決意は物足りず、でも確かにそこに、



 

 木山祈里いのり

 それが彼女の名前。

 そして、私の名前。


 享年十六歳。

 約三カ月前に祈里は逝った。

 そして私は生きている。

 だから私は生きている。

 彼女は私。でも私だけど私じゃない。


 遺骨はない。全てを、祈里の精神以外の全てを私が受け継いだ。

 だから本当の意味では彼女はここにはいない。だけどこの場所に来たら、祈里はここに眠っているのではないか、そんな気がした。



 生前の祈里は快活でとにかく賑やかで、誰からも好かれるような明るい女の子だった。

 自信たっぷりで余裕しゃくしゃく、怖いものなんて何にもなさそうで。

 でも実は感傷的で人一倍周りに気を遣って、けっこう疲れる生き方をしていたのを私は知っている。


 一方の私はといえば、とんでもなく引っ込み思案で人見知りで、いろんなことが怖くて決断することが苦手だった。

 でも根っこは意外と鈍感で、いざという時はどこからか湧き出てくる謎の行動力が、周囲の人たちを驚かせた。



 一言で言えば、私は「変な」女の子だった。

 それが彼女を不安がらせた。

 


 、彼女は私に大丈夫かとても怯えているのが分かったし、私の方もちゃんと引き継げるか自信がなかった。

 焦らせたし、焦った。

 落ち込んだし、落ち込ませた。



 本当に絵に描いたように私たちは正反対だったのだ。

 戸惑って困惑して混乱して、嫌になったことは数知れない。

 時に疎みたくなり反目し、でも打ち解けるうちに徐々に共感し、助け合って、最期までお互いに相手をうらやましがって。

 


 いろいろあって、本当にいろいろあって。

 見事にずれてるなあ、かみ合わないなあと、お互い苦笑いで済ませられるようになった。

 何とか最期には分かりあえたと思う。


 十分安心させられた気はしないけど、彼女の中で私が「まあいっか」と、する意味のない悩みを放棄させるくらいには気持ちは通じた。

 妥協とは悪い意味ではないと、経験を持って私たちは学んだのだ。



「……また来るね」


 そうつぶやいて、私はその場を後にする。

 あんなにおしゃべりだった彼女はもう何も答えてくれない。

 けれど。

 けれど、私はもう大丈夫。


 あれから三カ月。

 もう三カ月。

 彼女の、生きていく覚悟は、やっと……、ようやく、少しできた、と思う。


「……見ていてね」


 今ここに彼女がいたなら、きっと笑っていただろう。

 自信なさげな私の、小さな小さな、覚悟を見通した苦笑い。

 そうしたら私も何だか申し訳なくて、だから自然と口端に笑みがこぼれた。


 ごめん。

 落ち着いて見てられないかもだけど、……見ていてね。


 私は、ちゃんと生きるから。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る