第8走
使用人たちと共にボスキャラの三人が笑顔で湖の浅瀬を駆け込んできた。
「おめでとうございます!やっとだよ!」
「ほんと!うまくいってほんっとよかった!」
「ごめんね?大丈夫だった?えっと、テトラちゃん?」
三人に口々にお祝いを謝罪を言われ、ますます固まってしまった。
彼女たちがあのおっかないボスキャラ?信じられない。リボンが両手を顔の前で合わせて必死に謝ってきた。
「ほんと!本当にごめんなさい!熱くなりすぎるなって師匠にも散々注意されてたのについ楽しくなって。アルフォンス様お強いんですもん!」
「‥‥いや、貴方の方が強いから‥」
「殿下の方がお強いですって!師匠みたいでした。かなり本気出したのに悔しぃ!しかも蹴り飛ばされちゃったし。速くて見切れなかった!イケメンでこんな強いってズルイです!」
え?やっぱり僕のこと倒しにきてたんだ?殺気半端なかったしな。
両手で握り拳を作りぶんぶん悔しそうに振っている。カチューシャも腕を組んでうんうん頷いている。
「いやほんと。直線トラックであれ程逃げられたのは殿下が初めてです。テトラちゃん抱っこしてあのスピードはないわー。勿体ないので是非今度公式の大会に参加してください。」
「私もさー、あの隠れ家見つけられなかったよ。本職なのにさぁ。ヤバいー!テトラちゃん出てこなかったら一生わからなかったわ。」
ポニテがガッカリとばかりに天を仰いでいる。
これはどういう意味だ?自分にガッカリと言うなら僕もなんだが。
リボンがキリリとした、とてもいい顔で右手を差し出してきた。
「次回も是非呼んでください。今度こそ負けませんから!」
「私も是非!できればこの三人でまた組みたいな。」
「私も!楽しかった!次の景品はスイーツ食べ放題にしてください!」
「「いいねそれ!!」」
呆気に取られながら三人と握手をした。
え?次があるの?今度こそ負けないって何に?もうこの三人は勘弁してほしい。
そして三人はテトラとハグをし笑顔で手を振って去っていった。帰りにどこのケーキ屋に行くか話し合っている。
もうなんか訳わかんなくなってきた。
その後使用人たちに取り囲まれテトラと離されてしまった。王宮に戻り風呂に入れられ着替えをして。
そして現在。
ソファに腰掛けた僕は正面でしおしおと頭を下げるルッツに驚いていた。
僕の背後にはジルケ。目の前に何杯目かのコーヒーを置いてくれた。
クタクタに疲れて風呂で溺れかけたが濃いコーヒーで何とか起きている状態だった。が、話を聞いて眠気は吹き飛んだ。
「まずはお詫びを。殿下の本気を舐めていました。」
「ん?」
「あそこまで身体能力に優れているとは思いませんでした。なんですかあれは。普段は全然手を抜いてますね?あれならば武道大会でも陸上大会でも優勝できます。」
確かに普段は手加減していた。というより爪を隠していたと言って欲しかったが。手抜きと言われるのは心外だ。
毎朝一人、
「王子が普段から本気を出す必要もないだろう?」
「せめて近衛の私にはお知らせいただきたかったです。お陰で軌道修正が大変でした。」
そうだ。その話があった。
「ということはやはり今回はお前の仕込みだったんだな?」
「まあそうなんですが。」
疲れたようにルッツが嘆息する。
「殿下がこれ程とわかっていたら
ここは否定しておかないと。マジで怖かった。
「いや、ボスはあれで十分だった。本当に。彼女たちは何者だ?」
「ツテを頼って腕に覚えのある子を呼びました。今年の武道大会女子の部優勝者に陸上短距離走の期待のエースの
絶句。令嬢ですらない。ボス全員がプロだったのか。と言うことは?
「他はエキストラです。足の速い子を自薦他薦で広く募集しました。棄権せず完走すれば王宮スイーツお持ち帰り。ものすごい応募で予選が大変でした。」
また絶句。令嬢たちですらニセモノか?
王宮スイーツ?だからあんなにやる気だったのか。ピラニアの餌は僕ではなくスイーツ。あのやる気が別の意味で恐ろしい。
「流石に本物のご令嬢にあのようなことはお願いできません。足も遅いでしょうし。何より危険です。」
「じゃあ僕が彼女たちにキスされてたら?」
「当然無効です。それはそういう条件で宣誓書もとってます。まあそうなっても殿下がキスロスするだけだろうという事で。」
「いや、被害甚大なんだが?!」
そこは黙殺された。腹立つな!
「スタート前のルール説明は?!キスのくだり!!」
「当然シナリオに沿った演技です。テトラ嬢を除く参加者全員、本会の本当の意図は理解してました。」
シナリオ?演技?全部?
そこまで徹底的に仕込んだのか。
「スタッフも全然足りませんでした。鬼ごっこのどさくさで誘拐や事故は洒落になりません。ですがこんなもんだろうと配置した以上のエリアを王子殿下が高速で駆け回って下さったんで全員追跡でヘトヘトです。一枚岩の崖を足だけで飛ぶように登る?木の上を走る?後から報告を受けて度肝を抜かれました。目撃証言も複数あり見間違えでもないと。あれは参りました。」
スタッフは本当に不測の事態に備えて、だったのか。
まあちょっとトリッキーな動きはしたがそんなに驚くことだろうか?
「湖への落下も人手不足に加え、展開が早すぎて防げませんでした。あれは完全にこちらの手落ちです。クレマン卿からも先程お叱りを受けました。バルツァー侯爵およびテトラ嬢には改めてこちらから丁重にお詫びを申し上げます。」
「そうだな、そうしてくれ。僕からも侯爵とテトラに謝罪を入れなくちゃいけないな。」
僕の言葉にルッツはますます頭を下げた。
あそこは森の奥の奥。庭園の端で湖手前の穴場。僕にとっては庭だがあそこまで行くと思わなかったのは仕方がないだろう。
「挙句はあの隠れ家。殿下の隠れ家は全て把握してるつもりでしたが、我々の知らないところに隠れられてしまい心底慌てました。出て来てくださって本当によかった。」
さらっと色々知ってるぞと言ったな。隠れ家なのに。
じゃああの場所がバレたのは偶然か。ポニテもわからなかったと言っていたし。
はぁぁ、とルッツが精根尽きたように
こいつも苦しんだようなので僕の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます