第6章-1 壮絶な過去 前編
『裕ちゃん、もっと私を好きになって…』
(あぁ…、眠れない…)月の明かりがすっと消えた真夜中だが、ハッと目が覚めた。
(ダメだ!香織のことが頭から消えてなくならない!)
と、同時にフラッシュバックも起きてしまった。デート後の学校でのいじめの記憶。
(またイジメられる…! も、もうやめて…、許して!)片方の目に、涙が浮かぶ。
聞こえもしない幻聴・見えもしない幻覚が、脳の大半を蝕んでいた。
大量の麻薬でも飲んでたんじゃないのかと思うくらいに、そして離れたくても離れられない程に印象強く残ってしまった。
今まで全然気にしてなかったけど、よくよく考えてみればあの事件以来、彼女以外に話しかけたのは恭平ぐらいだ。他のクラスメートと彼女を慕う後輩から、ゴミを見る目で俺を見ていた。今にも石やゴミを投げつけるぞと言わんばかりに…。
本当に周りの目が怖くて、彼女がいないと安定生活を送れない状態になっていた。
高3の秋だったけど、中退して負け組の人生を歩んでた方が気楽だと思ってた。
だからこそ、彼女が寄り添ってくれた時は
唯一の希望とも思えたし、至福の
こんなにも貴重で濃密な時間を過ごせるなんて俺は幸せ者だったのだ!
色んなアピールをしながらも、フラれるどころか1秒たりとも彼女の隣に入れない沢山の男子が、嫉妬してしまうのもようやく分かった気がした。
彼女の手のひらで踊らされていることに気づきもせず、俺はただ感賞してた…。
事件の首謀者が香織だと聞いたときは、本当にショック。恭平から伝えられたあの日から覆された。知ってはいけない正体を知ってしまった。
こんなの知りたくもなかったさ。でも、いつかは知るべき事実だった。
何回も想いや感情が交錯して、複雑に絡み合っていった。
自分も自分でバカだった。全部が計画されて動いていたことに、怪しいとも思わず、いとも簡単に騙された。恭平や親友さんから言われてなければ、疑問にも思ってなかった。香織の本性はどっちなのかも、香織は何を思って俺と接しているのかも分からずに頭がパニック状態になりそうだ。そうやって、自責の念に駆られている。
気がつけば、もう朝の8時半。日曜日だったから良かったものの、大学受験を間近に控えてる高3にとっては背筋が凍るどころのお話じゃないくらいに、大惨事だ。俺は半分寝てる重い身体を何とか持ち上げて、洗面所で歯を磨いて顔を洗い、熱々のコーヒーを一口大に飲んで、ようやく目を覚ました。
(うーん…、勉強に身が入らないかもなぁ…)
昨日見た【観察日記】の続きがどうしても気になってしまう。あんなおぞましい文章は2つや3つ見ただけでも、自分たちが心を病んでしまうというのにごく一部の量だって言うもんだから、色んな意味でヤバい。
でも、こんな平凡丸出しボーイとあだ名がついてそうな俺を狂ってしまうほど好きになった理由とか、どれだけ俺に
(とりあえず見て、確認するしかない! やるしかないって決めたろ!?)
用意してた食パンとバナナを速やかに食べた後、すぐ自分の部屋に向かった。
正直この【観察日記】は、誰も見たがらないし、遊び半分で見ない方がよっぽど良い。これを書いた人と見た人にしか分からない存在意義がある。特に俺はその価値がとてつもなく高いと感じた。それは決して、参考書を一通り読んだ後のついでに軽く読むものではない!受験勉強で集中できなくった時に生半可な気持ちで読もうかなぁとしてたのが間違いだった!俺は、勉強を始める前に【観察日記】の最初の1ページを恐る恐る開いた。
それは……、
『4月6日(火) 今日は、中学校の入学式!裕ちゃんと同じクラスになれたらいいなぁ♪ 制服似合ってるよ!って、お父さんもお母さんも言ってくれたし最高の気分!通学路沿いに桜並木がズラーッと生えてて、とても綺麗……。ここを3年間通い続けるのかぁ~。これから始まる中学生活、不安だけど頑張るぞー!オー!』
心から楽しそうな彼女の成長日記だった…。
→第6章-2 『壮絶な過去 後編』へ続く
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