第3話 世界への1歩
「おーい!出発するぞぉー!」
「はーい!」
師匠の声が響き僕は返事をする。
(やっとだ!ついに旅立つんだ!)
カバンにあらかじめ用意しといた物を入れ、玄関へと急ぐ。
「よし!全員揃ったな!これからはお前たちが見たことない場所をどんどん行く!未知なるものがこの世界には沢山ある!そういった物を見て学び、理解し、成長出来るように!」
「「はい!」」
師匠の言葉を聞いて僕とサキは返事をする。世界は広い。どんな物が待っているのかソワソワしつつ、遂に旅が始まった。
「それで、最初はどこに行くんですか?」
「あ〜、それなんだが。まず最初に俺たちは雷人(らいじん)の里へ行く。」
サキの質問に師匠は答える。らいじん?聞きなれない言葉に僕とサキは顔を合わせた。
「雷人ってのは雷を操る種族のことだ。大昔いた雷を操る魔物と人と間に生まれた者達の末裔みたいなもんだ。」
「魔物って魔法をつかうあの魔物ですか!?」
「そうだ。魔物と恋に落ちた人間ってのもそんな珍しくはないぞ。」
魔物と人間の間に生まれた者。それだけでも驚きなのにまさか末裔がいるだなんて、本当に世界は広いなぁと思う。
「ですが、何故そこにいくんですか?」
たしかにそうだ。サキの指摘について師匠は言う。
「そこにいる腐れ縁のやつに会いに行かなきゃならないからな。最近元気にしてるかもわかんないし。それにそいつの子供とかに会ってみたいのもある。」
「師匠って仕事仲間以外に知り合い居たんですね。」
「確かに山奥にひっそりと暮らしてはいたが別に1人でいるのが好きなわけじゃないからな。ユウよりも知り合いは沢山いる自身はある。」
「そんなんだから腐れ縁の知り合いに先に結婚されるんですよ。」
「うっ。」
どうやら胸に言葉が突き刺さったようだ。師匠は確かに強いけど先にメンタルの方を鍛えるべきだと思う。
「2人ともくだらないこと言ってないでさっさとその雷人の里に行きますよ。」
サキに言われるがままに僕達は旅立った。
その後持参したおにぎりを昼飯に食べたり、見たことも無い花畑を観光しながら僕達は歩を進めた。
「随分歩いたけどどれくらいかかるんですか?」
「う〜ん。今日じゃ無理だな。」
まさかの返答に僕は驚く。
「なんで今日中に行けないとこを歩かせてるんですか!これならバスに乗った方が早いです!」
「だって今日中にたどり着くなんて一言も言ってないぞ。」
サキの指摘に対して藪から棒に言う師匠。
「まさか野宿なんて言いませんよね。宿とかどこか行く宛てありますよね!」
「大丈夫だ。そこら辺はちゃんとしてる。」
果たしてどうなのか。不審に思うサキとのんきな師匠。
(師匠のことだから宿もケチったりするだろうな。)
と思っていたのだが。
「よくお越しくださいました。どうぞ疲れを癒してください。」
連れてこられたのはあまりにも立派な木造建築の宿だった。
「まずは旅の疲れを温泉でゆっくりと癒してください。浴衣は部屋に用意してあるので自由に着て構いません。夕飯は何時頃がよろしいでしょうか?」
「19時半頃にお願いします。あと、明日の朝食もお願いします。明日は9時前には出るつもりなのでよろしくお願いします。」
女将さんであろうお婆さんと喋る師匠。
(敬語を使う師匠初めて見た。)
と思っていると、服の袖をサキが引っ張った。
「ねぇ、師匠って何者なん?こんな宿のこと知ってるとか。もしかしてここの宿の創設者?」
「いや、そんな話は聞いた事がないよ。」
「おーい!2人ともコソコソと何喋ってんだー!早く風呂入るぞー!」
師匠の謎は深まるばかり。とにかく僕達は詮索するのはやめて疲れをとることにした。
「うわぁ、広ーい。」
露天風呂を見てサキは驚く。風呂の周りは竹の柵で囲まれており男湯と女湯を隔てている。
「それにしても貸し切りなのかな?私たちだけしか利用していないなんて。」
立派な旅館なのに自分達しか人がいないのに違和感を覚える。
「でもまぁいっか。早速入ろう。」
お湯の温度は暖かくちょうどいい。肩まで浸かり、しっかりと癒される。
「なにげなく旅についてきたけど案外楽しいな。」
2人について行って正解だったと思い返す。
「それにしても」
自分の腕を揉みながら思う。
「表面はプニプニだけど中はしっかり筋肉の硬さがある。我ながらほんとにたくましくなったなぁ。」
師匠に鍛えられてから自分の身体の成長に驚きっぱなしだ。この前のユウとの戦いでも自分の規格外な強さに衝撃を感じた。
「サキー!そっちの湯加減はどうだーい!」
男湯の方からユウの声がする。
「ちょうどいいですー!そちらもしっかり疲れをとってくださーい!」
「わかりましたー!」
「別に俺らだけなんだから一緒に入っても良かったんだぞー!そう思うだろ!ユウ!」
師匠のセクハラ発言される弟子、そしてその話に振られる別の弟子。もう一度腹パンを味わいたいのかこの師匠はとサキは思う。
「そんなんダメに決まってるじゃないですか!」
ユウの指摘に頷く。
「そっか?別に今更恥ずかしがることないだろ。それにサキなんかこの前、最終試験で何知らず顔で俺達に自分のを見せたじゃないか。」
「それ以上言ったらいくら師匠でも半殺しにしますよ!!」
温泉に響き渡るサキの声に恐怖を感じながら3人は温泉をくつろいだ。
あの後温泉から出た3人は用意された浴衣を着て部屋に戻った。師匠のセクハラで怒り心頭のサキだったが用意された夕食を美味しく食べるとすっかりいつもの調子を取り戻した。
「さぁーてお前たちー!明日はここを9時には出発するぞー!そうすれば昼前には雷人の里に着くだろう。朝食をたべて荷物の整理をしたらすぐにここから出るぞ!」
「「はい!師匠!」」
いよいよ明日は雷人の里に行く。魔物と人間の間に生まれた種族。はたしてどんな人達なのか興味を持った。
「ところで1ついいですか。」
「ん?どうしたサキ。」
サキは気になってたことを言う。
「どうしてこんな素敵な宿なのに私たちしかいないんです?それにこんな豪華なとこに泊まったらお金がかかるんじゃないですか?」
それに対して師匠は真剣な顔持ちで答えた。
「ここに仕える人達の祖先はその昔とある人物に助けられたことがあってな。その恩返しとしてその人物に関わりのある人たちの憩いの場を作ろうとした。それがこの旅館だ。ちなみにこの旅館は世界各地にある。それだけの恩を返すんだからさぞ立派なことをしたんだろうな。」
昔助けらたからといってここまでのことをするとは、それだけその助けた人は優しく紳士的だったのだろう。だがここでひとつ疑問が浮かぶ。
「なんで師匠はこの宿を使えるんですか?」
それに対して自慢げに師匠は答える。
「その助けた本人が俺の上司だから。」
「さっきの話、どう思います?」
僕とサキは師匠が寝たのを確認したあと2人でヒソヒソと話していた。
「師匠の上司がこの宿の人達の祖先を助けたってやつ?」
「そうです。その昔って言ってるから助けた人は今はかなりの年寄りのはずです。それなら師匠の上司じゃなくて職場の創設者とかの方が納得いきます。」
「でも師匠は冗談は言うけど嘘はつかないような人間だよ。本当のことかもしれないけど。」
師匠のいびきを聞きながら僕達は喋る。
「そもそも師匠が働いてる場所ってどこなんですか?あんな感じじゃ力仕事以外向いてませんよ。」
「それが自分でもよくわかんなくて。何年もいるけど職場のことは話さないんだ。」
実際あの人は普段何をしているか分からない。山奥に家を建てるのは想像できるが、茶碗や箸なんかはどこで買っているのだろう。そもそもお金はどこに隠し持っていたんだ?
「はぁ、考えるだけ無駄ですね。もう寝ましょう。」
そう言ってサキは布団に入る。
「おやすみ、サキ。」
自分もそろそろ寝ることにしよう。師匠のことを知るのはまだ自分達には早いのかもしれない。時が来たら話してくれるだろう。そんなことを思いつつ布団に入った。
(本当に旅立ったんだ。これから先、色んなものを見ていくんだろうなぁ。3人でずっと...)
そう考えながら、僕はまどろみの中に入っていった。
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