雨上がりの声
井上 幸
雨上がりの声
君と会わなくなってから、どれくらいの時が
思えばいつも君は
「すみません、開いてますか?」
「いらっしゃいませ。開いてますよ。お好きな席へどうぞ」
ここは小さな
彼女は雨の
「良かった。急に降られちゃって」
「
「えぇ。わ、あったかい。ありがとう」
ほわりと
メニューをめくる指が止まる。
「んー、この
「かしこまりました。少々お待ちください」
「はーい」
こぽこぽ可愛い音を立てながら雫は色を
紅茶のようなとろんととろける赤茶色。
「お待たせしました。珈琲とプリンです」
「素敵な色ね。いただきます」
それから彼女は雨が止むまで少しの時間、羽を休めて帰っていった。
また別の雨の日に、彼女はふらりとやってくる。
雨が降ると寄りたくなっちゃって、と明るく笑う彼女の存在は、僕の中で日に日に大きく強くなっていくようだ。
回数を重ねるたびに
彼女に大丈夫って言われると、本当にそう思えてくるから不思議なものだ。
あるとき初めて、彼女が落ち込む姿を見た。
いつも彼女がそうしてくれるように、きっと大丈夫だと
ありがとう。弱く微笑む彼女とは、それきり会えていないけど。
雨上がり、僕は店先を掃除する。雨で流れた葉っぱやら、風で飛ばされた缶くずやら。ため息交じりで下を向き、彼女のことを思い出す。
そんな時、
僕は驚き振り向くけれど、そこには誰もいなかった。
彼女の声が、聴こえた気がした。
***************
雨上がり。
湿った匂いを吸い込むと、頭にぽつんと
『気にしないの。大丈夫!』
いつもそう言う君の声。
聴こえた気がして振り向くけれど、僕はやっぱり一人きり。
「ありがとね」
ただ
隣に居ない君を想う。
雨上がりの声 井上 幸 @m-inoue
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