雑踏

夏伐

 朝起きて、いつも通りに家を出た。

 会社に行くためにスーツを着て、周りから見て私はちゃんとしたOLに見えているだろうか。心配になり時折鏡を見る。


 家を出てふと気づいた。

 音がない。

 田舎にしたって静かすぎる。


 少し怖くなる。


 でも、周りに人がいるし他はいつもと変わらない。異様に静かなだけで、音も聞こえているんだから問題ない。

 駅に着くと、とたんにザワザワとしたたくさんの人の雑踏が聞こえ始めた。

 私はほっとした。

 しかし先ほどまで異様に静かだったせいか、周りの音がうるさくて目眩がする。


 駅のホームが一番うるさかった。


 頭が揺られているような気分になり、そして一瞬気が遠くなる。


「何してるんですか!!」


 声にハッと気づくと、快速の電車が私から一歩先で走り抜けていくところだった。

 駅員に腕を引かれてホームに座り込む。


「え……? あ、すみません。目眩がして」


「気を付けてくださいよ」


「すみません」


 周りの雑踏が消えていた。


 そういえば、ここはいつも私とあと数人しか顔を合わせないくらいの小さな駅だった事を思い出した。

 以来、都会の雑踏は苦手だ。目眩が近づいてくるのだ。

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雑踏 夏伐 @brs83875an

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