【幕間】アイル・チャンネルの収録に付き合わされたらグダグダだった件

「きゅぴーん! タイムパトローラー明日坂アスナ、21世紀より只今参上っ!」

「きゃーっ、カワイイっ! あっヤバっ、普通に素でリアクションしちゃった。カメラ止めるね~」

「ふみゅ」

「先輩、さっきからそのパターンで収録止まるの4回目じゃないですか……ひょっとしてわざとやってます?」

「むぅ、成田被告人は静粛にしたまえよ」

「だからいつ何の罪状で起訴されたんですか俺」

「アスナちゃん独り占めざいに決まってるじゃん」

「司法制度が人権を無視してるにも程がある……」

「イヤならこの部屋から逃亡してくれてもいいのよ?」

「いや、なんでですか。俺が叔母さんから借りてる部屋ですよ。先輩がコイツ連れてどこでも行けばいいでしょ?」

「えー、だってここじゃなきゃそのデロリアンが撮影に使えないじゃない」

「アイルさんっ、でろりあんじゃないです、シルバートゥモロー号ですっ」

「あぁ~、尊いなあ、その絶妙にダサいネーミングセンスも合わせてアスナちゃんは全てが尊いよぉ」

「みゅ? シルバートゥモロー号の何がダサいです?」

「そのダサさに関しては俺も珍しく先輩に同感だけどな……」

「ていうか、今更なんだけど、どうやって部屋に入れたの? このクルマ」

「さあ? 時空を超えて現れたんじゃないですか?」

「普通にひゅーんって飛んできて、がっしゃーんってガラス割って突っ込んじゃったんですよっ」

「うんうん、アスナちゃんはカワイイね~」

「いちゃついてないでさっさと撮影再開したらどうです?」

「おっけー、じゃあもう一回、アスナちゃんがクルマからひらっと飛び降りて名乗るところからねー」

「はいです! あ、でもでもアイルさんっ」

「なぁに?」

「わたしのセリフ、『きゅぴーん』って自分で言うのはあざとくないです?」

「お前、あざといとかあざとくないとか自分を俯瞰する機能あったの!?」

「被告人は静粛にしなさい。いいんだよぉ、アスナちゃんにはそのくらいあざといキャラが似合ってるって」

「みゅう。アイルさんの中のわたし、そんなヘンな子だと思われてるですか?」

「安心しろ、俺の中のお前もそうだから」

「被告人、静粛にしないと監置かんちに処しますよ」

「そんなリーガル・ハイでしか聞いたことないようなマニアックな単語よく出てきますね……」

「んー、いやいや、監置はそこまでレアでもないよ。70年代頃には新左翼の活動家とかの刑事裁判でしょっちゅうあったって」

「先輩は一体どこの時代から来たんですか?」

「ふっふっふ、実は過去からの使者だったりしてねえ」

「おい昭和人、黙ってないで何か乗っかってやれよ。お前70年代は得意分野だろ」

「はぇ? わたし90年代生まれの15歳ですよ?」

「ポケベルも知らないくせに……」

「マジレスするとさ、ポケベルとか通じる成田君も十分懐古趣味な件だよね」

「コイツの相手してると突っ込みポイントがなんか平成初期くらいに偏る件なんですよ」

「アイルさーん、それより続きー」

「はぁい。じゃあ撮るよー、アクション!」


「きゅぴーん! タイムパトローラー明日坂アスナ、21世紀より只今参上っ!」

「うっ、時間警察かっ!」

「時空テロリスト家入いえいりアイル、時空管理法違反によりタイホしますっ! しんみゅ……しんむみょ……しんみょーにお縄をちょうだいしなさいっ」

「あーもう、いちいちカワイイっ!」

「ごめんなさいっ、どうしても噛んじゃってっ」

「いいのー、いいのよー、アスナちゃんはNG出してもカワイイから~」

「俺もう自分の時代に帰っていいですか?」

「いいよー、帰りな帰りな。人類の覇権を賭けたネアンデルタール人との大事な戦いがあるもんね」

「それに介入したらそれこそ時空管理法違反で捕まりそうだなあ……」

「んー、ていうかこれ、NGシーンを普通にまとめた方がウケる気がしてきた」

「あー、この分だとOKなんかいつまで経っても出そうにないですしね。なんでもいいんでさっさと撮り終えて帰ってください」

「みゅう、わたしちゃんと最後まで撮りたいですー」

「きゃー、アスナちゃんがそう言うなら何時間でも粘っちゃう。今夜は泊まり込みロケだっ」

「カンベンしてくださいって。ていうか先輩今夜もメイドバーでしょ」

「みゅう、残念だなぁ」

「現代人がみゅうとか言っても可愛くないですよ」

「でもでも、アイルさんとお泊まりデートはしてみたいですっ! レッツ・パジャマパーティー!」

「お前の世界線にそんな単語あったの?」

「わたしが教え込んだに決まってるじゃないかキミぃ」

「未来人洗脳罪でタイムパトロールにしょっぴかれればいいのに……」

「ねーえーナリタさんー、アイルさんがこのお部屋にお泊まりに来てもいいでしょー?」

「ねーえー成田くーん、わたしがアスナちゃんとベッド使ってキミはベランダで寝るんでいいでしょー?」

「せめて床をサジェストしてくださいよ! じゃなくて、コイツはともかく、この時代に戸籍を持って生きてる女子大生が男子の部屋に泊まりとか普通にダメでしょ」

「えっ、まさか自分が男子として認識されてると思ってるの……? きんもーっ☆」

「先輩が俺を何だと認識してるのか知りませんが、俺は先輩をホモ・サピエンスの雌だと思ってますから普通にダメです」

「まぁ、わたしも流石に男の子と一つ屋根の下で寝たことはないけどさぁ」

「アイルさん、キレイなのに彼氏さん出来たことないんです?」

「うふふー、かわりに女の子とはいっぱい寝」

「はいはい18禁18禁! コイツ一応高校生ですよ!」

「えー? 昭和84年に15歳なら今年25歳じゃん」

「いや、その理屈はおかしい……」

「アスナちゃん、今度お姉さんがレンタルビデオ屋さんの黒い暖簾のれんの向こうに連れてってあげるからね~」

「ふみゅ……れんたるびでおって何です?」

「DVDどころかVHSを知らない世代!」

「だから、成田君は成田君で昔のモノに詳しすぎない?」

「俺らが子供の頃はまだ普通にビデオテープあったじゃないですか」

「あったと言えばあったけどさぁ……」

「みゅう、二人でわたしの知らない話しててずるいですー」

「お前は車とでも喋ってろよ」

「えっ、アイルさんの前でコンピューターに喋らせちゃっていいんです?」

「よくねーけど。言葉の綾だって」

「えっ、成田君、車が喋るとかなに妄想語ってるの……? きんもーっ☆」

「それ、せめて一日一回にしときましょうよ」

「ねーえー、アイルさん、わたしの前でナリタさんの独り占めはダメですよぅー。ナリタさんもわたしの前でアイルさんの独り占めはダメですからね?」

「共同所有でも要らねーって」

「きゃー、スネてるアスナちゃんもカワイイっ! あーもう、どうしちゃおうこの子!」

「はい、未来少女一点お持ち帰りで。どうぞ先輩宅で何泊でもパジャマパーティーしてください」

「みゅみゅう、あのあの、アイルさん、続き撮らなくていいですか?」

「続きっていうかワンカットとしてマトモに撮れてねーし。NG集でも何でもいいんで早いとこ切り上げてくださいよ」

「うーん、そうねー。やってて改めて思ったんだけど、やっぱアスナちゃんには収録よりリアルタイム配信の方が合ってるかも?」

「いや、だから、コイツにそれは危険ですってば。生放送で取り返しの付かないことやらかしたら取り返し付かないでしょ」

「わたしはいいですよー、リアルタイムのやつで! テレビ電話みたいでゼッタイ楽しいやつですっ」

「お前ゼッタイ画面に向かって光線銃とか撃つやつじゃん」

「ナリタさんはわたしに信用なさすぎですよう」

「初対面からガラスぶち割られて、その日の内に浴室をメチャクチャにされて、それでいきなりお前のこと信用してたら俺マジでただのバカだろ」

「みゅうっ、アイルさんー、ナリタさんがいじめるですー」

「よしよし、アスナちゃんはカワイイねー」

「そのまま二人でどっか異世界にでも転移してしまえばいいのに」

「くすくす、成田君はこうやって余裕ぶってるけど、ほんとにわたしがアスナちゃんを連れてっちゃいそうになったら案外ハラハラするんだよねー」

「へえ、その成田って奴は苦労してるんですねえ」

「安心してくださいナリタさんっ、わたし、そんなに簡単にここからは出て行かないですからっ」

「ここにいようが出て行こうがどっちみち不安なんだよ」

「でもよかったねぇ成田君、こんなカワイイ子にここまで言ってもらえて、ラブコメ主人公冥利に尽きるでしょ」

「先輩、失礼を承知でお尋ねしますけどラブコメって何コメディの略かご存知です?」

「えっ、自分が主人公であること自体は否定しないんだ……きんもーっ☆」

「だからそれ一日一回にしましょうってば」

「ふみゅ、ナリタさん、ラブコメって何の略なんです?」

「だからお前は知らなくていいんだって」

「そうやってまた隠し事してー。みゅうっ、いいですよっ、自分の時代に帰るまでにゼッタイ暴いてみせますからっ!」

「アスナちゃん、ラブコメのラブっていうのはねー、ふふー、恋しちゃうことだよー」

「何の捻りもなくバラしやがった!」

「ふぇっ!? こっここ恋っ!? 誰と誰がっ!?」

「決まってるじゃんっ、カワイイ女の子とカワイイ女の子がだよぉ」

「うわ、先輩自分で可愛い女の子とか言っちゃうんですか……きんもーっ」

「えっえっ、だってアイルさん女の子なのに、えっえっ」

「お前はお前でこないだから何一つこの人の意図を理解してなかったの!?」

「アスナちゃん、この時代ではねー、女の子と女の子が恋に落ちちゃってもいいの」

「ふみゅみゅ……天皇が天皇やめていいのと同じくらい先進的です……」

「お前とその話したのが遥か昔のことみたいだ」

「あっ、じゃあじゃあアイルさん、百合とかネトラレとかって何です? ナリタさんイジワルして教えてくれなくって」

「ふふふー、百合っていうのはねえ……」

「はぁ……俺は平穏が恋しい……」



 ♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来少女アスナ ~令和元年の俺の部屋に昭和84年の世界から銀ピカタイツの美少女が飛び込んできた件~ 板野かも @itano_or_banno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ