第6話 最大の誤算
「殿下。おそらくシリアは屋敷で着飾り、殿下をお待ちなのではないかと」
「は?」
「殿下と初めて個人的な親交を結ぶ機会ですから、少しでも可愛い自分を演出するのに忙しいんだと思いますよ?」
「そんなバカな……」
そう言って眉間を押さえた彼を見て、私は思わず笑ってしまう。
すると不機嫌そうなジト目を殿下が向けてきたので、私の方もシレっとすまし顔で「どちらにしろ、行ってみれば分かる事です」と言っておく。
すると彼は苦い顔で数人の近衛を連れてしぶしぶそちらに向かっていった。
一方近衛に連行されていく父は、すれ違いざまにこんな言葉を零していく。
「貴様があの時素直に死んでさえいれば……」
言葉こそ負け惜しみだが、その目はまだギラついていて諦めていないのが良く分かる。
が、もう起死回生の余地は与えない。
「私はあの時気付けて良かったと思ってる。私自身の為にも、そしてこの国の為にもね」
そもそも私は家族との折り合いが悪かった。
冷めきっていたその関係にこうして決定的な亀裂を入れた事も、後悔もしていなければ今更惜しだりもしてない。
今までしてきた全ての過ちを、牢獄の中で後悔しろ。
そんな両親が連れていかれてしまったところで、辺りは本格的に「どうしたものか」という空気になった。
それはそうだろう。
告発イベントが終わってしまい、この式の主催者側の人たちはみんな退場していったのだ。
参列者達はもちろん、神父様でさえ困った顔になっている。
あちらの方でまだ状況が理解できずに「えっ? えっ??」と辺りをキョロキョロしてる人は、たしか前に父が「操りやすい」と目を付けた貴族だった筈。
おバカ過ぎてちょっと可哀想。
向こうで顔を真っ青にしている軍団は、もしかして父と何かあくどい事をやっていた人達だろうか。
そうだとしたら自業自得なんだから、調べが終わってお迎えが来るのを大人しく待っていてほしい。
アーメン。
と、そんな事を考えていた時である。
「ビクティー様、本当に生きていらっしゃるので……?」
震えに震えたその声で、私は後ろを振り返った。
するとそこにはまるで迷子の子犬のような顔をした令嬢たちが立っている。
彼女たちは、先程から合いの手で私を援護してくれていた令嬢たちだ。
「何をおかしなことを言ってるの。私はこの通りピンピンしているわ! ……あぁだからほら、泣かないで?」
「だって……ビクティー様ぁ~!」
私の言葉の途中からボロボロと泣き始めてしまったその子に思わず困ったように笑えば、みんな堰が切れたように立て続けに号泣し始める。
やっと不正まみれの父を断罪する事が出来、親子の縁をキッパリ切れて私は今大満足だ。
しかしそれでも、もしただ一つ私が失敗した事があるんだとしたら。
「私にとって今回最大の誤算は、多分コレなんでしょうね……」
そんな子達の肩を叩き頭を撫でつつ、空に向かって小さくそう言ったのだった。
~~Fin.
――――――
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
もし
「楽しかった!」
「まぁ暇つぶしにはなったかな」
と思ってくださった方は、
画面下の評価(★)をポチポチポチッとお願いします。
☆☆☆ ⇒ ★★★
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢なので家族に報復くらいはする~ 野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中 @yasaibatake
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます