第19話 ジェメヴ

 大きめの建物。 

 そこで今、話し合いが行われている。

 フローラやアーサーもそこにいる。

 俺だけが。

 部外者の俺だけが、その建物の外で待機を命じられている。


 その扱いを不当だとは思わない。

 むしろ妥当だと思っているし、その事に対して腹を立てたりしない。

 もしイヤなら最初から。 

 そう――


 一度殺される前の時点で、一言二言、言っている事だろう。


 この状況で今こうなっている事は、俺がその事を了承したって事なのだから。

 しかし、しかしだ。

 今更になって後悔している。

 ……もしかして、入っていった方が良かったのでは。

 そのように、今になって考えてしまっている。

 意味のない後悔だ。

 だから今は、とにかく先の事を考えないと。


 とにかく、状況を整理しよう。

 俺は、学園長の手によりこの世界(世界?)に落とされた。

 遊戯板と呼ばれる霊装。

 その中には一つの世界があったのである。


 その世界の中で第一に出会った、いわゆる村人A。

 彼女の名前は、フローラ。

 普通の女性だった。

 そしてその先に会った村、アルセル。

 そこは平々凡々な、のどかな村だった。

 しかし、そこで出会った守衛と思われる男、アーサーの言葉によると今は結構危ない情勢らしい。

 その詳細は分からない。

 だが、結構重要な前提条件な気がする。


 そして、しかし。

 平々凡々なのどかな村だと思われたアルセルには、危険な存在があった。

 それは、オオカミ少年。

 野性的な黒髪の少年だった。

 その存在に俺は攻撃を仕掛けられ、一度は噛みつかれたりもした。

 しかしそれだけだ。

 村人達が恐れをなし、そしてこのように集会を開くほどの危険な存在だとは、到底思えない。

 だとしたら。


 もしかしたら、このオオカミ少年というのはあくまで危険な存在の一端でしかなく。

 もしかしたら、もっと巨大な何かが潜んでいる、のか?

 

 そう思うのは、俺の事を一度『殺した』存在がいるからだ。

 否。

 俺だけではない。

 村人全員が、殺されていた。

 それに対し恐れをなし固まっていた俺の事を、背後からぶすり。

 完全に不意打ちだった。

 だから、それがどのような人物なのか、いや、人物であったのかすら分かっていない。

 そう、俺は剣で刺されただけ。

 そもそもあの状況、俺は恐慌状態にあったため、それが本当に剣だったのかすらあやふやだ。

 もしかしたら、そう。


 魔族の爪とか、そう言った可能性すら、ある。


 とにかく、俺は殺された。

 そして――戻ってきた。

 傷はまるでなかったかのようになり、村人達は変わらない姿を俺に見せた。


 訳が分からなかった。

 

 だけど、何か意味がある筈なのだ。


 

「……」


 何故、元に戻ったのか。

 その原因、要因は一つしか考えられない。

 即ち、俺が死んだ事。

 

 そもそもこの世界が始まったのは、俺が遊戯板と呼ばれる霊装に吸い込まれた時からなのだから。

 遊戯板。 

 どこら辺が遊戯なのかは、分からない。

 だけど、俺がこの世界の中心である可能性は十二分にある。

 そしてそれが本当だった場合。


 俺が生きているか否かは、かなり重要なポイントとなる。


「……」


 俺は聖剣を取り出す。

 そしてゆっくりと建物へと近づいていく。

 大丈夫、今度は冷静だ。

 どんな光景を見たって、平静さを保ち続ける事が出来、る――







 そして、死体の山が広がっていた。


「……」


 硬直は、一瞬。


「……ッ!」


 頭上から降ってきた剣閃を、俺は聖剣で弾き返した。

 返す刀で襲い掛かってきたモノに追撃を仕掛けようと思ったが、しかし軽い動きで躱される。


 ――黒いローブを羽織った、何者か。


 老若男女すら分からない。

 分かるのは、それが俺に対し明確な殺意を向けているという事。

 俺は冷静に聖剣を構え、いつでも攻撃を防げるよう、そして攻撃に繋げられるように気を張り詰める。

 大丈夫、後ろの死体が視界に映ったって冷静でいられる――!






 ローブの何者かが、自身の腹部に剣を突き刺した。



「……あ?」


 ずぶり、ずぶり。

 とぷり、とぷり。


 血が噴き出す。

 訳が分からない。

 そして何者かはそのまま息絶えたのか、ぐらりとその身体が傾き――


























  ◆


「……は?」


 そして俺は目を覚ますと村の外で倒れていた。


「……は、ぁ?」


 訳が、分からない。

 訳が分からない。

 俺はまだ死んでなかった。

 むしろ死んだのは、前にいた何者かだ。

 だというのに、状況がリセットされたかのような今があるのは何故だ?


「……」


 もしかして。

 この世界がループする条件、は。


「……生き残りが一人になる事、なのか……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

えっちなゲームの鬼畜勇者に転生したけど、世界を救うのに忙しくてそれどころじゃない カラスバ @nodoguro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ