第5話 それぞれの想い
「ここが私たちのお家。中で父さんが待ってるわ。」
ライチさんに案内されるままに僕たちは里の中心にある大きな屋敷に入っていった。
「随分と広いですね。」
「ここの主人がでかいからな。」
屋根が高く、開けた作りに興味を持つ僕に師匠は答える。
やがて奥に進むと1番広い部屋に着いた。
「父さん、客人です。ゴウさんとそのお弟子さん方ですが入っても大丈夫?」
「入れ」
中からは低い声が聞こえた。この先に師匠の知り合いがいる。
(一体どんな人だろう。)
恐る恐る僕たちはライチさんの後をついてゆく。
「ゴウか、久しいな。弟子を作ったのは本当だったか。」
「久しぶりだなシデン。会えて嬉しいよ。」
師匠と話すその巨漢に目をうばれる。
ベッドから上半身を起こして喋るその漢はライデンやライチと同じ色黒の肌をしているが髪や髭は白い。そして驚くべきはその巨体だ。3メートルはあるだろうベッドにギリギリ入るほどの大きさ。
(この人が師匠の知り合い。声だけを聞いただけでわかる。この人が里の中で1番強い。)
「体は動けるのか?」
「動きたくないだけだ。その気になれば大丈夫だが、無理して動くほどのことはない。」
「そうか。そういや土産を持ってきたんだった。好きだったろこの菓子。これでも食べながら昔話でもしようぜ。」
(師匠の過去が知れる!めったにないチャンス!)
だと思ったその時。
「じゃあ父さん、ゴウさんとお話し楽しんでね。ユウ君とサキちゃんは二人の会話が終わるまで里を案内するよ。」
とライチさんに勧められた。
「おう、そうした方がいいだろ。2人とも楽しんでこいよ!」
そうして言われるがまま僕たちは屋敷から追い出された。
「2人ともごめんね。プライベートなことだから君たちに聞かせるのはちょっとと思って。」
そう言いながら謝るライチさん。
「でもよかったんですか?」
「ん?何が?」
「ライデンって人、置いてきちゃいましたけど」
「あ、」
サキの質問にライチは固まる。
(そういえば誰も指摘しないから師匠がおぶったままだ。)
「ま、まぁ。気絶してるし問題ないでしょ!」
この人も師匠とおなじ雰囲気がする。そうサキと思いつつ僕たちは里を見学した。
「ライデンが迷惑をかけたな。そいつはこの里じゃあ1番の暴れん坊だから手を焼くよ。」
「まるで昔のシデンみたいだよ。お前もすっかり丸くなったな。」
互いに語り合う2人。ライデンは2人が喋ってる部屋の隅で眠っている。
「ゴウみたいなやつに鍛えられた方がライデンのためだろう。あいつは自分の力を過信しすぎるあまり成長しきれてない。」
「たしかにそうかもな。まだ芽が若いってのが俺の素直な感想だ。正しい力の使い方を知ればライデンはきっと強くなれる。」
「なら交渉成立だな。俺はもうあいつを面倒見れるほどの時間を持ってない。」
「わかった。お前みたいに強くしてやるよ。」
ユウとサキのいない場で新たな弟子が増えることになった。彼らはどう反応するかはまだ不明である。
「ところで...【奴ら】がまた動き出すかも知れない。」
「それが今回来た主な理由だな。」
ゴウとシデンは真剣な顔で話し出す。
「覚えてるか?マキナという国を」
「懐かしいな。たしか機械技術が凄かった国だろ。それがどうした?」
「そこの国王が死んだそうだ。」
「なに?」
突然のことにシデンは驚く。
「だがそんなの世間じゃ一度も聞いたことないぞ。どうやってそれを知った。」
「いつもの【アレ】だよ。それで俺の方に仕事が来た。」
「なるほど。しかしお前らは忙しそうだな。昔も今も。」
「俺もお前みたいに辞めたいけど、でも俺には恩があるからな。そのために俺はやるさ。」
過去を思い返しながらゴウはその言葉を言う。
「まぁそんなことだから気をつけろよってこと。いつ何が起こるか分からない。ここの奴らはみんな強いが、いざって時に動けなきゃダメだろ。」
「わかった。ならこんなとこで寝てる暇もないな。あいつらに伝えておいてくれ。薬を作ってこいと。」
「おう、任せとけ。なんたって俺のいる所はヤベェ奴らがいっぱいだからな。時間はかかるだろうがお前を治す薬の一つや二つすぐに作れるさ。」
2人はその後も語り合った。寝てるライデンのことを忘れながら。
やがてライチが2人を連れて帰ってきた。
「おー!お前たち!いいもん見れたか?」
「すごかったです!家には電気の貯蔵庫があって皆さんそこに電気を溜めて生活してました!お風呂や料理も全部電気で統一されてます!」
「それと里の子供達と遊んだんですがみんなすばしっこくて、本気出さないと追いつけないくらいです!」
その後も興奮しながら師匠に今日の出来事を話すサキとユウ。
「わかったわかった!とりあえずお前達の良い経験になったようだな!連れてきたかいがあるってもんだ!」
そんな賑やかな様子を感じ取り起き上がる人がひとり。
「いってぇ。まだ体がきしむ。つかなんで家にいんだ?」
気絶してから数時間が経ちライデンは目覚める。この部屋で唯一置いてけぼりとなっているのが彼だろう。
「あっ!つかなんでてめぇらがここにいるんだ!」
「ゴウさんのことを忘れて襲い掛かったアンタが悪いんでしょ!自業自得よ!」
「んだと!姉貴には関係ないことだろ!」
「やめんか2人とも!」
ライデンとライチの姉弟喧嘩に痺れを切らしたシデンが一喝する。雷鳴が轟いたかのようなその声に僕たちの体は硬直した。
(本当に雷が落ちたかと思った...)
胸に手を当て心臓があるか確認する。どうやら飛び出てはいないようだ。
「まったく。特にライデン!お前はこれから世話になるんだから態度には気をつけろよ!」
「はぁ?世話になるって、誰にだよ。」
シデンは1人を指差した。
「ゴウだ。」
しばらくの沈黙が続き各々が口を開ける。
「はぁ!?」
「父さん!それってどうゆう!」
「知らないんですか!この人私たちに襲い掛かってきたんですよ!」
「師匠...まさか。」
ライデン、ライチ、サキの3人が驚く中、僕の中は嫌な予感を思いつつ師匠に尋ねた。
「あぁ、ライデンも俺が面倒を見る。昨日の敵は今日の友って言うだろ。まぁよろしくな!」
「絶対に無理です!」
サキはあれから怒りっぱなしだ。あの後里で僕たちの歓迎の宴が行われたがサキはずっとこんな調子。その後はシデンさんのお屋敷に泊まることになったが、師匠が風呂に入ってる間に言いたいことを僕にぶつけている。
「何考えてんですかあの人!前からおかしな人とは思ってましたが今回は訳がわかりません!」
「まぁ落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか!」
大きな声で反論する。今度はサキが雷を落とすらしい。
「あの人、単に弟子が欲しいだけですよ!だから旅に着いているんです!行く先々で勧誘して楽になりたいとか考えてるんです!そうに違いありません!」
「いや、それは違うぞ。」
声のする方を見ると風呂から上がったばかりの師匠がいた。
「じゃあどうゆうことなんですか!」
サキの矛先が師匠にゆく。すると師匠は語り出した。
「明日、この里を出たら俺たちはとある国に行く。そこで俺はやらなければならない事がある。」
「やらなければならないこと?」
僕は師匠の言葉に耳を傾ける。
「あぁ。そこの国に行ってとある人物のことを調べるだけだが、どうもそれだけで終わるとは思えない。もしかしたらその国になにか良からぬ事が起きる。」
「良からぬことってなんですか?」
「て言うか師匠の仕事はなんなんですか?」
僕とサキは交互に質問する。
「そうだなぁ。この際だから話しとかないとな。俺はとある組織に加入してる。その組織のリーダーからいろんな依頼を受けてこれまで稼いでる。サキの質問に対する答えは以上だ。」
驚きの答えが返ってきた。組織?一体どんな組織なのか気になる前に師匠は語り出す。
「そして良からぬ事なんだが、その国で大勢の人が死ぬかもしれん。」
!?
僕とサキは師匠の言葉を聞いて声が出なくなる。
「それを防ぐために今は力が必要だ。だから俺はライデンを仲間にしたい。これから先もあいつの力が必要だからな。」
突然語られる真実。師匠の冗談にしては言葉の重みが違いすぎる。いろいろな考えが浮かぶが、まず先にその言葉を聞いて僕はいてもいられなくなった。
「じゃあ師匠は!これまで何度もそんな事をしていたんですか!その組織のリーダーから仕事を受けて!今まで何度も人を救った!それを僕達に黙っていたんですか!」
「ユウ...」
叫ぶ僕をサキが見つめる。
「そうなるな。」
師匠は呟くように言う。
「まぁ、信じるか信じないかはお前達次第だ。それによく考えたら今まで俺1人で何とかしてきた。今回も何とかなるだろ。お前達はここで預けてもらうように言ったほうが良いな。その後にまた旅を再開しよう。ライデンも弟子にせずここに残らせた方が」
「何言ってんですか!!!」
僕の叫びに師匠は驚く。
「なんでそうやっていつも勝手に決めつけるんですか!自分だけ色んなもの抱え込んで僕達には笑顔作って!そんなんで僕達が納得すると思うんですか!」
「私も!嘘かどうかはともかく1人で行動しないでください!何のために私たちがいるんですか!何のために私たちと旅をしてるんですか!」
僕とサキは交互に叫ぶ。
「誰かを守るために力を使えって言ったのは誰ですか!僕達に教えるだけ教えてその後は何もさせないんですか!」
「これから旅が始まる時に何1人だけカッコつけてるんですか!私たちのことを置き去りにして自分は傷つくことになる!それで良いんですか!」
「「師匠!!」」
言いたいことを言った僕達に師匠は優しく言う。
「本当にたくましくなったな。」
僕達2人を見て師匠は言葉を続ける。
「だがいいのか?俺のわがままにつきあって。」
僕達2人は顔を見合わせ笑う。
「師匠に鍛えられた体が役に立つなら僕は構いません。」
「私もです。師匠との修行に比べたら楽なもんです。」
僕たちは決心する。師匠が守りたいものがあるなら僕達も一緒に守ろうと。師匠の後に続くのが弟子なのだから。
「じゃあ、これからもよろしくな!」
「「はい!師匠!」」
3人がいる部屋のまえに佇む影が一つ。
「そんなとこで何やってんの?」
佇む影に話しかけるライチ。
「姉貴かよ。お前もうるさいって怒鳴りにきたんか?」
「べつに〜。アンタのこと父さんが呼んでるよ。」
「親父が?わかったすぐ行く。」
自分の横を通るライデンを見てライチは驚く。
「ライデンにしては随分聞き分けがいいな。なんかあったのかな?」
そんなことを考えながら弟の姿を見る。
「なんだよあいつら。仲良く力合わせて正義の味方とか馬鹿なんじゃねぇの。」
3人の会話を聞いたライデンはぶつくさ言いながら親父の元へ向かう。
「あぁ、ライデンか。よく来たな。まず俺の話を聞いて」
「そんなん聞く必要ねぇ!」
ライデンは叫ぶ。
「ゴウの事も思い出したよ。そーいやそんな奴いたなって。そんでもってそいつの考えも大体わかった。親父の代わりに俺の力を必要としてるらしいな!」
「話しが早いな。盗み聞きでもしたか?」
シデンは笑いながら答える。
「で、どうする?アイツに着く気はないか?」
それを聞いてライデンはにやける。
「着いてやるよ!ここにいても退屈してたからなぁ!ちょうどいい!アイツについて行っていつかアイツの弱みとか色々握ってやらぁ!それに良さそうな女もいたからな。成長を見て楽しむのも悪くねぇ!」
「そうか、なら決まりだな。」
各々が決意する中、夜は過ぎて行った。
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