あまりにも甘く理想的だからこそ逆に胸に刺さる最期
- ★★★ Excellent!!!
生ける生首と化す奇病に冒された男が、幼なじみの男に引き取られ、一寒月の余命を使って最後の旅に出るお話。
現代ものの、すこし不思議な掌編です。
作中に登場する「エッグマン病」の設定、体が縮んで頭部だけになる架空の奇病が白眉。個人的には、それを冒頭だけで一気にわからせてくれる描きっぷりが大好きです。
明らかにこの世に存在しない、どう見ても異様な光景を、でも当然のことのように淡々と説明する、という、その振る舞い(書かれ方)そのものが伝えてくれる、この物語の世界観。
書かれている言葉の意味ではなく、書き方でものごとを伝えてくれる文章は、もう単純に読んでいて心地よいからたまりません。
このインパクト抜群の設定から、さぞかしぶっ飛んだお話なのかと思えば、さにあらず。
とても実直で素敵な物語でした。あまり具体的に触れるとネタバレになりそうなんですが、とても胸を打ついい話。ほっとするというか、じんわりきます。
結末、というか主人公の行く末というか、描かれていることは間違いなく「死」そのものなのですが、このあまりにも理想的な穏やかさが好き。好きっていうかもうだいぶずるいです。
絵空事だとわかっていながらも、自分もこんなふうに死ねたら、とつい願ってしまう。
逆説的に浮かび上がる現実に、胸の痛みを感じさせてくれる佳作でした。