。

裕也:「凛花さん、いつから…ですか?」

凛花:「せ、先週のも、木曜日…。」

裕也:「木曜…、デートに誘われる前…。計画の概要…。ま、まさか!」

綾乃:「そう、デートに…裏で2人で同行してたの。もちろん、キスの写真も」

恭平:「マジかよ…。そいつは聞いてない…。」

綾乃:「ホントは、裕也君や恭平君にも言いたかったけど、香織が怖くて…。」

凛花:「もちろん、キスの写真や動画を撮ってツイッターに上げるのは否定しました!でも『やらないと、親友でも殴るわよ?』と笑みを浮かべて言われて、指示に従うしかなかったんです…。」

裕也:「まるでサイコパスだな…。」あの時は何も思ってなくて、ただひたすらに香織に引っ張られるだけだった。デートの道中で見せたあの笑顔や感情は、全部芝居だったのか?


俺はさらなる疑問を、彼女らにぶつけた。

裕也:「こんなこと考えたくもないけど、それだったら意識失わせて手足を拘束して監禁してしまったほうが早いんじゃないのかって。」

綾乃:「香織の考えてることは正確には分からないけど、大体予想がつくわ。」

裕也:「え?そうなの?」

綾乃:「まあ、あくまでも推測だけどね。まず香織はあなたのことを、”ごく普通で自然に”手に入れたかったと思うのよ。けど、突然手足を拘束して監禁したら、パニック状態になるんじゃないかと考えた。強い睡眠薬やスタンガンと言った武器・薬も常備したかったと思うけど、出来ればお金はかけたくない。”ごく普通で自然に”手に入れられる一番の方法が、今回のデートだったんじゃないかな。」

凛花:「そのデートの道中に、香織とのキスの写真や動画がSNSで上がることでクラスメートから孤立させて依存させようというやり方が、頭にあったんじゃないかなって思うんです…。」

裕也:「あの時のデートは、始まりに過ぎなかったってことか…」

恭平:「こうして聞くと、内容が恐ろしくて鳥肌が立つよ…。」

彼女は俺を手に入れたいが為に、手段を選ばず自分の思うがままに言葉を発したり行動させていた。親友の気持ちも考えず、心を傷ついているのにも分かってないだろう。ハッキリ言って、やってることが悪人じゃないか…。


裕也:「で、でもさ…。その考えを、わざわざ香織自身から告げた理由が分からない。どうしても気になるんだけど…。」

綾乃:「親友なら協力するだろうと踏んでたんでしょ。結局は、脅されて従う形になったけどね。だから、初めて香織に反抗したの!この日記も香織がいなくなった時に棚から咄嗟に取ってカバンにしまったの。」

凛花:「見た感じ、軽く50冊以上はあったと思います…。」

恭平:「でも、それって…、香織にはもうバレてるってとこ?」

綾乃:「多分。尋問を受けるか殺される。いずれもロクな目に合わない。だから…」

裕也:「だから?」

綾乃:「それは、裕也君に持っていて欲しい。見るのも億劫だと思うけど、少なくても私たちよりは良いと思うんだけど、どうかな…。」

裕也:「わ、分かったよ…」(そりゃ、持っとくしかないよな…)

もうあんなの見たくないけど、親友や恭平が犠牲になっていくのはもっと嫌だ!

綾乃さんのやったことが罪だって言うんなら、罪と罰が釣り合ってない!彼女たちは、香織に怯えながらも命がけでこのことを伝えようとしてくれた。

今度は俺が香織とこれから真剣に向き合っていく番なんだけど…。

凛花:「裕也さん、香織と付き合うのかどうか、ちゃんと決めたほうがいいと思います!いえ、決めて下さい!」

裕也:「凛花さん、それはしたくても、この場では…出来ない。」

凛花:「え?どういうこと…?」

裕也:「確かに香織のもう一つの顔も知れたし、彼女の恋愛感情はもう暴走しているのも分かった。今後、接し方が重要になっていく中で、このヤバい側面を知らずに過ごすほうが大問題だとも思ってる。一歩間違ったら俺とか恭平、綾乃さん、凛花さんまでも手が付けられなくなるし、早く手を打たないとまずい。」

綾乃:「それなら、問題ないと思うけど…」

裕也:「けど、【香織と付き合うのかどうか】の答えは、俺では簡単に出せない。仮にやっても中途半端になりそうだし、そんな返事なんて香織も望んでないと思う。」

恭平:「じゃあ、どうしていくつもりなんだよ?」


裕也:「香織とは普通に接していく。」

3人:「「「……えぇ?」」」

彼女らは左右に首をかしげる。だが、俺はこう言った。

裕也:「今の香織は、裏では俺のことを狂ってるように愛してるけど、表では平静を装ってる。急に話すのをやめたり無視したりと怪しい行動をとるのは、変に詮索するようになるから、かえって逆効果だと思う。それなら、普通に接していたほうが自然で怪しまれない。とにかく刺激させないことが大事になるんじゃないかって…」

綾乃:「まぁ、確かにそうかもしれないけど、上手くいく…?。」

裕也:「やるしかない!結果なんて二の次で良い。3人も普通に接していってほしい。……いえ、接してください。お願いします。」

綾乃:「う、うん」

凛花:「わ、分かりました…」

恭平:「裕也のことなら何でも聞くぜ!」

裕也:「ありがとう…、みんな」

こうして、香織の親友との話し合いは終わってみんな解散した。気温は5℃らしいけど、集中してたら寒さなんて、微塵も感じなかった。その後、恭平とは途中まで会話しながら帰った。家についてすぐに、自分の部屋まで行って香織の日記を机において、ベッドに腰掛けた。

(明日は勉強の休憩がてら、少しだけ読んでおくか…。)

そう思いながら、就寝した。笑ってる香織のことが夢にも出てきて寝れないこともあったし、香織の本性は知るべき事実だったけど、本当に知りたくなかった…。

あと、もの凄く気になっていることが1つある。



【なんで、普通でつまらない俺がこんなにも好きなのか】

どんだけ考えても、俺には分からなかった…


だが、日記にヒントが書いてあった



→第6章-1『壮絶な過去 前編』へ続く




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る