読書好きの奏くん
「……さっきの……」
「また会いましたね」
「友達は?」
「しばらく別行動して十八時にここで待ち合わせてるんだけど。時間になっても来なくて」
「そうなんですね」
「暗いから駅まで送りますよ。あいつにはメールしとくんで」
「え? いやいや、大丈夫ですよ!」
「いや、俺のお尻でバッグを踏んだりしちゃったし」
男の子はサッとスマホを見ると舞のところまで階段を上ってきた。
「帰り道、光るマンホールがあるんですよ。知ってました?」
「いえ……」
二人は並んで歩き始めた。
「俺、高二なんですけど。いくつですか? 年近いかなと思って」
「私は高一です」
「あ、やっぱり年近いね。俺は
「……舞です」
「舞さん。どこから来たの? 俺は県内に住んでて、ここまでは電車ですぐなんだ」
(……これナンパなの?)
「都内ですけど」
舞は適当なことを返事した。実は舞の家もここから近い。
「都内? じゃあ、帰り遅くなっちゃうじゃん。大丈夫?」
「大丈夫です。」
舞はキッパリと答えた。そのうち、光るマンホールが見えてきた。男の子は楽しそうに見ている。
「おぉ〜! 何度見てもすごい!」
「本当ですね。透かし絵みたいで綺麗!」
舞もテンションが上がった。
駅につくと、男の子は『友達のところまで戻るから。気をつけて帰ってね』と手を振りミュージアムの方に戻って行った。
(本当に送ってくれたんだ)
舞は男の子の笑顔を思い出すとキュンとなった。
(奏……名前……奏くんて言ってたよね)
舞は電車に乗って帰宅した。
休み明けの月曜日、電車に揺られて舞は学校に向かっていた。通学中、舞はいつもスマホの電子書籍に夢中で、つり革に捕まりながら読書を楽しんでいた。
キキーッ
電車が揺れて、舞は隣に立つ人に思い切りぶつかりそうになった。
「わぁっ! すみません……!」
反射的に謝って隣を見るとそこには奏君がいた。
「え……えぇ……っ!」
「あれ? 舞さん?」
よく見れば奏くんは舞と同じ高校の制服を着ている。
「あれ? 同じ高校なの? 都内から通ってるの?」
舞は赤面した。
「ご……ごめんなさい。あの時ナンパかと警戒して……本当は近所に住んでるんです」
「ははっ。そりゃナンパかと思われるよね。それで正解だよ」
奏くんは笑顔であははっと笑った。
「何読んでるの?」
「えーと……電子書籍なんですけど」
「本当に本が好きなんだね。俺も電子書籍読んでたんだ」
「ふふ。一緒ですね」
「この前読んでた本が途中だったら今度一緒に行こうよ」
「え?」
「角川武蔵野ミュージアムに」
奏くんのはにかむ笑顔が舞の瞳にはキラキラと輝いて映った。
了
読書好きの奏くん 華 @kyousha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます