第7話 再会

 サリーのために作ったドレスがまた大きな流行りとなり、全世界に広まった。


 数日が経過して、ベルン街での仕事も落ち着いたというか、元々僕がいなくても回るけど、落ち着いたので、今日は久しぶりにロスちゃんとラティを連れて、バルバロッサお義父様の領都エグザにやってきた。


 あまり深い意味はないけど、教会の一件があってから、定期的に教会を訪れている。


 ハーレクイン枢機卿。世界中にその名は知れ渡っていないけれど、教会が何かをやっていたという噂はあった。


 でもそれを僕の力で何とか抑え込む形で、世界は本当の意味で平和を築けた。


 それもあってこうして定期的に教会を訪れているが、その一番の目的というのは――――もちろん、教会への寄付が一番の目的だ。




「いつもありがとうございます。ベルン様」


 深々と頭を下げるのは、僕とそう変わらない年齢の若い女性。その衣服はハーレクイン枢機卿を思わせるような美しい白を基調とした作りになっている。


「こちらこそ、いつも人々のためにありがとうございます。女神様もきっと喜んでいるとおもいます」


「ふふっ。ベルン様がそうおっしゃると何故か本当に女神様がそう思ってくれる気がします」


 う、うん…………実は女神様その本人も本当に嬉しそうにしてるからね。何なら毎日「今日も平和を祈る声が聞こえるわね~♪」って喜んでいるよ。


「それでベルン様。実は以前から相談していたことなんですが……」


「あ~以前から僕に会いたがっている聖騎士さんですか?」


「はい。ぜひお会いして頂きたいのですが……それが、向こうはあまり会いたがらなくて」


 実は今話しているミルス枢機卿。昔はシスターとして活躍していたが、ひょんなことから才能を開花させ、枢機卿にまで上り詰めた。上り詰めたという言い方はあまりよくないか。


「でもミルス枢機卿は会ってほしいんですね?」


「はい。無理じゃなければよろしくお願いします……!」


「はい。僕は大丈夫です」


 彼女に案内されて向かったのは、聖堂の裏側にあった小さな庭だった。


 美しい花がたくさん咲いていて、最近忙しくてあまり庭に手を加えられないアーシャが見たら大変興奮しそうだ。


「――――アイラ」


「ん……? どうしたの? ミル――――ええええ!?」


 彼女は僕を見て大げさに驚く。


 ん……? アイラ? どこかで…………?


 その時、彼女の肩に乗っていた小さな小鳥――――コメが顔を出した。


「アイラ姉ちゃん!?」「クラウドくん!?」


 いや、あまりにも久しぶりに会うもんだから驚いてしまった。


 彼女と会わなくなって五年くらい経っているか。


 最後に会った時から比べて、かなり大人びた雰囲気にかなり驚いた。


 元々ハーレクイン枢機卿が怪しくて、アイラ姉ちゃんには護衛としてコメを付かせていたのだけど、あれから一切の連絡が来なく、コメからも危険ということは連絡がなくて、久しぶりに出会った。


 アイラ姉ちゃんは目を大きくして、口をパクパクさせている。


 ティナとアーシャとの結婚式招待状も送ったけど、あの時も来てくれなかったから、てっきり嫌われてしまったのかなと思った。


「じゃあ、私はもう行くね~あとは頑張れ、アイラちゃん」


「シスターミルス!?」


 なるほど。ミルス枢機卿とはシスター時代から知り合いだったんだな。


「久しぶりだね。アイラ姉ちゃん」


「う、うん……久しぶり…………クラウドくん」


「何だか顔が赤いけど、体調悪かった? リフレッシュかけようか」


「い、いいの! そ、それより、どうしてここに?」


「ミルス枢機卿から会ってほしいと言われて、どうしてかなと思ったらアイラ姉ちゃんだったから」


「そっか…………その子がティナ様との子供?」


「ああ。息子のラティだよ」


 アイラ姉ちゃんが近づいてきて、眠っているラティを覗いた。


 それにしてもアイラ姉ちゃんと会うのは久しぶりだ。学園に入学して会えなくなったっけ。


「可愛い……ふふっ。クラウドくんにそっくりだね」


「そうかな? ティナに似てる気がするけどね」


「ふふっ。それにクラウドくんは全然変わってないね。少し凛々しくなったかな?」


「まあ、十五歳の時だったからね。身長も大きくなったでしょう」


「うん。私の方が大きかったのに……私よりも大きくなったんだね」


「こんなに近くにいるんだから、もうちょっと会いに来たらよかった。忙しかったというのは言い訳になっちゃいそうだね。ごめん」


「う、ううん! 全然気にしてないよ!」


 アイラ姉ちゃんは本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そっか……クラウドくんの息子さんなんだ……」


「抱いてみる?」


「いいの?」


「もちろん。ラティも喜ぶよ」


「ラティくんっていうのね。ありがとう」


 ラティを抱きしめたアイラ姉ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 でもどうしてかその目には大きな涙が浮かんだ。


「え、えっと、アイラ姉ちゃん。最近全然会いに来れなくて本当にごめん」


「う、ううん。違うの。何だか懐かしくなって。五年前までは本当に楽しかったなって。私、五年間ここで聖騎士として頑張ってきたけれど、気づかない間に世界は回って、クラウドくんもこうして息子ができて…………私はただ空ばかり見てた気がするの…………それが少し寂しかっただけ」


 実はアイラ姉ちゃんの噂がベルン街にも届いている。


 だって、アイラ姉ちゃんは聖騎士として困った人を助ける聖女・・として称えられている。


 元々ティナがいたせいもあって、バルバロッサ領民にとって聖女といえばティナだった。


 でも結婚して子守りをしているティナに変わり、バルバロッサ領で台頭してきたのがアイラ姉ちゃんとミルス枢機卿だ。


 二人の頑張りで今日もバルバロッサ領の領民は平穏に暮らしている。


「アイラ姉ちゃん。もしよかったらうちに遊びに来ない? サリーも大きくなったし、アレンは近々結婚もするんだ」


「…………私、邪魔じゃない?」


「そんなはずがない。だって、今でも僕の大事なコメが姉ちゃんの傍にいるでしょう?」


「そ、それは…………うん…………ねえ、クラウドくん」


「うん?」


 アイラ姉ちゃんが大きく深呼吸をした。


「――――私、ここでずっと迎えにきてくれる日を待っていたよ。だから今日は来てくれてありがとうね。クラウド」


 どこかティナにも似た笑顔。


 …………ええええ!? あ、アイラ姉ちゃん……まさか…………僕のことをずっと待っていたの!?


 衝撃的な事実を突きつけられて、僕はすぐにティナに相談しようと心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【WEB版】転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く【ComicWalker漫画賞受賞作】 御峰。 @brainadvice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ