最終話 ボクたちはみんな特撮ヒーローになれなかった

 2022年1月。

 喫茶店でこの最後の章を書いている。この作品はカクヨムコンに応募しているので、文字数を気にしながら。

 店にはPCを広げている若者がちらほら。僕が歳をとったせいだろか。みんなかっこいいしかわいい。あのレッスン場にいた「イケメン」どもよりずっといい、と思う。

 駆け足になってしまった。


 あの時のライブの人気投票で、僕は2位となった(一人芝居のほうである)。イケメングループは結局票を集めることはできなかった。1位になったのは、「やるな」と睨んでいた二人組だ。晴れて上位だった僕たちは事務所所属が決まった。

 その後、イケメングループは解散となり、お笑いに未練がある講師が僕とイケメンの一人を組ませようとしたがぐだぐだとなりたち消えた。

 僕は一つ、モデルの仕事をして、いくつかオーディションを受けたがすべて落ちた。特撮から声なんてかからなかった。

 催眠術講師はいつのまにか消えた。


 あのライブに出た人々全員、特撮ヒーローになんてなれなかった。


 結局僕は俳優を諦め、小説家になるべく京都の芸大に入学する。これはこのエッセイとはあまり関係がない。いつか小説にでもするだろう。

 あのまま芸能事務所にだらだら所属していたらどうなっていただろうか、と考える。多分鼻持ちならないやつになっていただろう。仕事がないのを誰かのせいにし、ただ息をして食って寝ているだけの。想像しただけで反吐が出る。

 何年か前に事務所のホームページを検索してみた。まだあった。知っている顔が一人だけいた。Yくんである。べつにかっこいいわけでもないスーツ姿ではにかんでいる宣材写真があった。仕事履歴を見る限りたいしたことはしていない。いまもきっと芝居は下手なんだろうな。


 そして先日、仏教について調べていたらHくんがでてきた。役者をしながら雲水として海外で禅の布教活動しているらしい。彼はもう僕のことなど忘れてしまっただろう。自分のやりたいことを、いまも取り組んでいる。


 もう顔を思い出すことのない人たち、ネットに出てこない人たちはどうしてるだろうか。特撮ヒーローになれなかったけれど、みんな、好きなことをしてくれていたらいいと祈る。


 僕も、特撮には出られなれなかったけど、小説家になっている。

 二十代を僕たちは無駄にしたんだろうか?

 朝にスーパー戦隊や仮面ライダーをちらりと観てしまうと、心がざわつく。そして、なぜかほっとする。

 今の自分が好きだからだろう。でもちょっとだけ、ちやほやされたかったし、演技に熱くなっていたら、どうだったろう、とか。

 しょうもないことを夢見て、なんの役にも立たない人間だった僕たちの人生は、続く。


 おしまい。

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ボクたちはみんな特撮ヒーローになりたかった キタハラ @kitahararara

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