第一章

記憶の始まりはいつ?

 ある時、今まで生きてきた中で一番古い記憶は何歳のものだったのか、祈里に聞いたことがあった。


『そうだねぇ。小学生の頃のはまだけっこういろいろ憶えてるよ。幼稚園も二、三個は断片的に頭に残ってるね。でも一番古いのはねえ、私が赤ちゃんでお母さんに子守歌を歌ってもらった記憶! 心地よくて、だんだんと眠くなっていく場面を憶えてるんだ、すごいでしょ!』

『へえ……。それは確かにすごいね』


 私は素直にびっくりした。

 そんなまだ、自我があやふやな時期の思い出が残ってるとは、予想していなかった。

 彼女が取り分け記憶力が良いのかとも思ったが、別に高校の試験勉強では英単語の暗記にうんうん唸っているのを知っているので、意外に人の脳は思い出を大事に保管しているのだなと思った。


『でも何で急にそんなことを聞くの?』

『えと……うーん、それはまあ……』


 彼女の純粋な疑問に対し、私は答えるのをためらった。

 たぶん私の答えは彼女に負担をかけると分かっていたから。


 気まずい気持ちになるならば、初めの問いかけをしなければいいじゃないかと、私も迷った。

 でも私たちにはもうあまり時間が残されてなくて、聞かないで後悔したくはなかった。

 

『ねえ、何で? 教えてよー』

『うーん、うん……はあ……分かった』


 結局彼女の圧に屈して、私は理由を打ち明けてしまった。


『あのね……』


 私は、私は、目覚めた時の記憶をまだ鮮明に憶えてるから。

 ただちょっとほんの少しだけ気になったんだよと。


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