第60話 私の選択

 私は、お兄様と話していた。

 お兄様は、カルニラ様と同士討ちして、このクーテイン家を去ろうとしている。

 だが、それでは困るのだ。私は、二人の姉の相手に労力を消費したい訳ではない。簡単な方法があるなら、それに頼った方がいいと思っている。

 だから、私はお兄様にある提案をする。その提案に、お兄様がどういう顔をするのかは、少し楽しみかもしれない。


「お兄様、私と婚約を結んでください」

「何?」


 私の言葉に、お兄様は目を丸めて驚いていた。

 彼のこのような顔は、非常に珍しい。想像通り、面白い顔を見せてくれた。この提案が、信じられないのだろう。

 だが、この提案については大真面目だ。これが、私の選択なのである。


「何を言っているのだ? お前は?」

「言っておきますが、私は大真面目です。私とお兄様は、血が繋がっていません。ならば、婚約を結ぶことは可能ですよね?」

「それは、そうだが……」

「そうすれば、お兄様はクーテイン家の人間でいられます。私の夫として、ここに留まることができるのです。そうすれば、二人の姉に対抗できる強い力を私は得ることができるのです。どちらにとっても、利益はあると思いませんか?」


 私がこの提案をしたのは、それが一番いい方法だと思ったからだ。

 お兄様は、強力な人である。この人がいれば、二人の姉は動けなくなるだろう。

 お兄様にも、利益はある。このクーテイン家の人間でいられることは、お兄様も面倒な再起を計らなくてよくなるからだ。

 何より、私はお兄様をこのまま追放することが納得できなかった。彼は、私の母の復讐を果たそうとしているのだ。私が、彼に手を差し伸べる理由は充分にある。


「お前は、それでいいのか?」

「いいから、この提案をしているのです」

「……それも、そうか」


 お兄様は、私の提案に驚いていた。

 しかし、だんだんと彼も冷静になってきているだろう。冷静なれば、私の提案を受け入れない理由がないと理解してくれるはずだ。


「お前がこれから歩むのは、修羅の道からも知れんぞ?」

「構いません。私は強くなりました」

「……良かろう。お前の提案に乗らせてもらう」

「ええ、これから、よろしくお願いします」


 私が差し出した手を、お兄様は力強く握ってくれた。

 こうして、私はお兄様と婚約することになった。これから、私達は茨の道を歩むのかもしれない。

 だが、それも乗り越えてみせる。強くなった私は、誰にも負けないのだ。

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妾の子と蔑まれていた公爵令嬢は、聖女の才能を持つ存在でした。今更態度を改められても、許すことはできません。 木山楽斗 @N420

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