砂糖が傷口に染みる

あらすじにもある通り、掌編群となっています。すでに三年前の作品となっていますが、現在の作風に通じる部分やその萌芽をところどころに見ることができます。その意味で、甲池さんの作品の入り口のような作品群といった印象を受けました。

掌編群なので、次々と場面が入れ替わっていくのですが、そのどこかに見覚えのある風景や感情と出会うことになりました。短いからこそ、かき集めるような解釈の幅があって楽しかったです。また、感情が走りっぱなしというか、登場人物のわだかまりなどが一つの転機を迎えることなくお話が終わったりする点が、映写機によって次々と放映されていく短い記憶の束という感じを際立たせていて、まさに序章でありエンドロールというコピーを回収しているように思いました。

中には本当に千文字程度の作品もあって、それでいて読み終わった時には長い長い小説を読み終わった後のような余韻があるのは、それだけ文章の純度が濃くて、想像を掻き立てるのがうまいからなのだと思います。特に8話である『ゆめ』の中に描かれている表現は美しいったらありません。また作品群の終わりである10話の終わり方も、短篇集と物語の面白さを併せ持った良いものだと思いました。
面白かったです。ありがとうございました。