読書好きの奏くん

読書好きの舞

 東所沢駅の改札を抜けるとまいはウキウキとある場所に向かって歩き出した。

 歩道にあるマンホールには有名なラノベ作品の絵が描かれていて舞は思わず写真撮影した。公園や住宅街のあるのどかな場所を通り抜けると、角川武蔵野ミュージアムは突如として現れた。


 まるで巨大なコンクリートのゲンコツみたい。舞はそんなことを思いながら階段を上りミュージアムの列に並んだ。


 今日の目的はラノベと漫画の読み放題が出来る図書館だ。ミュージアムのオープン前に並んで入館したので舞は一番乗りで図書館の椅子に座ることができた。どれを読もうかと悩んだ末に一冊の本を手に取り二人掛けの椅子に座ると舞は本の世界に没頭して行った。


――ドスン!


 ハッとして顔をあげると、隣に見知らぬ男の子が座っている。恐らく舞と同じ年くらいだろう。肩が少し触れるくらい近い距離。しかも、舞のバッグをお尻で踏んでいる。


(えー。お尻で踏んでますけど……)


 周りを見回すと、館内は混雑していて椅子は満席だった。二人掛けの席に一人で座っていたのは申し訳無いが一言くらい声をかけてほしい。


「もうちょっと向こうに行けよ」


(へ……?)


 男の子は本を見ながら呟いた。


「狭いだろ」


「え……と。バッグ踏んでます……」


 男の子は本から顔を上げると舞の顔を見るなりギョッとした顔で立ち上がった。

「うわっ!」

「な……何っ?」

「すみません! 席間違えました」


 男の子はペコペコと頭を下げるとそそくさと席を離れ、隣の二人がけの席に座った。男の子の友達がお腹を抱えて爆笑している。


 舞はバッグを手繰り寄せ席を立った。


――


 一息つこうと、舞は館内にあるカフェにやってきた。名物のカフェラテがあると聞いていたのでそれを飲むのも今回の楽しみの一つだった。

カフェの前のメニューを眺めていると、トントンと後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返ると先程の男の子が息を切らして立っている。


「さ……さっきはすみませんでした。あの……これ……」

 男の子は舞のハンカチを手に持っていた。

「椅子に忘れていたみたいで……。俺が踏んでバッグから落ちちゃったんだと思います」


 もしかして、館内を探し回ってくれたのかと舞は申し訳なく思った。


「わざわざ持って来てくれたんですね。ありがとうございます」

 舞はハンカチを受け取るとバッグにしまった。

「あの……あの後すぐに席を立ってしまったので……俺が原因でしたら気にしないでゆっくりしてください……俺が言うのも変なのですが」

「いえ、本はゆっくり読めたので今度はカフェラテでも飲もうと思って。気にしないで下さい」

 男の子は、ホッとした顔をした。

「じゃあ」

 男の子は一礼すると去って行った。舞はカフェに入るとラテアート入りのカフェラテを堪能してから館内を散策し、食堂やサクラタウンにも足を運んだ。


 あっという間に時間が経ってしまい外は暗くなってしまった。帰宅しようと神社や鳥居を通り抜け階段を下っていると、先程の男の子が前を歩いているのを見つけた。舞は驚きと共に何とも気まずい気持ちで歩を緩めたとき、男の子が後ろを向いた。


「あ……」


 二人の声が重なった。

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