(脚本)きっかけ橋

@ponkot

毎月27日

登場人物

石田里帆(17) 高校生3年生


新田結衣(25) コンビニ店長

赤星 源(37) 里帆の父

石田ゆり(40) 源の元妻

大谷 亮(19) 大学2年生


店員


〇戎橋・十一月

   腕時計を確認する新田結衣(25)。

   時計の針が二時を指す。


〇同・十二月

   二時になるのを腕時計で確認する結衣。

   雪が降り始める。


〇同・一月

   手帳を見ている結衣。

   十月二十七日の欄に、「1年記念デート! 14時」と記載が。


〇コンビニ・従業員室

   タイムカードを切る石田里帆(17)。

   シフト表の「新田結衣」の欄を見る。


〇同・店内

   レジに立っている結衣。

   里帆、結衣に近づいて頭を下げながら、

里帆「店長。おはようございます」

結衣「おはよう。里帆ちゃん」


〇戎橋・三月

   スマホのメッセージを見ている結衣。

メッセージ「連絡ください。心配です。来月もいます」

   結衣、スマホを胸に当てる。


〇コンビニ・従業員室

   シフト表を見ている大谷亮(19)。

亮「今月もやで」

   里帆、タイムカードを切っている。

里帆「何が?」

亮「二十七日のシフト。また店長休みや」

里帆「ふーん」

   里帆、ドアを開けようとする。

亮「なんか店長っぽい人見かけたんよなー。

先月の二十七」

   里帆、亮に近づいて食い気味に、

里帆「どこで?」

亮「びっくりした。えとな――」


〇戎橋・四月

   「えびす橋」と書かれた場所を通る船。

   心配そうに空模様を確認する結衣。


〇コンビニ・従業員室

   里帆、着替えている。スマホの通知が鳴り、確認すると父からの連絡が。

メッセージ「大会無事終わった。惜しくも銀賞やったわ。明日の夕方には帰る」

   亮、ドアを開けて入ってくる。里帆の着替えかけの下着姿に顔を逸らして、

亮「あーも! またやん!」

里帆「何が?」

亮「その格好! はよ!」

   里帆、スマホを置いて着替え始める。

里帆「ああ、別にええやん。あっちで着替えるんだるいし」

亮「あほか。そっちがよくてもな! こっちは倫理ってもんが……(ため息)」

   亮、顔を覆っている。

亮「そういや今日二十七日か。こん前店長に何してるか聞いたけど、

 はぐらかされたわ」

   里帆、荷物を持って亮の横を通り過ぎ、肩を叩く。

里帆「お疲れ様でーす」

   亮、胸をさすりながら、

亮「もうー」


〇街中(夜)

   里帆、傘を持って歩いている。雨が降ってきて傘を差す。


〇戎橋(夜)

   辺りを見ながら歩いている里帆、立ち止まる。

   雨に濡れながらぼんやりしている結衣。

   里帆、目を見開き、結衣のもとへ駆け出す。近づいて結衣に傘を差す。

   結衣、傘に気づいて里帆に視線を移す。

結衣「里帆ちゃん。(笑顔で)どうしたん。こんなとこで」

   里帆、下を向いている。ボソッと、

里帆「こっちのセリフや……」

   里帆、結衣の手を引っ張り、歩き出す。


〇赤星家・玄関(夜)

   住宅街にある二階建ての一軒家。

   びしょ濡れで立っている結衣。

   里帆、タオルを持ってくる。

里帆「とりあえずこれ」

結衣「ありがとう」

   結衣、タオルを受け取り、顔を拭く。

里帆「洗濯籠持ってくるので」

   里帆、廊下を歩いていく。

   驚いた表情でタオルを凝視する結衣。

結衣「この匂い……」

   結衣、しゃがみ込んで泣き出す。

   歩いてくる里帆、驚いた表情で籠を置く。素早く結衣のそばへ。

里帆「どうしたんですか?」

   結衣、タオルで顔を覆い、泣いている。

   里帆、困惑した表情で背中をさする。

里帆「風邪引きますから。とりあえず着替えましょう」

   結衣、顔を覆ったまま頷く。


〇同・リビング(夜)

   テーブルで勉強をしている里帆。

   シャワーの音が止まり、浴室ドアが開く音が。

   里帆、ペンを止めて時計を確認し、深呼吸する。

   結衣、下着姿で頭を拭きながら、里帆に近づく。

結衣「ごめんな。シャワーまで」

里帆「全然。服は洗濯してますから――」

   里帆、振り返りに結衣を見て、すぐに顔を戻す。

里帆「着替え置いてましたよね!」

結衣「あ、あー。つい癖で。暑いし――」

里帆「ダメです! り、倫理? 的に……」

   結衣、フフッと笑い、脱衣所へ向かう。

   里帆、息をついてノートを閉じ、ソフ

   ァに座ってテレビをつける。

   結衣、着替えて戻り、里帆の隣に座る。

結衣「里帆ちゃんって、優しいんやね」

里帆「普通ですよ。こんなん」

結衣「そう? でも良いこと知れたな。いつもはなんかこう、クールな感じや 

 し!」

   里帆、テレビを見たまま、

里帆「何してたんですか? あそこで」

結衣、苦笑いして下を向く。

結衣「笑わん?」

   里帆、結衣を見て何回も力強く頷く。

結衣「おお力強い。(笑顔で)まあここまでしてもらって言わんのもな……彼氏、と 

 いうか、元カレ? を待っててん」

里帆「元カレ?」

結衣「そ。でもなあ、フラれてはないねん。連絡つかんくてな。家も知らんし、心

 配やから。生存確認だけでも、って」

里帆「ほんとにそれだけ、ですか?」

   結衣、考え込む。

結衣「(笑顔で)それだけやな」

   里帆、真剣な表情で結衣を見つめる。

×   ×   ×

(フラッシュバック)

   玄関で泣いている結衣。

×   ×   ×

里帆「やとしたら何で――」

   里帆のスマホに父からの着信が。

   里帆、舌打ちをして電話に出る。

里帆「何? ……家におるけど」


〇ホテル・外(夜)

   「森山高等学校吹奏楽部 御一行様」と書かれた看板。

   赤星源(37)、煙草を吸いながら電話をしている。

源「ならええんやけど」

   源、黙って煙草を吸う。


〇赤星家・リビング(夜)

   里帆、眉を顰める。

里帆「はあ? そんだけ? もう切んで」

   里帆、電話を切り、呆れた表情になる。

結衣「親御さん?」

里帆「一応。あんな奴、父親でも何でもないですけど。一丁前に心配して」

結衣「ええお父さんやん」

   里帆、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、

里帆「違います。ただの自己満野郎ですよ。あいつのせいでお母さんが……」

   里帆、下を向く。

   結衣、里帆から時計に目を移す。

結衣「まあ、もう遅いしそろそろ帰るな」

   結衣、立ち上がる。

   里帆、結衣を見上げて腕を掴む。

   結衣、振り向いて首をかしげる。

里帆「あ、いや。服乾いてないし……終電もないですよ」

結衣「タクシーで帰れるから、大丈夫やで」

里帆「でも、雨強なってきてるし……泊まって行ってください」

結衣「……お父さんは大丈夫なん?」

里帆「あいつ吹奏楽部の大会の遠征で帰ってこないんで、大丈夫です!」

   結衣、痛そうな顔をする。

   里帆、結衣の様子に気づき、手を離す。

   結衣、しゃがんで里帆の目線に合わせ、

結衣「じゃあお言葉に甘えるわ!」


〇同・玄関(朝)

   結衣、靴を履いている。

   里帆、服の入った紙袋を結衣に渡す。

結衣「ほんまにありがとう。私にやって欲しいことあったら言ってな。

 お返ししたいし」

里帆「……一緒に遊びに行きたいです。次の休みの日とか」

結衣「そんなんいつでも行くで! じゃあ」

   結衣、ドアを開けて出て行く。

   嬉しそうな表情の里帆。


〇同・里帆の部屋

   里帆、鏡の前で服を何着も着替える。


〇戎橋

   辺りを見渡し、スマホを確認する里帆。

里帆「早すぎた」


〇走っている電車


〇同・車内

   里帆と結衣、隣同士で座っている。


〇エキスポシティ・ニフレル館内

   里帆と結衣、魚を見ながら歩いている。

   水槽に張り付いている里帆、結衣に嬉しそうな顔で手招きする。


〇同・芝生(夕)

   手をついてぐったり座っている里帆。

   結衣、飲み物を持って里帆に近づく。

結衣「はいこれ」

里帆「ありがとうございます」

   結衣、里帆の隣に座る。

結衣「里帆ちゃん魚好きやってんな。テンシ

ョンやばかったもん」

里帆「まあ、それもあるんですけど……」

   里帆、飲み物に口をつける。

結衣「そういや元カレから連絡来てな。今月の二十七日会えるらしいねん」

里帆「え」

結衣「話があるって。(笑顔で)今更何なんやろな。改めて振られるんかも」

里帆「……その割には嬉しそうですね」

結衣「まあ心配やったしな。振られたら慰めてな。里帆ちゃん」


〇赤星家・リビング(夜)

   源、テーブルで新聞を読んでいる。

   里帆、ドアを開けてくる。

源「お帰り」

   里帆、源の横を通り過ぎる。

源「二十七日の夜、ご飯行くから空けといて」

   里帆、無視して階段へ向かう。


〇同・里帆の部屋(夜)

   里帆、荷物を投げ、ベッドに倒れる。

里帆「まだ好きやん。絶対」

   泣きそうな顔で天井を見上げる里帆。


〇戎橋

   辺りを見渡し、腕時計を確認する結衣。

結衣「早すぎた」


〇同・里帆の部屋

   勉強机にぐったり座る里帆。

里帆「はあ。今日か。二時って言うてたっけ」

   里帆、机の上の時計に目をやる。

   時計は一時半を指している。


〇同・リビング

   源、着替えている。

   里帆、階段を下りてきて、源に近づく。

里帆「サングラス貸して」

源「なんで? どっか行くん?」

里帆「ちょっと」

源「夜ごはん食べ行く約束覚えてるか? おれも出かけるけど、夜前には帰ってくる

 し。早めに頼むで」

里帆「あーはいはい。んでどこ?」


〇戎橋

   サングラスをかけている里帆、息を切らして遠目から結衣を見ている。

   結衣、腕時計を見る。二時になっており、辺りを見渡す。

   源、結衣に近づく。

   結衣、源に気づいて口元を覆う。

   里帆、サングラスを外して目を凝らす。

里帆「は?」

   源、結衣の肩に手を置く。

   嬉し泣きをしている結衣。

   里帆、二人のもとへ走り出す。

   結衣と源、走ってきた里帆に気づく。

結衣「里帆ちゃん?」

源「里帆?」

   結衣と源、お互いを見る。

   里帆、息を切らし、交互に二人を睨む。

里帆「まさか、それが元カレ?」

結衣「え、あ」

源「何でここに? 出かけたんやないん――」

里帆「うっさい! 黙っといて!」

   里帆、泣きそうな顔で結衣を見つめる。

里帆「どうなん? なあ」

   結衣、黙って俯く。

   里帆、サングラスを結衣に投げる。

里帆「何とか言えや!」

   周りの人が注目する。

   源、里帆の腕を掴む。

源「落ち着け。周りに人おるんやで」

   里帆、抵抗する。

里帆「触んな! お母さん踏みにじったくせに!」

   源、手を離す。

里帆「見たないわ。あんたらの顔」

   里帆、歩いていく。

   結衣、追いかけようとする。

   源、結衣の手を掴み、首を振る。


〇公園

   ちらほらと人がいる。

   ベンチに座る里帆、子どもと遊んでいる女性を眺めている。


〇(回想)赤星家・リビング(夜)

   源と石田ゆり(40)、テーブルに座っている。

   テーブルの上には離婚届が。

ゆり「もう会わんって言うてたやん」

   源、離婚届を見つめている。

ゆり「二回目はないわ……誰なん? その女」

源「ごめん」

   ゆり、テーブルを叩く。

源「……吹奏楽部の元教え子」

ゆり「生徒に手出してたん?」

源「いや、一年半前くらいに再会して、それで――」

   玄関のドアが開く音。

里帆の声「ただいま」

   里帆、リビングに入ってくる。

里帆「え?」

   ゆり、里帆を抱きしめる。

ゆり「ごめん。ごめんな、里帆。お母さんもう限界なんや」

   放心状態の里帆。

〇公園

   泣き出す里帆。

里帆「ふざけんな……」


〇カフェ・店内

   源と結衣、向かい合って座っている。

源「里帆はゆり……母親が大好きやってん。やから、おれと不倫相手を憎んでた」

結衣「……私」

源「そう、やな……去年の十月二十七日、結衣と一年記念日のデートの後、家族が 

 バラバラになった」

   結衣、俯いている。

源「里帆はゆりについて行こうとしてた。けど……」


〇(回想)赤星家・リビング(夜)

   源、里帆、ゆり、座っている。

   里帆、テーブルを叩いて立ち上がる。

里帆「私もお母さんについて行く! 不倫した奴と一緒とか嫌や!」

ゆり「……もうお母さん出来る自信ないねん。ごめんな。自分勝手で……」

   里帆、リビングから出て行く。


〇カフェ・店内

   源と結衣、向かい合って座っている。

   源、コーヒーを飲む。

源「今日言いたかったんは、もう会えへんってことやねん。これまでのこと償いた

 い。自己満て言われても、里帆だけは……」

結衣「……」

源「遅なって悪かった。やっと気持ちの整理がついてん。結衣に会ってしまったら、

 またずるずるいってしまうやろなって」

   結衣、涙を浮かべる。

源「これからも里帆と仲良くしてな」


〇レストラン・店内(夜)

   高級そうな外観のレストラン。

   源、食事をしている。


〇赤星家・外(夜)

   源、ドアを開けようと鍵を入れる。

   鍵がかかっておらず、玄関に入る。


〇同・里帆の部屋・外(夜)

   源、袋を持って階段を上ってくる。

   里帆の部屋のドアをノックする。

源「今日行く予定やったレストラン、テイクアウトもやっててな。買ってきたし、良

 かったら食べて」

   源、袋を置く。

源「今までのことほんまにごめん。これからちゃんとする。そのためにケリつけて

 きた」


〇同・同・中(夜)

   里帆、ベッドでうずくまっている。

源の声「里帆には幸せになって欲しい」

里帆「は? お母さん奪っといて何言うてんの? 不倫してる時はさぞ幸せやったん

 やろな」


〇同・同・外(夜)

   源、ドアを見つめている。

源「子どもにはわからんことや」


〇同・同・中(夜)

   里帆、舌打ちして枕をドアに投げる。

里帆「分かりたくもない! そんなん!」

源の声「そうやな……おれが悪いし、店長とは仕事仲間として普通に接してあげて

 な。じゃあおやすみ」

   階段を下りる音。

   里帆、顔を覆う。

里帆「それだけやないねん……」


〇コンビニ・店内

   里帆、品出しをしている。

   結衣、里帆に近づく。

結衣「里帆ちゃん。バイトの後時間ある?」

   客がレジに向かう。

   里帆、客を見てレジに行く。

   結衣、里帆を見つめる。

   亮、結衣に近づく。

亮「どうしたんですか? 仕事あるならおれが代わりにやりますけど」

結衣「いや、大丈夫」


〇同・従業員室・中

   里帆、机に伏せている。

   亮、ドアを開けて入ってくる。

亮「おー生きてるかー」

里帆「……」

亮「どうしたん最近。元気ないやん」

里帆「別に」

亮「お、生きてた。今度さ、遊び行かへん? 気分転換的な感じで、ほら――」

里帆「ええよ」

   亮、驚いた表情で里帆を見る。

亮「え、ほんまに?」

里帆「うん。何なら今日のバイト終わりで。シフトあとちょいやろ。待っとくし」


〇同・同・外

   結衣、ドアをノックしようとする。

亮の声「まじで! この後遊べるん! やばいやる気出てきたわ!」

   結衣、俯いてドアから離れる。

   亮、ドアを開けて出てくる。

亮「あれ、入らないんですか?」

結衣「あ、うん」

亮「てか聞いてください店長。やっと里帆が遊んでくれるらしんすよー」

結衣「(苦笑い)良かったやん」

亮「あ、お客さんや。んじゃ行ってきます!」

   結衣、ため息をつく。


〇公園(夕)

   里帆と亮、ベンチに座っている。

里帆「ゲーセンはないわ」

亮「どこでもいいって言うたやん。しかも、ちゃんと楽しんでたくせに!」

   沈黙が流れる。

里帆「なあ。男ってなんで不倫すんの?」

亮「え、いきなり何? 怖い怖い」

里帆「あ、ごめん。なんか、友達の話やねんけどさ……」

   女性が遊んでいる子どもを呼んでいる。

亮「んー、その子は男が嫌いなん?」

里帆「まあ。男はくそやと思ってるな。父親の影響で」

亮「でもさ、それだけが原因で女の人を好きになったんやないんやろ?」

里帆「そう、なんかな」

亮「そうやろ。その人やからちゃう?」

   里帆、考え込む。

里帆「ちょっとすっきりしたわ。ありがとう」

亮「(笑顔で)里帆がすっきりしてもな。んー、そろそろ夜ご飯でも、どう?」

   里帆のスマホに着信が。

   亮、里帆と目が合い、頷く。

   里帆、電話に出る。

里帆「もしもし……お母さん? うん、うん。え、そーなん? すぐ行く!」

   里帆、電話を切る。

里帆「ごめん。用事できた。ほんまにごめん」

亮「大丈夫やって! また遊ぼな」

里帆「うん。ありがとう。ちょっとは男、見直したわ。じゃ!」

   里帆、走っていく。

   亮、空を見上げる。

亮「もうー。てか友達の話ってほんまか。んなベタなことないか」


〇駅構内・カフェ・店内(夜)

   ゆり、座って飲み物を飲んでいる。

   里帆、走ってきてゆりに近づく。

ゆり「おー、久々やな里帆」

里帆「お母さん! 何でここにいるん?」

ゆり「こっちに来る予定あってな。広島の実家からやとやっぱ遠いわ。ま、ゆっくり

 座って。いうても新幹線すぐやけど」

   里帆、荷物を置いて座る。

   ゆり、辺りを見渡して手を挙げる。

   里帆、ゆりを見つめる。

ゆり「どうしたん?」

里帆「いや、別に」

   店員が来る。

里帆「アイスコーヒーください」

ゆり「大人やん。里帆」

里帆「(苦笑い)やろ」

ゆり「なんかあった? 悩み事?」

里帆「うん。まあ……何で分かったん?」

ゆり「そりゃー、子どものことは何でもお見通しや。大人やからな」

   里帆、運ばれてきたコーヒーを飲む。

里帆「大人になったら何でも分かるようになんの?」

ゆり「どうやろー。分からんことが増える気もするな」

里帆「……あいつにさ、不倫のこと言ったら、子どもには分からんって」

ゆり「(笑う)それはな、あの人も分かってないねん」

里帆「え?」

ゆり「逃げや逃げ。自分も分かってないからそう言ってるだけや。大人になっても分

 からんもんは分からんでー」


〇同・改札前(夜)

   ゆり、切符を取り出す。

ゆり「またゆっくり話そうな」

里帆「……お母さんはあいつと不倫相手、憎んでないん?」

ゆり「まあ最初はな。もうどうでもいいけど。大人やからな!」

里帆「すごいなお母さんは……」

ゆり「もしお母さんとあの人のことで悩んでるんやったら、気にせんといて。里帆

 が思うように生きていったらええ。里帆にしか分からんこともあるから」

   里帆、ゆりを抱きしめる。

   ゆり、改札を通り、手を振る。

   里帆、電話をかける。


〇戎橋(夜)

   里帆、川を見つめている。

   結衣、歩いてくる。

結衣「どうしたん? こんな時間に」

里帆「……同性を好きになるのっておかしいんですかね」

結衣「そんなことない」

里帆「店長は私とキスできますか?」

結衣「……」

里帆「私が女やから?」

結衣「……そんなん間違ってる」

里帆「じゃあ不倫は? 間違ってなかったんですか?」

   結衣、俯く。

結衣「里帆ちゃんはさ、恋愛に障害があったとして、好きな人を諦められる? 私は

 無理やった。間違ってるとしても」

里帆「……不倫した人が幸せになっていいはずない」

   里帆、結衣にキスをする。

   驚いた表情の結衣。

里帆「ごめんなさい。これが最後です」

   里帆、歩いていこうとする。

   結衣、里帆の腕を掴む。

結衣「待って! 私も言いたいことあんねん」

里帆「……」

結衣「まだ、慰めてもらってへん。約束したやろ? フラれたら慰めてくれるって。

 話したい事めっちゃある。遊びに行かな足りへんくらい!」

   里帆、泣き出す。

結衣「それに、私にやって欲しいこと、もうないん?

 全然お返し出来てへんねんけど」

里帆「……抱きしめて」

   結衣、里帆を抱きしめ、背中をさする。

結衣「こん前、里帆ちゃん、背中さすってくれたなもんな」

里帆「こんなこと言いたかったんやない。ただ――」

   里帆の言葉が街の音に消えていく。

   驚いた表情の結衣。優しく微笑み、

結衣「そっか」


〇コンビニ・従業員室

   シフト表を見ている亮。

亮「今日里帆おらんのか。おもんないなー」


〇戎橋

   腕時計を確認する結衣。

   里帆、走ってくる。

   笑顔で手を振る結衣。

               完

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