これは小説の全て

文体、表現、物語、小説の面白いところが全て盛り込まれた凄い作品です!

目を覚ましたらサメになっていた!しかもぬいぐるみの!というところから興味を持って読んでみるともう止まりません。

サメの正体は何なんだ?一体どうしてサメのぬいぐるみになってしまったんだ!と思いながら読み進めていくと、次々に登場する印象的な登場人物たちによってどんどん引き込まれて行きます。特に、登場人物の描写は心理面が重視されており、そうして描き出されていく「顔」は小説という作品の面白さそのものです。

ボーイミーツガールあらためボーイミーツサメの体裁を取りながら進められていく物語は、思いもよらない方向へと向かっていくことになります。夏を舞台に繰り広げられながらも、夏なのに酷く凍えるようであったり、冬の場面なのに信じられないくらい温かみがあったり、この作品は対比がとてつもなく映えています。

また、少しずつ秘密や過去が明かされていく構成がうますぎて、一話があっという間に過ぎ去っていき、続きを、続きを、、、という状態になること間違いなしです。それから、ただ少年少女の交わりが描かれる青春群青劇にとどまらず、様々な要素が混ざり合っている部分も見逃せないところです。それでいて設定に胃もたれしない塩梅が取られているのでこれはもう最強です。

回を重ねるごとに面白くなっていく本作ですが、ある時を境に『そして、サメは目を覚ました』という題名の意味と、果たして主人公は誰なのか、一体どこまで計算をして物語を組んできていたのかと拍手をしたくなりました。伏線と言うと、あっと驚くようなどんでん返しやまさかと口にしたくなるような予想外の展開を思い浮かべますが、この作品における人間関係の重なり合いは、そういった意味のものとは違う、小説が持っている古典的な伏線に違いありません。薄い色付きのフィルムを次々重ねていき、最後に星空を眺めるかのような美しさがあります。

しかしこの作品、ただ美しいという言葉で済ませることはできません。むしろ内容は良い意味で劇物のような感じで、読み終わったらすぐに感想を書こうと思っていましたが、しばらく何も手につきませんでした。というか、逆にもう何も書かず一言「面白かった」としなければ無粋なのではないのかと思ったほどです。

作品のあらすじにもあるように、『そして、サメは目を覚ました』は嘘と罪の物語です。そして一種の侵略でさえありました。しばらく何も書けそうにありません。小説を読むのが好きな人にとっては衝撃の一作に、そして小説を書く人にとっては震動の一作になること間違いなしです。決して善とも悪とも言い切れない純粋な嘘の物語、読むたび頭を抱えるというのに、読み進める手を止めることができないこの作品を、劇物と呼ばすなんと呼ぶでしょう。

描写、設定、構成、小説の全てが詰まったこの作品、ぜひ読んでみてください。
本当に面白かったです。ありがとうございました。

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