始めてちょろちょろ中パッパ。赤子が泣いてもフタ取るな ⑤

「「「「わぁぁぁぁ!」」」」

「お? やってるみたいだな」


 俺は魔の森から絶え間なく出てくる魔物たちを狩りながらミーリアと会話をしていた。

 ミーリアには光属性の魔術である『遠見』を使ってさっき通ってきた戦場の確認を行なってもらっている。

 軍隊の方から戦闘の雄叫びが聞こえてくるし、魔力探知でも確認しているが、念のためだ。


 この国の軍隊の動きについては俺なんかよりミーリアの方が詳しいからな。


「善戦してるみたいですね」

「よかった」


 ミーリアの見立てではどちらの軍も善戦しているらしい。

 俺にはよくわからないが、状況はフローリア辺境伯軍の方がいいそうだ。


 キーリの作った土液で多くの魔剣や魔防具が修復されて、それが功を奏しているらしい。

 にもかかわらず、撤退の準備もフローリア辺境伯軍の方が進んでいるそうだ。


 隣国とうちの国で同じくらい兵が減っているが隣国は敗走兵でうちの国は撤退のため輜重隊を逃している。

 どちらの方が撤退が進んでいるかは言うまでもないだろう。

 敵国も第二陣が目撃されてからは撤退の準備をしているようなので、そう遠くないうちにここいらから軍隊はいなくなるだろう。


 一部の部隊が敵軍に突っ込んで行ったりしたそうだが、今はそれも落ち着いているそうだ。


「あ。一匹倒されました」


 そうこうしているうちに最初に通した一匹が倒されたらしい。

 第二陣として送った二匹ももうかなりのダメージを受けている。


 予想通り、魔物数匹であれば十分対処できるようだ。


「じゃあ、次、三匹いくぞ」

「はい」


 俺が声をかけると、ミーリアは俺のすぐそばまでやってきた。

俺はミーリアを抱き抱えて大きく跳躍する。


「『風刃』×100!」


 俺は大量の『風刃』を使ってあたりの魔物を掃除する。


 俺の風刃は狙い違わず魔蛇たちの首を刎ねていく。

 魔術の風が過ぎ去った後には大量の魔石が残されていた。


「「「SHAAAAAAA!!」」」


 そんな中から三匹の魔蛇が逃げるように這い出してくる。

 さっきの群れの生き残りだ。


 三匹は俺の下を通り抜け、一目散に逃げ出していった。


「よし」


 俺は狙い通り三匹残せたことに心の中でガッツポーズをする。


「流石レインですね。ここまでは作戦通りです」

「あぁ。両軍とも撤退準備をちゃんと進められているようだし、作戦は上々の結果だな」


 目にも留まらぬスピードで魔石を拾いながらミーリアが満足げに話しかけてくる。


 その笑顔は作戦がうまく行っていることに対する笑顔だよな?


 ‥‥ともかく。

 全部俺たちが対処するわけにはいかない。かと言って、全部軍のに対処させるなんて不可能だ。

 かと言って、俺たちが抑えているうちに軍に逃げてもらうことなんてできないだろう。

 自分達に危機が迫っているなんて知らないのだから。

 死んでいることになっている俺たちが伝えに行きわけにもいかないからな。


 そこで、俺たちは少しずつ軍の方に魔物を向かわせて軍に危機感を持たせるという作戦に出ることにした。

 軍隊が完全に撤退したところで俺たちも撤退する予定だ。


 作戦と言っていいほどのものでもないが。


 被害は出るかもしれないが、これが最善だろう。

 さっきの天誅たちが見ていれば違和感を抱くかもしれないが、あの二人は一目散に撤退していった。

 おそらく、魔力が心もとなかったのだろう。


「よし。じゃあ、もうひと頑張りするか」

「はい」


 俺たちは魔物の間引きを進めた。

 両軍が撤退したのはそれからしばらくした後のことだった。


「殿部隊も撤退を始めたみたいです」

「よし。俺たちも撤退するぞ」

「はい」


 俺は最後に視界に移る魔物を全て倒す。

 すかさずミーリアが魔石を全て回収する。


 ここまできたらそれほど急ぐこともないんだが、まあいいか。


(……いや、次の魔物が出てきて、また魔石を落とせばまた魔石を拾い始めて無限ループになる?)


 ミーリアの作業が全て終わったことを確認してから魔物が出てくる前に俺たちはその場所から撤退した。


 この後どうなったかは、まあ、ほとぼりが冷めた頃に観にくればいいか。

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