第510話 一時の休息
『前代未聞の魚人モンスターによる地上侵略の被害は、冒険者たちの力によって最小限に抑えられました。なお、最も多く魚人を葬ったとされる影の狼に関する情報は未だに集まらず、誰かの使役するモンスターなのか、はたまた何かのスキルなのか、何も分かっておりません』
家に戻って休息をとった俺たちは、屋内のプールサイドのリクライニングチェアに座ってニュースを見ていた。
ひとまず世界中の魚人を撃退して地上はどうにか落ちついた。魚人達の侵攻が納まったので、今は海辺に監視を置いて警戒している所だ。
ここで魚人達が引くのか、もう一度仕掛けてくるのかはまだ分からない。でも、奴らの戦力は相当削ったはずだ。
仕掛けてくるのならどこかに絞って戦力を集めてくると思う。俺たちは世界中に社員が散らばっている上に、ラックの転移網兼監視網があるので先頭の予兆に関してはすぐに分かるし、駆けつけることができる。
逆に引かれるとやりづらい。海の中だとどうしても移動や戦闘が制限されるからな。また何十年か潜伏すれば力を取り戻してしまう可能性が高い。そうなったとき、まだ俺たちが生きているとは限らない。できれば今根こそぎ処理したいところだ。
そして、七海の魔法のおかげで俺たちの正体はバレていない。七海の大出力の電磁波によって一瞬で電子機器がダメになるからだ。
そのおかげで日々の生活に支障はない。報道陣が血眼になって情報を集めているらしいが、ラックの影転移によって神出鬼没な俺たちを見つけられる者はいなかった。
ラック様様だ。
しかし、ラックもやらかしている。
「概ね、ラックから聞いた通りだったな。アメリカ以外」
「そうだね、アメリカ以外」
「クゥーン……」
俺と七海はラックの方を向く。ラックは両手で顔を隠して悲し気な声をあげた。
全体的に被害は軽微で済むはずだったが、アメリカの一部の地域の被害が大きかった。ラックに任せたはずなのになんでこんなことをしたのか聞いたら、滞在した州で嫌がらせされた腹いせだったという。
感情としては分からなくもないけど、被害が出ている以上看過することはできない。
「いいか? 次からちゃんとするんだぞ?」
「ウォンッ」
反省すればいいってもんでもないけど、やってしまった以上これからさせないようにする以外にない。
ラックに説教した後、俺はリクライニングチェアに寝そべって全体を俯瞰する。
俺たちは今、スパ・エモーショナルに来ている。信頼できる人たちを呼んで貸し切りにしていた。無理を言って協力してもらったので、そのお礼も兼ねてラックの影転移で招待させてもらった。
「おい、天音露出多すぎるだろ!! もっと隠せ!! クソ忌まわしいハエ共がお前をいやらしい目線で見てるぞ!!」
「うるさいわね、おじさんはちょっと黙ってて!!」
探索者協会の新藤さんが姪っ子の天音に対してダメ出しをしている。
新藤さんの気持ちも分からなくはない。だって、天音がビキニを着て惜しげもなくその肢体を晒しているからだ。
彼女は世界を駆け巡る両親の娘だけあって容姿に優れていてプロポーションが抜群だ。
その零れ落ちそうな二つのメロンは男の視線を引き付けてやまない。実際、俺の会社の社員たちもチラチラ見ていたり、ガン見していたりする。
俺も目を奪われそうになるけど、シアに目を塞がれてしまった。
「いやぁ、ここは極楽じゃなぁ、王はワシらを素晴らしいところにつれてきてくれた」
「本当だな、長」
エルフの長とサリオンがプールの横でマッサージを受けて顔を緩ませている。ここのマッサージはまさに極楽。天国にでも登ってしまいそうな心地よさだからな。
しっかりと体を休めてほしい。
他のエルフたちはプールで泳いだり、エステを受けたりしている。
「兄貴はやっぱ、っべぇな。世界中で人気のスパエモを貸しきりにするなんてよ」
「ジャック、めっちゃ分かるわ」
アメリカで世話になったジョージとジャックは俺と同じようにリクライニングチェアに座って、シャンパンを飲んでいる。
俺に対して熱い視線を送ってきている気がするけど、無視しておこう。
「うちの子ったらね」
「あら、そうなの。すぐに孫の顔が見れるかしら?」
母さんたちは休憩がてら屋内のレストランで食事をとりながらシアのお母さんと話をして盛り上がっているらしい。
今日は、主に俺たちの家族や親せき、エルフ達、アグネス、会社の社員たちだ。皆、各々思い思いに楽しんでいるようで何よりだ。
「今日はお越しいただき誠にありがとうございます。何か不足な点はございませんか?」
「いえ、大丈夫です」
スパエモの従業員たちも協力的で俺たちは素晴らしいサービスを受けていた。やっぱり体をしっかり休めるならスパエモに限る。
「お兄ちゃん、何か食べようよ」
「お腹空いた」
「そうだな」
今日は、難しい話はおいておいてゆっくりと体を休めることが先決だ。
俺たちは美味しい食事に、最高のおもてなし、そして多少刺激のある遊びに興じ、次の戦いの供えて英気を養った。
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高校デビューに失敗した無能探索者は人間を極める~レベルもスキルも能力値もない俺に何故か美少女が次々と近づいてくる件~ ミポリオン @miporion
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