東北某県で会った拝み屋の話

森 メメ

東北某県で会った拝み屋の話

 長いこと『拝み屋』なんて胡散臭い仕事をやってると、稀にだが『本物』に出会う事がある。

 拝み屋なんて多分、殆どはインチキだ。

 他の同業者に知り合いがいないから他がどうかは知らないんだが、客が安心できるように適当な儀式やら塩やらを撒いてそれらしく振る舞うだけでいい。

 けど、それでもやっぱり事もある。


 テレビやネットの動画で見るようなヤツとは違うよ。

 基本的にあんなハッキリと映るような事はないし、ほぼ100%は偽物かシミュラクラ現象だ。

 難しい事は専門の先生に聞かなきゃ分からないが、霊ってのは結局、情報らしい。

 人間が死んだ後、消去し切れなかった情報が空気中を漂うんだとか。

 パソコンなんかもそうだよな、徹底的に消さなきゃ中身のデータは消えない。

 重ねた紙に書いた字が下の紙に跡になって残るようなもんだって聞いた事もある。

 まぁ、そうやって偶然残ったデータが、さらに偶然で空気の流れや磁場なんかの影響で投射されちまったもんが『幽霊』ってわけさ。

 万分の一、億分の一の確率だからな、それと偶然出会うなんて宝くじより難しいわけだ。


 __でもまぁ、なんだ。

 俺がやってる拝み屋ってのは、ある意味くじを集める仕事なわけだろ?

 向こうから、くじの当落を確かめてくれって言われるようなもんだ。

 だからその中に当たりくじが、というか貧乏くじか?

 まぁ、それを引いちまう事があるんだよ。


 俺が見たのは5、6回くらいだったかな。

 本当に偶然の産物だから、客が目撃した後、俺が出向くまで残ってるなんて運が良いんだか悪いんだか。

 ……いや、多分悪いな。


 パソコンにやっちゃいけないこと知ってるか?

 強い衝撃を与える事。

 酷い時はデータがグチャグチャになっちまう。

 交通事故、それが一番キツイ。


 ああ、ちゃんと説明しなきゃピンと来ないよな。

 幽霊がどんな風に見えるか。

 同じような壊れ方してる幽霊が居ないから説明するのも難しいが……。

 例えば、めちゃくちゃな近視かつ乱視で見た視界だ。

 どれだけ近付いて見ても歪んだモザイクでハッキリ見えない。

 イメージが難しいかもしれないが、めちゃくちゃ気持ち悪いぜ。

 そこにあるのに、完全に隔絶されてるような感覚になる。


 それに似たやつだとアレだ。

 キュビスムの絵って言って分かるかな。

 ゲルニカとかで有名なピカソの画風の一つなんだが。

 正面から見てるのに、どっかの線を境に側面から見た絵になったり部位が回転して貼り付けられたり。

 俺からしたら意味不明な芸術だが、分かりやすく説明するならそんな感じだ。


 バグってやつなのかね。

 現実に映し出された幽霊の姿は正常に出力されない。

 少なくとも俺の知ってる幽霊は全部そうだ。


 で、だ。

 本題はここからなんだが。

 見た目がグチャグチャなのは分かっただろうけど、その中身はどうなんだろうな?

 同じくグチャグチャだと思うか?


 ……意外と頑丈らしい。


 場合によってはちょっとした会話くらいは出来る。

 どうせ放っておけば消えるし、なんならそこらの土を少し掘り返したり、物を少し動かすだけで居なくなっちまう。

 だからまぁ、興味本位で話してみるんだよ。

 名前とか覚えてる日付……多分死んだ日の日付くらいは話すし、自分が死んでいる事に気付いて旦那や家族の心配をしたり、死んだ事にショック受けたりもしてる。


だからちょっとした善意で言うんだよ。

「安心してあの世に行くといい」って


 ……でもさ。

 皆、同じこと言うんだよ。

 別の場所で、死因が違うやつも、死んだ時も全く違う幽霊が、だよ。

「安心してあの世に行くといい」って言った時、「ありがとう」って言った後に皆揃って言うんだよ。



「でもお前はダメだよ」

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