第5話 小話 魔王の声

「そういえばさ、前から疑問に思っていたのだけど」

「何だ」

 紅の玉のように光輝く赤髪をなびかせて敵の幹部は美声で以て答えた。


「前に俺がこの世界に飛ばされてきたときに、王様と話していたら魔王の声が聞こえてきたことがあるんだけど」


 こちらの世界にきて、王様と謁見していると不意にどこからともなく声が聞こえてきた事があった。

『愚かなる人間どもよ。まだあらがおうと言うのか。無駄な抵抗を続けるとは嘆かわしいことだ』

 地の底からうめき声が聞こえてきそうな声だった。

 聞こえたのは頭の上の方だったが。


「ああ、あれか」


「あれは我が城の天井から魔王の伝言を朗読していたのだ」

「まさかの人力仕様!!!」

 そもそも、城に隠し水晶玉(隠しカメラのようなもの)を仕掛けていたが、そこから声を出せば場所がバレる恐れもある。

 そこで、自由に移動が出来る幹部が直接語りかけてきたというわけだ。


 この豪華で瀟洒な大魔王幹部が裏方のように天井裏から声真似をしていたと思うと結構笑える。

「貴様。何か失礼なことを考えてなかったか?」

「いいや。何にも」

「昔は使い魔を一匹送り出して伝言を伝えさせたのだがな」

 小型のコウモリ形の魔物を呼び出す。

「あら、かわいい」

 地球のコウモリと違い、饅頭のような丸い体にほんわかした目がついている姿はとても魔物とは思えない。

「こいつを媒介に魔王の声を届けさせたところ『かわいい』『あいらしい』『声がいらない』などと言われて威厳がなかったのだ」

 心外だと言わんばかりの表情でいう。

「まあ、姿を現さずに声だけを出すというのが一番無難で問題ないだろうと言うことで落ち着いたわけだ」

「しかし、おまえさんみたいな人間が、あんな汚い屋根裏に入るとは意外だな」

「ああ、あまりにも汚いから埃などは全て焼き尽くしておいた。」

「それ、そのまま火を付けたら勝てただろ!」

「それは魔族道精神に反するだろう」

 化け物レベルに強い幹部だが、こと倫理感に関しては潔癖すぎて本当に良かったと思う。


「ふむ。しかし、言われてみれば確かにその手は有効だな。参考にしよう」

 するな。

「?というか、その場でこの男と人間の王を始末すればよかったのではないか?その時はまだLV1の若造だったのだろう?」

「それは思いついても言ってはだめな事でしょ」

 身も蓋もない事をスイヘイが言ったのでリーベがたしなめる。

「たしかに、そうすれば問題は全て解決したのだろうがな」

 何でも大魔王様という存在は強敵を倒してこそ認められるのだという。


「たしかに、弱肉強食の世界で暗殺や呪殺で倒したとしても、部下たちも人間も勝敗を認めないだろうなぁ」

 もっともなようだけど、どうも釈然としない。

「まあ、抜け駆けをすれば魔王の四天王や家臣からの嫉妬がうるさいだろうからな。人間を征伐した後の組織内のパワーバランスを考えると、全員にまんべんなく功績を与える必要があったのだ」

 勝利後の政策のために勝利を保留にしている。

「魔王軍はばk………バカなのかな?」

「おい、何故言い直そうとしてやめた」

 いや、だって…………………………バカじゃん?

「こちらとしては国内の不満分子の目を反らしたり、やっかいな家臣を合法的に処刑できるから便利ではあったのだ。特にお前たちが魔王を倒してくれれば、復讐の名目で討伐できたし、家臣たちの指示も増える。大魔王様の統治する地盤が出来るというわけだ」

 同士討ちをさせて消耗したところを一気に刈るつもりだったという。

「それが大魔王の死亡で失敗したのか」

 運命の女神は底意地が悪い。



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