秘密基地を作ろう!①

「ふー。今日の収穫はこんな感じかな?」

「ほんと!? じゃあ、もう遊びに行っていい!?」


 村に帰ると、キラキラした瞳でリノがキーリに質問をする。

 キーリは少し考えたあと、今日はもう作業が残っていないという結論に達した。


「えぇ」

「やった! 行こうぜ! スイ!!」

「(コクリ)」


 今日の収穫を終えると、リノはスイを連れて駆け出す。


「あんまり魔の森に近づいちゃダメよー」

「わかったー!!」


 キーリは元気に駆け出していく二人を見送ってから今日収穫した大量の食材を持って村へと帰っていく。

 リノとスイの二人はそんなキーリに背を向けて駆け出す。


 今日はレインの決めた休日だ。

 修行や探索は休みにして一日自由にしていいことになっている。

 レインがいない今でもその予定は一緒だ。


 だが、野菜はそんなことお構いなしに成長する。

 そのため、春になってから朝だけはみんなで収穫作業をすることに決めた。


 リノとスイもそのことはわかっている。

 それでも、早く遊びたい気持ちは隠しきれていなかった。


「スイ! 今日は何する!?」

「……」


 少し考えた後、スイは近くの池の方を指差す。


「釣りか……。じゃあ、釣り竿を取りに行かないといけないな」


 釣りをするには釣り竿が必要だ。

 今日は釣りに行く予定ではなかったので、釣り竿を持ってきていない。


 だが、残念なことにここは村からかなり離れている。

 取りに帰るのは少しだけめんどくさい。


「……作る?」

「その手があった!」


 水が指差したのは普通の森だ。

 少し距離があるが、村に帰るよりは近い。


 釣り竿を作るくらいであればそこまで大変でもない。

 それに前に釣り竿を作ってからリノの細工能力は向上している。

 それなら、作ってしまってもいいかもしれない。


 リノとスイは手近な木の中から釣り竿に向きそうな枝を探す。


「なかなかいい感じの枝がないな」

「……(コクリ)」


 釣り竿に向く枝というのはなかなかない。

 固すぎれば食いついた獲物に針が刺さる前に釣り針だとバレてしまう。

 かと言ってしなりすぎれば獲物を釣り上げることができなくなってしまう。


 しばらく進んでもいい感じの枝は見つけることができなかった。


「う〜ん。いいのが見つからないな〜」

「……」

「もう、魔術で作った方がはやいかな?」

「……」

「スイ?」


 リノが振り返ると、スイはだいぶ手前の木の根元でしゃがみ込んでいた。

 どうやら、何か気になるものを見つけてしまったようだ。

 スイは興味のあるものを見つけると大体こんな感じで周りの声が聞こえなくなる。

 こうなったスイにはいくら話しかけても無駄だ。


 スイが何に興味を持ったのか気になったこともあり、リノはスイのところまで駆け戻る。


「どうしたんだよ? スイ」

「……この子」

「くぅ〜ん」


 スイのすぐそばに小さなグレイウルフが横たわっていた。

 リノは一瞬攻撃しようとしたが、すぐにやめた。

 グレイウルフは敵意を見せていなかったからだ。


「この子って……」

「けが、してる」

「可哀想だな」


 そのグレイウルフは全身傷だらけだった。

 後ろ足には大きな切り傷があり、これでは走ることもできないだろう。


「なんとかできないかな?」

「やって、みる。『回復』」


 スイが魔術を使う。

 スイはミーリアの魔術を何度も見ており、『回復の魔術が使えるようになっていた。

 回復量はミーリアには遠く及ばないが、魔力量のゴリ押しで傷を塞ぐ程度はできるようになっている。

 普通の街なら立派に回復魔術師を名乗れるレベルだ。


「‥‥ウォン!」

「やった!」

「立った」


 スイの魔術を受けて、小さなグレイウルフはゆっくりと立ち上がる。

 ちゃんと傷は治ったようだ。


「じゃあ、俺からはこれをやるよ!」


 リノは右のポケットからパンを取り出してグレイウルフに差し出す。

 お昼ご飯用にと思って家からこっそり持ってきていたものだ。


 グレイウルフは確認するように何度もパンの匂いを嗅ぎ、恐る恐る一口齧る。

 一口齧って、毒ではないと確信したのか、のこりもガツガツと食べ切ってしまった。


「もう一個いるか?」

「ウォン!」


 リノ用とスイ用にと二つ持ってきていたパンのもう一つも取り出すとグレイウルフはペロリと平らげてしまった。


「ウォン! ウォン!」

「うわ!」


 グレイウルフはパンを二つとも食べ終わるとピョンとリノに向かって飛びついた。

 敵意も感じなかったので、リノは優しくグレイウルフを抱き止める。


「こーらー! やーめーろー! 俺は食べ物じゃないぞ!」

「かわいい」


 グレイウルフは親愛を示すようにリノの頬をなめ、スイが撫でる手も嫌がらずに受けてめる。

 どうやら、かなり懐かれたようだ。


「リノ! スイ!」

「「!!」」


 二人がグレイウルフを可愛がっているところにキーリが駆け足で近づいてくる。

 リノは咄嗟にグレイウルフを懐に隠し、スイはそんなリノを隠すようにその前に立つ。


 だが、二人の心配は杞憂に終わった。


「どうか、した?」

「レインたちが帰ってきたわ!」

「! 本当か!」

「えぇ! 二人とも無事よ! アリアが今日はパーティにしようって! 二人とも準備手伝って!」

「わかった!」


 キーリの背中が十分に遠ざかった後にリノは元いた場所にグレイウルフを下ろす。


「じゃあな」

「また、ね」

「くぅーん」


 スイとリノは先ほどのグレイウルフを気にしながらキーリの後を追った。

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【WEB版】追放魔術師のその後 ~なんか、婚約破棄されて、追い出されたので、つらい貴族生活をやめて遠い異国の開拓村でのんびり生活することにしました~ 砂糖 多労 @satou_tarou

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