第7章 知らなかった彼女のいじめ

(嘘だろ?、信じられない…)

今では有名国立大学に余裕で受かりそうなくらい成績優秀で、教師たちのみならず全生徒から頼られる”理想に一番近い高校生”なのに、中一の夏休み明け直後からいじめられていたなんて…。中学と高校とのギャップの激しさに、俺は目を泳がせ口を覆うことしか出来なかった。


だが、中学で起きたいじめの話を全く知らないというわけでは無かった。

というのも、とてつもなく態度が悪い同級生のグループが入学して間もない頃から

まるでブレーキが壊れてしまったスポーツカーのようにいじめや暴力を振るって暴れ回っていた。その事もあってか数多あまたのクラスメートが怖気づいてしまっていた。

香織も怖がっていたけど、この当時から橋本環奈似の美貌で中学生とはまるで思えなかったし、ほとんどの生徒からも信頼を置いていた。

いくら、態度が悪くても香織にはそんな簡単にいじめを振るわないだろうと皆が思っていた。俺も、香織なんて変なことさえしなければ、荒れている学校だろうが普通に生活できるだろうと安心しきっていた。そう思っていた。


だけど、違った。彼女は、いじめられていた。この【観察日記】は、俺が今まで信じていたことにノーと言い、香織の身に何が起こったのかその真実を伝えてくれた。

怖い物ばかりだと思っていたが、そこに隠された経緯や真実が記されていた。

文章に挙げていたらとんでもない数になる。強いて表現するなら、400字の原稿用紙数百枚以上、1000枚よりも多いかもしれない。それくらい、例のグループは彼女に長い間目を付けて、差別や恐喝を他のクラスメートよりも数多く行われていたのだ。

何の罪もない人をギロチンにかけて、そのことを楽しんでいる狂人と同じように。

そんな卑劣な行為を、俺の知らないところで誰にもバレないようにコソコソと彼らはやっていたのだ…。こんなのが、のうのうと楽しく過ごしている現状なのか。本当にタチが悪い。


そして、例のグループからいじめを受けた時から約2か月後のある日。

『11月25日(土)もう疲れた…。あのいじめから解放されたい…。それってもう死ぬしかないよね。何でもっと早く気付かなかったんだろう。いじめのことを先生や親に何度言っても、そんなことないだろって逆に注意された。もう誰も信用できない。気を紛らわそうとして、いじめから屈せず立ち直ろうとしたけど、もう無理。長く苦しい思いをするんだったら、最初から死ねばよかったんだ。自殺する場所とか日程とか決まってない見切り発車だけど、そうしよう。

でも最後に死ぬ前に、学校に登校して別れの言葉を言おう。それだけしよう。バイバイ、今までありがとう。末永くお幸せに。』

彼女は病んでしまった…。

もう、自身ではどうにもすることが出来ないと一生いじめられる人生になると。

だったら、もう死んでしまった方がマシだと。

こんな人でなしのクズに、彼女は人生を破滅させられて追い詰められていた。

これが5年前に起きた本当の話だ。

(何でもっと早く気付けなかったんだ。絶対に許してはいけなかった…。)

でも、俺は最低だった。彼女がいじめられていたこと、苦しんでいたのにも関わらず、気付かなかったんだから。



でも、その後のページで書かれていたのは、

『11月28日(火)裕ちゃん、ごめんね。本当に私、バカだった。死のうとしてたこと、許して…。死ぬだなんて、もう2度と言わないから。これから、前向きに生きようと思う。その反面裕ちゃんが他の女に取られるんじゃないかって思ってしまった。

今度は、私がお返しする番だね。上手く出来るかどうか分からないけど、この想いが届くように必死で頑張る!』

俺のことで日記が埋まっていた。


(どういう事だ?)

死のうと決意していた日からわずか3日後、強く生きようとしてくれたことに嬉しさかった。けど、こんな短期間で思考がガラリと変わるものなのか?でも、これは香織に聞いてみないと分からなかった。正直、聞きたいことが山ほどある。

「明日、聞いてみよう。何か分かるかもしれない。」

そうやって、俺は休憩時間を終わらせて夜になるまで勉強した。晩御飯をいっちょ前に平らげると、明日の学校も早いため23時になる前に床についた。



翌日1時間目の授業が終わったころ、香織から俺に珍しく話しかけてきた。

香織:「ねえ、相談したいことがあるんだけど。」

俺:「え?相談したいこと?」

香織:「そう、大事な話」

俺:「…分かった。いつにする?」

香織:「今日の夜、裏山の神社で!空いてる?」

俺:「了解。」

香織:「じゃあ、待ってるから。」

俺:「うん。」

その雰囲気は、いつもの香織じゃないとすぐに分かるほど重く感じた。もし、拒否していたら、何か殺されそうと自分の危機センサーみたいなのが強く反応していた。

直感だけど、確かに殺気みたいなのを感じたのだ。

しかも、待ち合わせが夜の裏山の神社でって、不気味過ぎる。

そんな場所に待ち合わせするなんて普通に考えたらおかしい。

いつもの香織では、あり得ない思考になってしまっている。どういう展開になるのか分からないが少なくとも何かしら企んでいると感じた。

放課後、俺は最悪な事態を想定してダイソーでカッターを買った。

あくまでもこれは保険ではあるが、何が起こるか分からないので一応コートの右ポケットに入れた。


日が沈んで月が明るく見える夜空になった頃、私は自宅を出て神社に向かった。

正直、どんな話をされるのか怖い。笑顔で引きつるのがやっとだ。もしかして、俺は殺されてしまうのか?と思ってしまう不気味さが、あの時には確かにあったんだ。

香織に恐怖心を抱いたのは初めてだ。何を考えているのか分からないからこそ、どう対応すればいいのか分からないのだ。

俺は、駆け足で向かって神社に到着した。すると、そこに先に着いていたであろう香織の姿があった。俺は、重い口を開けて香織と会話した。

俺:「ごめん、待たせてしまった。」

香織:「ううん、そんなことないよ~。私も結構遅れるときあるし。」

俺:「そう…なんだ。んで、重要な話って……何?」

香織:「……」彼女は、しばらく黙り込んだ。俺は何回も唾を飲み込んだ。

どんな話をするのか、期待と不安を抱いていた。

そして、彼女は確認するようにこう言った。




「私のことで4人と話し合っていた、よね?」



→第8章「決断」へ続く。




























































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歪愛 ~幼馴染の狂った愛~ ヤンデレ作品大好き家族 @akihiro-novel10093

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