いつまでも私は、私を忘れない(連載終了)
雨宮 隅
おわりに
想いの行方は
父は車を出そうと提案してくれたが断った。一週間以上エアコンの効いた屋内に引きこもっていたので、さすがに外の空気を感じたかった。
それと家族は一緒に行こうかとも言ってくれたけど、今年は私は一人で行きたいからと
日焼けクリームを塗った肌は服でしっかり覆って、水筒にキンキンに冷やしたお茶をたっぷり入れた。
もう腰までの長さになった髪は一括りにして、ちゃんと日傘もさしている。
それでもまだ私は真夏のカンカン照りを舐めていた。
ほんの十分歩いただけで汗が滝のように流れ、視界が
アブラゼミの大合唱は頭の中を沸騰させてきて、殺人的な熱気は容赦なくひ弱な肉体から体力を奪っていく。
アスファルトの上を歩く私は熱したフライパンの上の食材のようで、今はちょっと……いやかなり後悔している。
こんな思いをしているのは彼女のせいだとちらりと頭の中をよぎったが、それは筋違いだとすぐ打ち消した。
でも暑さは打ち消せないので、私はこまめにお茶を口に含んで、のろのろと目的地に歩を進めた。
お盆なので墓地には、同じようにお墓参りに来ている人がけっこういた。
私と同じ年代の人も当然多い。
ちょうど水場は誰もいなかった。
元々人と顔を合わせるのは苦手だが、一週間も孤独を堪能していたせいで、人見知りに拍車がかかっていたので幸いだ。
口もゆすごうとしたが、はてそれは神社の作法だったかと迷いやめておいた。
来年来る時までには、いやこの後帰ったら、年長者たちにお墓参りの方法をちゃんと聞いておこうと思った。
桶がたくさん置いてあったので、たぶんこれに水を汲んで墓石を洗うのだろうと見当をつける。
他の人たちの様子も観察して、間違いではないよねと確認する。
事前に父から場所を聞いていたので、お墓の位置はすぐ見つけることができた。
木山家の墓石は他の家と比べて特に大きくも小さくもなく、この墓地では平均的なサイズで、自分が普通の一庶民であることを改めて実感した。
思っていたよりも墓石は汚れていなかった。
こんな屋外では
何回か水を石の頭から掛けて、次に側面に掛けて、残っている汚れがないか確かめる。
よし大丈夫。
多少落ちている草木の枝葉を取り除いて、膝上くらいの高さになっている雑草をさっさと抜いて作業は完了。
そうしたら目を閉じて、両手を合わせて想いを
最初はこの墓に眠る顔も知らないご先祖様に。
次に数年前に亡くなった祖父に。
そして最後に、彼女に。
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