第4話 師匠の強さ
今日も良い天気だ。絶好の旅日和だろう。朝食を食べながらそう思う。
部屋の隅には宿の人が洗濯してくれた服がある。何から何まで本当に至れり尽くせりだ。
「本当に美味しいですね。ここのご飯は。」
「ここの人たちはプロの料理人から認められるほどの腕前を持つからな。美味しいのは当然だ。」
食事をしながらサキと師匠は話す。たしかに昨日の料理も美味しかった。産地の良いものを使ってるのもそうだが、出汁の取り方とかが自分達とはえらい違いだ。
「ごちそうさま。さぁ、お前達も食べ終わったら服着て出発しての準備するぞ。」
「「はーい!」」
「では、お世話になりました。」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。では行ってらっしゃいませ。ご武運を。」
師匠と共に女将さんに感謝し、見送られながら旅を再開した。
「まず最初は、あずま山に行く。そこに雷人の里は存在する。山道にたどって行けばすぐに着くだろう。」
師匠の案内の通りに進んでゆくとやがて大きな山が見えてきた。あれが、あずま山だろう。
「ここからじゃ見えないが裏の方に里がある。人口は100とかそんくらいだろ。山道って言っても緩やかな坂を登っていくだけだ。もう少しの辛抱だぞー!」
師匠の跡をついていき坂道を登る。自分達がいた山とはまた違う特色があるように感じた。
「動くな!」
そう思い、進んでいたら前方の方から声が聞こえた。
黒で髪を結んだ色黒の青年。彼はこちらを睨んでいる。
「お前、ライデンか!俺だよ俺!ゴウだよ!覚えてるかー!」
青年に挨拶する師匠。
「え!?師匠って名前あったんですか!?」
「そっか、サキは俺の名前聞くの初めてだったな。改めてゴウだ。よらしく!」
そーいえば師匠が自分のことゴウって言うの初めて会ったとき以来かも。そういったところも師匠は秘密主義だ。
「ゴウ?そーいや昔そんな男が里にきたような来なかったような。」
「あれ?俺のこと忘れられてる?」
どうやら青年の方は覚えてなさそうだ。
「とにかく!よそ者はさっさと帰ろ!」
「まて!俺は君のお父さんに会いにきたんだ!だから通してくれないか!」
なにやら不穏な空気。
「親父の知り合いか?どうせまた親父の力が必要とか言うんだろ!だが残念だったな!親父は病気になってとても戦える状態じゃねぇよ!わかったらさっさと帰れ!」
「なんだって!ならせめて見舞いだけでもさせてくれ!」
必死に頼む師匠。だが目の前の青年は僕たちを里に入れたくないらしい。
「そうかい!なら!」
瞬間、青年の姿が消える。
「な!?」
そしてまた現れた青年の腕にはサキが捕まえられていた。
「サキーーー!!!」
「おい、ライデン。これはどうゆうことだ。」
驚く僕と冷静な師匠。
(油断したとは言え、今の速さはなんだ?あれでもまだ余裕そうな顔をしているぞ。)
「聞き分けが悪かったんでこれくらいした方がいいと思ってな。この女は俺がもらう。今はまだガキだが、数年もすれば良い感じに育つと俺の勘がいってるんでねぇ。」
「この!離して!」
サキはライデンの腹に肘打ちをしようとする。
だが、
「キャー!」
ライデンの体は突如光出し、電撃がサキを襲った。
「「サキーーー!!!」」
「下手なことするからこうなる。自業自得だ。お前らも変なことをしたら俺の電撃を浴びることになるぞ。」
(なんて奴だ。自分より年下の女の子を傷つけて心が痛まないのか?)
「お前、ライデンと言ったか。もう一度サキを傷つけてみろ。僕はお前を全力で殴る!」
そんな僕をライデンはニヤつきながら見る。
「へぇ?今なんて言った?俺を殴るだと?はっはっはっ!今の速さ見なかったのか?俺は里で1番早いんだ!その俺を殴るだと?やってみせろよ!」
(やってやるさ。この怒りを力に変えてお前を叩きのめして)
「殴るのは俺がやる。」
怒りを覚える中、師匠はそう言った。
「でも師匠!」
「黙れ、今のお前じゃ無理だ。相手の挑発に乗せられて冷静でいられないお前がやってもサキを助けられん。」
僕をうながすように師匠は言う。
「へぇ、あんたがやるんか。でも良いんか?弟子の前でカッコ悪いとこ見せるだけだぞ。」
「ほぉ?なら挑発に夢中になり人質を取られたお前はかっこ悪くないのか?」
「な!?」
先ほどのライデンのような。いや、もしかしたらそれ以上。とてつもない速さでサキを救出した師匠が隣で立っていた。
「ライデン。たしかにお前は早かった。だがお前の親父さんと比べたらまだまだ遅いぞ。」
「なんだと!!この俺が遅いだって!」
「ユウ、サキを頼む。俺はあいつを分からせる必要があるようだ。」
師匠は僕にサキを預けた後、構えた。
「遅いって言うなら見せてやるよ!俺の電光石火を!ぶつかったと同時に吹き飛びやがれ!」
ライデンも構える。手を広げ姿勢を低くする。まるで威嚇する獣の如き姿。
「せいぜい楽に死ねることだな!!!」
一瞬にして電撃を浴びたライデンが突っ込んでくる。
「いくら師匠でもこれは!」
隣で叫ぶユウの声がきこえるが問題ない。
(目を瞑る。相手の殺気を感じ取る。やつは一直線にこちらに向かってくるだろう。そんな単純な動作は俺には効かない。なぜなら俺は。)
「最強だから!」
師匠の目の前に無数の拳が広がる。それを見た時、ライデンの負けは確定した。
「爆裂拳(ばくれつけん)!」
無数の拳が瞬時にライデンの体に浴びせられる。本来爆裂拳は連続で拳を撃つだけの至ってシンプルな技だが、師匠のそれは一瞬の内に相手の体に無数の拳を同時に当て吹き飛ばすものだった。
「すごい。」
改めて見る師匠の強さにそれしか言葉が出てこなかった。
吹き飛ばされたライデンはよろめき、言葉を発しようとする。
「痛ってぇぇ...なにが起きやがった。あいつじゃなく...俺が吹き飛ばされた?だめだ..もう...意識が...」
ライデンは何が起きたか理解する間もなく気絶した。
「師匠。その人はどうしましょう。サキを傷つけたのは許せませんがそこまでボコボコにされたんじゃ。」
「なぁに、殺しちゃあいない。理由を言えば里の者もわかるだろう。比較的は人当たりのいい奴らだから心配すんな。」
師匠はライデンをおぶって進み始める。
「それよりサキは大丈夫か?」
「気絶してるだけです。命に別状はありません。」
さいわい肌に傷もない。安心して僕らは進む。
「にしてもこいつ、性格はアレだがなかなか良いものもってるな。」
(磨けば親父並みに強くなるのでは?)
「師匠、いま変なこと考えましたか?」
嫌な予感がしたため僕は質問する。
「ダメか?」
「ダメです。」
こんな状況になっても師匠は師匠だ。サキが目覚めていたら一体どうなっていたか。
「おっ!見えてきたぞ!」
坂を登り始めて数十分。やっと目的地である雷人の里に到着した。
「ここが、雷人の里!」
瓦屋根の家がいくつもあり、外では子供たちが無邪気に遊ぶ。ここの種族の人達はみんな色黒で健康的な肌が目立つ。建ち賑やかな雰囲気を醸し出すその里はとても心地よく感じた。
「あれ?ゴウさん?おーい!」
大きな声でこっちに手を振る女性が一人。
「おっ!ライチか!大きくなったなー!」
ライチと呼ばれた女性は数百メートルは離れている距離を一瞬で走りこちらにきた。
(ここにいる人達はみんなこの速さが普通なのか!?)
あまりにも衝撃的な光景に口を開けて絶句する。
「ん?ちょっと!ライデンどうしたのその怪我!あんたがそんなんなるなんて一体何が!」
「おい返そうとしたり喧嘩売ってきたから返り討ちにした。大丈夫だ。息はある。」
「そうだったんだ。まったくこのバカはどうしようもないね!お客さんを追い返すだけじゃなくゴウさんに立ち向かうなんて。父さんが聞いたら雷が落ちるよ。」
本当にここの人達ならやりかねないと思うユウであった。
「あれ?いつの間にかついてたんですね。」
「あっ!サキ!気がついたんだな!どこか痛いとこはないか?」
「大丈夫です。すこし気絶しただけ、って!なんでそいつをおぶってるんですか!」
師匠を見て叫ぶサキ。そう思う気持ちもわからなくはない。
「嘘っ!ライデンったらこんな女の子にも何かしたの!?これは里が滅びるほどの雷くるね。」
(目的地についたら目的地が滅びるなどとんでもない旅だな。)
心の中でユウはそう思う。
「まぁまぁ、そこら辺は後にしよう。ところでシデンの様子はどうだ?聞くと病気になったらしいが。」
師匠の質問にライチは神妙な面持ちで答える。
「父さんは点滴を打って布団に入ってます。食欲はあるし酒は飲むけど、でももう寝たきりの状態がほとんどで外に出たのはもう何年か前です。」
どうやらシデンというのがここの里長でライデンとライチの父親のようだ。
「では、ゴウさん。そして、えっと?」
「この二人はおれの弟子だ。今は共に旅をしている。」
「どうもはじめまして。ユウと言います。」
「はじめまして。サキと言います。」
二人揃ってライチさんに挨拶する。
「ユウ君にサキちゃん。うん、いい名前だ。では改めて、ようこそ雷人の里へ。貴方達3人を私たちは歓迎します。」
雷を操りすごい速さで動く雷人。彼ら彼女らの凄さを僕たちは知ることになるだろう。
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