第十七回 凍華

 冬の寒さがますます厳しくなり、都の辻々には雪混じりの寒風が吹き荒ぶ頃。

 宝燈はその中を押して北里の蝶花楼を訪れ、半ば馴染みとなった玄機と時を過ごしておりました。

「王様、寒くはありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

「それにしても、随分と浮かないお顔をなさっておいでですが…何か、嫌なことでもございましたか?」

「いいや、決してそんなことはないさ。家中は平穏で、暮らし向きも安定しているよ」

「でしたら、きっと宮仕のことでしょう?最近王様は、宮中のことは殆どお話になりませんもの」

「…分かってしまうかな、やはり」

 玄機の察しの良いのに、宝燈は思わず苦笑いしました。

「何もかも見透かされてしまうのだなあ」

「まだ十四の王様がそれを仰いますか?」

「そうだ、そうだったな。寡人はまだその程度の年に過ぎんのだ…」

「…時に王様。いつになったら、義弟殿をお連れ下さるのですか?いつもいつも、楽しげにお話しなさっておいでなのに」

「おや、そんなことを言ったかな寡人は」

「いいえ、仰いましたよ。必ず連れてくる、って」

「忘れてしまったよ、そんなことはな」

「まあ」

 こういうところは相変わらず可愛らしい、とでも言いたげな笑い声でした。


 翌朝。夜を徹して降り積もった雪が止み、雲一つない晴れやかな空が広がる中を、二頭立ての馬車が車輪を転がしていきます。

「賢弟」

「はい、殿下」

 御者台に座って馬を操っているのは韋黯です。彼は時折、道に溜まった雪が眩しいのか目を瞬かせていました。

「昨夜は雪が酷かったが、ここまで車を用意してくれたのか」

「まあ、苦労はしましたが。日の出の頃には雪が止みましたので、今のうちにと馬を繋いでここまで参りました」

「……ありがとう」

「…殿下」

「ん?」

「随分と大人らしくなられましたね、この一年で」

「そうかも知れない。どうもこの一年、人生で最も濃い年月であった気がするよ」

「…どうか、お辛いことがあれば何でも仰って下さい。私は、これでも私は、殿下の一番の臣下のつもりですから」

「嬉しいぞ賢弟。確かにそうだ、お前は寡人の一番の臣下だ。これからも頼りにしているぞ」

「はい」

 邸に帰り着くと、王尚父以下、臣下の重鎮たちが皆寄り集まって宝燈を迎えました。

「おかえりなさいませ殿下」 

「どうかしたのか、皆顔を揃えて」

「実は、宮中からお手紙を頂いております」

「何か凶事か。有り体に申せ」

「ご自身でご覧になられませ」

 差し出された手紙の封を開けてみると、そこには少々幼さがありますが、宮中流の見事な手跡で文字が記されています。

「このお手は…公主様か?」

「一体何と?」

「今から二週間の後、華清宮で雪見の宴を催したいとある。天子様ご臨席の下、大いに絢爛豪華なものを行うそうだ」

「お出になるのですか?」

「…出来ることならば辞退したいな。どうもこの寒さは苦手で、体調が優れない」

 とはいえ、そう簡単に辞退できるものでないことは彼自身がよく知るところです。何しろ、金珠公主は殊の外彼を気に入って絶えず側に置きたがっていましたし、その父上であらせられる天子もまた、同じく彼を高く買っていたからです。

「昨今は宮中への出仕を減らしていた。あまり不義理を重ねては良くない」

「殿下、ご無理だけはなさってはいけませんよ」

「無論だ賢弟。だがそれよりも、寡人はお前の方が心配だ。いい加減に科挙に通らなければな」

「ちょっと!?」

「ははは、冗談だよ」


 それから数日後。結局宝燈は韋黯達を引き連れて華清宮での宴に参列することになりました。雪の中、寒さで身体を損ねてはいけないので、壁の厚い車を仕立て、中に綿の入った布団を用意して向かいます。

「賢弟、大丈夫か。寒くなったら一緒に乗ってもいいぞ」

「構いません殿下。大丈夫ですよ」

 一方韋黯はといえば、びゅうびゅうと吹雪く中を馬に乗り、車のすぐ横を歩きます。しかしその様子は明らかに辛そうで、時折ガチガチと歯を噛み合わせる音が聞こえてきました。

「賢弟、無理をしてはいけない」

「大丈夫です、ご心配なく!」

 その様な調子で華清宮に着くと、宝燈は急いで彼に駆け寄り、冷え切った体を温める為に焼き石や湯たんぽを用意させます。また、無理を言ってすぐに天子の御前に参上すると、挨拶もそこそこに申し上げました。

「本日の宴に参りますにあたり、多くの者達は雪の吹雪く中を、貴人の車を守る務めを果たしました。彼らは今骨の髄まで冷え切ってしまい、このままでは命にも関わるやもしれませぬ。どうか、彼らに今すぐ温かい温泉での浴を賜ります様に」

 この申し出を受けた天子は大変に驚かれましたが、その一方で自身や他の客が暖かい車の中で過ごす間、侍衛達が寒さで震えながら警護してくれたことに思いを致し、確かに彼らはよく働いてくれたと得心なさったのです。そして、直ぐに御側付きの宦官をお呼びになって、忝くも貴人用の物も含めてあらゆる温泉を開放し、兵士達に浴を賜う旨詔なさったのでした。ひとまずこの話はこれまで。

 さて、天子は全ての招待者が着いたのをお聞きになると、広い大朝堂に皆をお集めになり、雪の降り積もる庭園を臨んで酒宴を始めます。

「本日は楊貴妃様の演舞を我々も拝見できるそうだが」

「そうだ。それを楽しみに来たのだ我等は」

「如何かな、江夏王殿」

「ええ、そうですね。私は楊貴妃様のお姿をあまり見たことが無いので、とても楽しみにしています」

 見たことが無いどころか、その体を余すところなく見たことがあるのですが、それを赤裸々に語る訳にもいきません。ひとまずは黙って前に出された羹を啜って体を温めつつ、貴妃殿下のお出ましを待ちます。

「宝燈、宝燈!」

「…あなたは、公主様!」

「来てくれたのね!とっても嬉しいわ!」

 すると、直ぐ側に金珠公主がひょっこりと姿を現していました。彼女は宝燈の膝の上に乗ると、懐からお菓子を取り出してもぐもぐと食べ始めます。

「最近はあまり宮廷に出てきてくれなかったわね」

「申し訳ありません。少し仕事が忙しく」

「領地のこと?お前は働き者なのね」

「何かあったのですか?」

 公主の言葉はやけに含んだ言い回しで、そのことが彼の不安を掻き立てました。

「…最近お父様は朝廷においでにならないの。あの新しい貴妃めに夢中になっているから。お母様もお嘆きなのよ…天子ならば仕方ないとはいえ、いくらなんでも可哀想に思うわ」

 十歳かそこらの幼い姫君さえ、宮廷の堕落や腐敗を感じ始めている、そうわかって彼の顔はさらに沈痛になります。今ここで自分が食べている素晴らしい料理、温かい酒、それは何もかも民衆の働きの上にあるのです。民衆の働きに対して、君主はその恩徳と平穏な政で報いるべきなのに、自分達は何をしているのだろう…。

「どうかしたの?宝燈」

「…いいえ、なんでもありません」

「一の兄様の様に、そんな顔をしないで。まだ若いのに」

「殿下、わたくしはそんな酷い顔をしていましたか?」

「うん。酷い顔よ。まるで二十歳は歳をとったみたい」

「ははは…」

 作り笑いを浮かべてはみても、陰鬱な心の霧が晴れることは無く、気分は悪くなる一方です。いい加減ここから退出して、都に帰りたいと宝燈が思い始めた頃、

「おお、そうかそうか。皆の者喜べ、貴妃の支度ができたぞ!」

「おお!!」

「ご覧になられますか公主様」

「あまり見たくない。しばらくお前の膝の上で休ませてもらうわ」

「貴妃様のおなーりー」

 ジャーン、と言う銅鑼の響きに合わせて楽団が鐘の音を奏で、天子の最愛の寵姫を宴の場に迎え入れました。

「なんと…!」

「なんと美しい!」

 この時楊貴妃は、外に雪が舞うほどの寒さにもかかわらず、肌が透けて見える様な薄絹を何枚も纏い、雪に溶けてしまいそうなほど真っ白な細腕と足を外に晒し、髪には恩賜の鴛鴦の櫛を差していました。

 浮かべる笑みは男の魂を蕩かせる程の媚態を示し、腕や指の仕草一つ一つが視線を集めて離しません。ところが、それでいて下品な様子は全く無く、触れれば砕けてしまいそうな、氷の牡丹のように繊細で華やかです。

「…すごい」

 天上から降りてきた仙人のような艶姿には、流石の宝燈もぽーっと見惚れてしまい、視線を外すことができません。

「ね、ねえ宝燈!取り込まれてはダメよ!」

「はっ!」

 思わず夢心地になりかけた彼は、公主の必死の呼びかけで我を取り戻しました。それ程までに貴妃の姿は美しく、見る人の心を掴んでいたのです。公主はまだ子供であるからこそ、色香にかからずに済んだのですが、年嵩の者たちはそうはいきません。天子以下、全ての皇族達は釘付けになり、食い入る様に見つめています。そして、曲が盛り上がるにつれて、演舞はますます激しくなり、貴妃の躍動は高まっていきました。

 そして、最後にふわり、と浮かぶ様に踊りを収め天子に頭を下げると、万雷の拍手が辺りに響き渡りました。

 しかし、美姫に目を奪われっぱなしの男達や、自分の父帝に公主は酷く不満げで、ジタバタと膝の上で暴れた末に、ついに大声でこう叫んでしまいます。

「むうう、なによなによあんな舞!宝燈の方がもっと美しく舞えるのに!」

「公主様!?」

「そうよね宝燈、アイツよりお前の方がもっと良い舞が出来るはずよね?」

「ほう」

 声を聞いて興味深げにこちらを見たのは、あろうことか天子その人でした。龍顔は面白いことを聞いた、と言いたげな笑顔を浮かべており、明らかに公主の言葉を聞き流すつもりは無いようです。

「江夏王」

「は、はい」

「詔である、そちも一差し舞ってみるが良い」

「は!?」

 これはまずいぞ、と宝燈は唇を噛みました。舞の最中ならいざ知らず、これから貴妃は天子のお側に侍って宴席を共にするはず、となればそこで自分が舞など披露すれば、かつて遭遇したあの娘だと露見することは避けられません。

 そうなればもはや一巻の終わりです。しかし、詔を断ればそれもまたただでは済まない、正しく絶体絶命の危機でした。

「で、ではせめて、舞う曲を選んでも宜しいですか?」

「許す。好きな曲を申せ、必要ならば装束を持たせよう」

 切り抜ける為の唯一の可能性、彼はそれに賭けました。

「では、『蘭陵王』を舞いまする。龍頭の面をお貸しくださいます様に」

 『蘭陵王』とは、かつて優れた智勇に、類い稀な美貌を備えた将軍として活躍した北斉の皇族、蘭陵王高長恭の逸話に由来する舞楽の一つです。荘重な笛太鼓の音に合わせ、演者が一人で舞を披露するのですが、その最大の特徴は演者が身につけるおどろおどろしい龍の仮面です。これは、美貌で知られた王が、自らの顔によって敵に侮られたり、味方の士気が下がる事の無い様にと付けていたものとされ、今ではこの曲の象徴として世に知られていました。

 宝燈がこの曲を選んだのは、男の演者は仮面をつけねばならぬ、という決まりごとを利用して貴妃から自らの顔を隠す為であり、そのあと疲れたと理由をつけて御前を退出しようと目論んでいたのでした。

 仮面を受け取ると、彼は貴妃に見えない様に仮面をつけて中央に立ち、曲が始まるとゆったりと舞い始めました。最初はそろりそろりと踏みしめる様に、段々と調子を上げて走り舞へと入ります。その様は、貴妃の様な繊細で優美華麗な様ではなく、質実さを前面に押し出した男らしいもので、武人の一門を開祖とする李朝の気風をよく表していました。

「ほう」

「若いのにやる!」

 皇族達は仮面の下の美顔を知っていますから、これこそまことに蘭陵王の生写しならん、と感嘆の声を上げます。

「まあ、陛下、あのお方とてもお美しいですわ」

「そうだろう貴妃よ。江夏王は男の身なれど、彼よりも美しい貴公子はこの国にはおるまいぞ」

「すごい、すごいわ宝燈!」

 他方踊っている方はといえば、上手く舞い収めた後如何にしてこの場を立ち去るかということに神経を集中させています。それでも足捌きや体捌きをしくじらない辺り、舞楽にも彼は天賦の才を持っている様でした。

 そして、最後の最も盛り上がる山場も越え、広がった舞を見事に畳んで、天子と貴妃に頭を下げると、先程に勝るとも劣らない拍手が彼に降り注ぎました。

「見事じゃ江夏王!まさに陵王の生写しであったぞ!」

 天子は殊の外お喜びになり、宝燈に対して褒美を授ける様に側の者達に命じました。すると、彼は先ほどから考えていた通りに、舞い疲れてしまったので、少しの間控えの間で暇を賜る様乞いました。

「酒と舞いとで、少々疲れてしまった様でございます。一旦御前を失礼して、控えの間にて休息することをお許し願いたく」

「おう、そうか。誰か、江夏王を控えの間に連れてゆけ。温めた薬湯を飲ませて休息を取らせよ」

 天子は彼の腹の中の存念は露程もご存じありませんから、すぐに休息をとるようにと許しを下して御前から下がらせます。

「江夏王殿、見事にござったぞ!」

 去っていく宝燈の後ろから、列席者達の賞賛の声がかかりました。なんとかうまくいった、その安堵感と共に彼は広間を後にし、何とか控えの間に辿り着くと、今度は演技でない疲労の為に、深い眠りへと落ちてしまったのでした。


 「…燈、起きなさい、宝燈」

「…お母様」

 控えの間に下がって少し後のことです。いつの間にか疲れのあまり眠り込んでしまった宝燈は、ぼんやりと霞がかった意識の中で、懐かしい声を聴きました。

 自分を呼ぶ声は温かく、どこか聞き覚えがある声です。彼は無意識のうちに応じました。

「…お母様、後もう少しだけ…」

「だめよ、宝燈。早く起きなさい、あなたには仕事があるでしょう…」

「そんな、おかあ、さ、ま…」

 はて、自分に母などいなかった筈だが…自身の口にする言葉の違和感に気が付き、目を開けてみると、なんと目の前で声をかけていたのは、他ならぬ楊貴妃だったのです!

「き、貴妃様!?」

「そのままで構いませんよ」

「あ、あのの、これはご無礼仕りました」

「いいえ、お気になさらないで。私はあなたの叔母ですもの、そう固くならずに。それとも…」

「は、はい」

「浴場の時のように、また逃げ出してしまわれるのですか?」

 宝燈の体が凍りつきました。遂に露見した、よりにもよって天子に最も近いお方に。

「な、なんのことで…」

「私が見間違えるはずはありません。何しろ、あの後陛下にお願いして、全ての女官の中を探したけれど、貴方のように美しい者はいなかったわ」

「さ、左様で…」

「それで悲しく思っていたのだけれど、舞の途中でちらちらとこちらを見るあなたの顔を見た時、思わず雷に打たれたような気分になりました」

「う…そ、それは…」

「よもや、功臣第二位の末裔、宗室筆頭の江夏王が、あんなに綺麗な…」

「き、貴妃様!ど、どうかその先は…」

 宝燈は必死でした。露見したからには、きっと自分の生命はもはや無いものと覚悟はしています。しかし、例え自分が死ぬことになったとしても、王家の名誉と存続はなんとかしても守らねばなりません。

 となれば、他の人々にまで噂が波及することだけはなんとしてでも避けたかったのです。

「け、決して主上や貴妃様を欺き奉る積りではなく、ただ父の代からの因縁と申しますかなんといいますか…」

「あなた、何か勘違いをされている様ですけれど、妾は別にあなたを告発するつもりなどありませんわ」

「…は、はい?」

「だって、あなたのお母君は妾の叔母、つまりあなたは妾の従妹にあたります。親族をそう簡単に売る者があってたまるものですか。それに…」

「き、貴妃様?」

「こんなにも可愛らしい人ですもの。その顔が見られなくなるのは心苦しいわ」

 楊貴妃は、男を骨抜きにするあの魔性の笑みを浮かべて宝燈を一瞥すると、少し休んだらまた戻ってくる様に言い残して、部屋を出て行ってしまいました。

「助かった…のか?」


 さて、日も暮れ方に差し掛かって辺りが暗くなり始めると、いよいよ宴もたけなわに差しかかりますが、この事を一々くどくどと語る必要はないでしょう。

 何しろそれは天朝の栄耀栄華を世に知らしめると共に、いかに天子が楊貴妃お一人を寵愛しているかを如実に表しているもので、宮廷の事情に疎い者でもすっかり今の春は誰にあるかが分かってしまいます。

 敢えて詳しく申し述べるならば、かの李乾坤の何と哀れなことでしょうか。彼は相変わらず天子の信任厚く、左丞相として威勢を振るっていましたが、昨今は楊国忠他楊家の勢力に押され気味で、人々から敬意こそ払われてはいるものの、段々と影が薄くなっていたのです。

 彼は宴の場でこれまでと同じ様に天子の御側に侍り、あれこれと世話を焼いていましたが、楊貴妃の華やかさに比べれば鄙びた老人としか見られず、その滑稽さを密かに笑われるのみで、世の中永遠の栄華を得る者など在らぬ無常の世であるという、御仏の有難い教えもさもありなんという有様でした。

 宝燈はといえば、ますます絢爛になる宴の様子にまた気分が鬱々となるところを、貴妃様の機嫌を損ねるわけにもいかないので明るく振る舞い、余興として幾つかの古い詩賦を朗々と美しい声で歌い上げて見せます。一方楊貴妃もそれに応えて再び舞を披露して場を盛り上げ、再び万雷の拍手を受けました。

 この様な調子で宴は見事大成功に終わったので、天子は至極満足の体で彼を御前に呼び、宮中の蔵から五色の緞子や綺羅あやぎぬなどの褒美を江夏王府に下す旨詔され、そのまま貴妃を連れて奥の殿舎へと入ってしまわれました。

 疲れ果てた宝燈はフラフラと歩いてようやく自分の部屋に着くと、そこで大人しく待っていた韋黯の前で寝台に倒れ込んでしまいます。

「賢弟…とても、とても疲れた」

「お、お疲れ様でございます殿下」

「このまま寝てしまいたい。取り敢えず服を着替えるから、馮内侍を呼んでくれんか」

「はい、分かりました…あ、それと」

「ん?」

「温泉、とても気持ちよかったです。殿下が上奏してくださったのですよね」

「気にするな。あの程度のこと…」

「…ありがとうございます、本当に」

「ん……」

 そのまま宝燈は目を瞑り、温かな眠りの中に落ちてしまいました。その後も結局宴の最中に楊貴妃が秘密を漏らしたり、誰かに悟られることもなく、彼は上手くやり過ごして屋敷に戻ることができました。が、このまま平穏に年が過ぎるかと言えばそうではありません。この後、最も大きな事件が江夏王府を襲うのですが、それはまた次回にて。

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紅顔翁記 津田薪太郎 @str0717

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