ミミック

如月芳美

ミミック

「ただいまー」

「ちょっと、大きな声出さないでよ、莉子りこが起きちゃうでしょ!」


 っていうのがいつものパターンだったが、今日はその怒声を発する予定の陽菜はるながいない。その代わりと言っては何だが、手紙らしきものが置いてある。この家では非常に珍しいケースだ。


「なになに? 莉子と一緒にしばらく実家に帰ります? なーんだ、その方がゆっくりできていいや。会社で叱られて、帰ってからも怒られて、肩身が狭かったもんな」


 大翔ひろとは「ビールビール」と言いながら冷蔵庫から何かを出してきて「ぶしゅっ」と開ける。腰に手を当てて仁王立ちしたまま「ごくごくごく」と飲み干す。いい飲みっぷりである。

 だが、しばらくしてボソリと「陽菜……」と呟く。

 何を思ったのか「陽菜ぁ、帰って来てくれぇ! もう浮気はしない、仕事だなんて嘘つかない、だから莉子を返してくれぇ!」と叫んだ。


 そこに「バーン」とドアを開けたらしき音がし、当の陽菜が莉子と手を繋いで入って来た。


「わかればいいのよ、大翔。あたしたちはまだやり直せるわ」

「パパ、毎日早く帰って来て!」


 最近のおままごとは、保護者に報告していいものか悩むことが多い。

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ミミック 如月芳美 @kisaragi_yoshimi

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