第6話 多様性外交
「オーガの部族との協力を取り付けた」
人間と敵対していた勢力との和平を次々と取ってくる敵幹部。
王様の了承などは一切取ってないのだが、敵が減るのは良い事だ。ラブアンドぴーす。
「しかし、今まで争っていた部族と良く和平ができたな」
スイヘイが感心したように言う。
「今まで、人間は他種族を受け入れない排他的で高慢な一族と思われていたからな」
それが敵の幹部を招き入れたというのだから、雪解けの可能性があると見られたのだろう。
「いうなれば、犬や猿のように『言葉の通じない動物』と思っていた種族が話し合いという手段を覚えた感じだな」
人間って魔族からはそう見られていたんだ…。
「たしかに人間は他種族と見ると問答無用で切りかかってくるイメージがあるわね」
「エルフがそれを言うかね」
人間はエルフやドワーフと交流を持とうとするが、エルフの場合 人間でも対話なしで襲ってくる場合があるからなぁ…。
しかし、そう言われてみたら人間って多種多様な魔族と交流を一つももててないな。
見方を変えれば、他宗教が活躍するのを一切許さない戦国時代のキリスト教みたいなものか。そりゃ、苦戦もするな。
人間が世界取ったら魔物たちは皆殺しにされるんだから。
それが、話し合いで仲良くできるのなら、この敵幹部は人間にとって救いの神になるのかもしれない。
「ちなみに、互いのオーガは洞窟の中の珍しい鉱物を年に一度出す代わりに、こちらは食用の人間を10人贈ると言うことで話がついたぞ」
「ついたぞ。じゃねえ」
食用の人間なんていねえよ。
前言撤回。やっぱり、警戒が必要だわ。こいつとは。
・・・・・・・・・・・・
「おやおや、食用の牛や豚だっているんだ。オーガからしたら人間だって餌なんだから、『いない』じゃなくて『いないことにしたい』だろう」
と敵幹部は言う。
たしかに家畜という存在を作り出している人間が言える事じゃないが、それでも食用人間と言う存在は否定したい。
「同族を他国に食用で売り渡しては国民の反発が強い。さすがにそれはダメじゃな」
と、王様が王様らしく、感情ではなく理性的に答える。
そうだ。そんな事をしたら国民が暴動を起こすだろう。
そう返答を返すとサンストーンは
「だったら、死刑囚や奴隷を贈ればよいではないか。働きもしない、人間に害悪をもたらす存在を贈るだけで他種族と友好が結べ、たった10人の被害で人類の損失はふせげるのだぞ」
メフィストフェレスのごとき悪魔のささやきをする幹部。
「なあに、人間社会だって食べはしなくても政治的に死に追いやったり、奴隷という残酷な状態にあるのを是としているではないか?それに互いに殺しあっている国同士でも国交はある。食用の人間を贈って何がわるいのだ」
すごい詭弁を持ち出してきた。
たしかに、オーガ族との戦いで数百人単位の死者が出ている。理論的に考えれば戦死者が減ることにはなるだろう。
だが
「それでも、その要求は飲めぬな」
そんな事をすれば罪人がいなくなったとき【食べられても良い役に立たない人間】というのを国民は探すようになるだろう。
そうなれば、国民は互いに互いの足を引っ張りあい知り合いを売るようになる。
「国という集団は、問題は多いが互いの信頼と協力で成り立っておる。貴方の献策を用いれば今後数千年の禍根をもたらすだろう。今後このような提案は謹んでいただきたい」
と、珍しく立派な態度で王様が言う。
とても、小遣いのような金で鉄砲玉のように『魔王の命とってこいや』と命令した人間とは思えない。
「代わりにこちらから出せる条件と言うのはないのかのう」
代案がないか王様は尋ねる。
「ないな。あいつらは食糧以外の不足物資は今の所見つけてない。武器すら丸太ですますような連中だぞ。金を送ったら投げて遊んだことがあったな」
イワンの馬鹿みたいな国なんだなぁ…。
仮に商人を送り込んでも商人が商品として食べられそうだ。
かと言って、折角和平が出来るなら結びたい。
悪魔ならぬ魔族のささやきに乗って10人の犠牲で済ませるか、それとも族滅するまで争うか?
真剣に悩んでいると
「わんわん(ご主人様。ちょっとよろしいですか?)」
ん?フネか。どうした?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数日後。オーガの国には、次の手紙が添えられていた
「我が国で最高の食材で20日間育てた人間と、ふつうの餌で育てた牛を一頭づつお贈りする。どちらが役に立ち、おいしく食べられるかご検討いただきたい」
それから人間の国はオーガの国に10頭の牛を贈る事になった。
「人間が考えた案より犬の方が賢いというのもどうなんじゃろうなぁ…」
スイヘイが呆れたように言うが、まあ流石お犬様と言う事で納得しよう。
魔王の幹部が弱体化せずに亡命してきたらチート過ぎた 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru
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