"当たり前″の日常の中に埋もれて行く「私」と「私」の物語

 夏の始まりと共に目覚めた「私」。そして消えて行く事の定められた其れ迄の「私」。そんな事が当たり前として受け入れられている世界で、これはそんな二人の「私」の密やかな交流の物語。
 これは誰にでも起こる"当たり前″の事。それを後押しするか様に、あくまで平明な文章で物語は進んで行きます。舞台が夏なのもあってか、何処となく明るい光が其処彼処に射し込みながら。
 けれども、何処か不穏さを感じる空気も又隠しようもなく漂っている。やがて訪れる結末が予想されるだけに、切なさと遣り切れなさを読者は感じ取る事になるでしょう。
 それは、早疾うにその時期を通り過ぎてしまった「私達」の事であり、これから、若しくは今正にその時期にある「私達」の物語でもあるのだから。

 かなりアクロバティックな手法で描かれる独特な世界であり、実験的な小説に取り組む人達にとっても、これは興味深い作品だと思います。